テラーノベル
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翌朝。病院の廊下には、カーテン越しに差し込む朝日がやわらかく伸びていた。
灯は、隣の様子が気になっていた。
晶哉と名乗った青年。
昨日ほんの少し交わした言葉が、ずっと心の中に残っている。
『……おはようございます。』
廊下で顔を合わせたとき、晶哉が先に声をかけてきた。
その笑顔はやっぱり、どこか人を安心させる不思議な力があった。
「おはようございます。もう慣れました?」
『うん、でもベッドがちょっと硬いかな。まあ、僕が柔らかすぎるのかも笑』
「ふふ、確かに細そう」
『それよく言われます。おかけで検査の時、採血の失敗率高めです笑』
軽い冗談話を交わしながら、自然と2人は病院の屋上に足を運んだ。
屋上に行くと、風が吹いていて気持ちよかった。
遠くでは海がキラキラと輝いている。
「私、ここ意外と好きなんだよね。」
灯がポツリ呟くと、微笑みながら晶哉が見つめる。
『灯さんは、いつからここに?』
「半年以上……多分、もっとかも……。」
『……辛くないですか?』
「辛くないって言ったら嘘になるけど、もう慣れた。慣れるしかないの……笑」
灯は笑ってみせたが、その笑顔はどこか苦しげだった。
晶哉は、それを見逃さなかった。
『僕も、多分長く居ると思う』
「そうなの?」
『うん。でも僕の病気は……まぁ、治るものじゃないから。』
その一言で、灯は目を見開いた。
でも、晶哉は話続けた。
『びっくりさせた?でも僕ね、病気だからって人生が止まったわけじゃないって、最近ようやく思えるようになったんです。』
「……羨ましいな」
『え?』
「私は……止まったままな気がして」
ふたりの影が、風に揺れていた。
病院の屋上という限られた世界で、同じ時間を生きている。
同じように、何かを失って、何かに怯えている。
『また話しませんか?灯さんのことも、聞かせてほしい』
「……うん。話すよ。いつか、ね……。」
ふたりの間にあった距離が、ほんの少しだけ、縮まった。