TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「……痣も、気がかりだけれど」


そう前置きしてから、お姉様は窓を開け放った。

新鮮な外気を、胸いっぱいに吸い込む。


「まずは――生きている人たちを、探しましょう!」


迷いのない、力強い声。

聖女の跡継ぎとしての覚悟が、はっきりと滲んでいた。


「はい」


「……はい」


私とアランの返事が、ぴたりと重なる。


……とても、不快だった。


別に。

意図して合わせたわけではない。

ただ、同じ判断に至っただけだ。


それでも。

お姉様の言葉に、同時に応えた事実が、

どうしようもなく、癪に障る。


「では、移動しましょうか」


そうして、私たちは屋敷の外へと向かった。





「レイラ様、どちらへ移動なさいますか」

「そうね……」


お姉様が行き先を考えている間、

私は少し距離を取り、周囲の警戒に回っていた。


……そのはず、だったのだけれど。


「……なんで、アランと同じような痣が出たのかしら」


ふと、首元に視線を落とす。


「……どうせなら、お姉様と同じが良かったわ……」


一瞬浮かんだ本音に、すぐさま眉をひそめる。


「――やっぱりダメ」

「お姉様の白い肌に、痣なんて相応しくないわ」


自分で言って、自分で否定する。

傍から見れば、ずいぶん奇妙な光景だろう。


……幸い、誰にも見られていない。


そう思った、その時だった。


ガサガサ、と。

背後の茂みが、小さく揺れる音。


「っ、燃――」


反射的に魔力を練り、振り返る。


そして、目に入ったのは。


「……犬?」


そこにいたのは、まだ子犬だった。


「……ワン……」


すすで汚れた毛並み。

身体のあちこちに、かすり傷。

震えながらも、必死にこちらを見上げている。


「……可哀想に」


この騒ぎで、母犬とも、兄弟とも、はぐれてしまったのだろう。

ここで一匹きり――それが、この世界で何を意味するかは、分かっている。


「ねぇ……私たちと、一緒に来る?」


自分でも分かっている。

こんな時に、何を言っているのだろう、と。


それでも。

小さな命を、見捨てることは出来なかった。


幼い頃の私には、

姉という――たった一人の味方がいた。


だから、生きてこられた。


けれど、この子は?


今、ここで見捨ててしまったら。

次に手を差し伸べてくれる存在など、

もう、現れないかもしれない。


だからこれは、ただの気まぐれ。

……そういうことにしておく。


「……イリア様?」


背後から、聞き慣れた声。


……最悪。


都合の悪い場面を、

よりにもよって、アランに見られてしまったらしい。


私はゆっくりと振り返り、

子犬を庇うように、一歩前に出た。


「なによ」


つい、刺々しい声になる。


「別に……変なこと、してないわ」


アランは何も言わず、視線を私の足元へ落とした。

震えながら、私の裾に鼻先を押し付ける子犬を見て――


一瞬だけ、言葉を失ったようだった。


「……状況が、状況です」


慎重に選んだような口調。


「このままでは、生き延びられないでしょう」


「分かってるわよ」


だから拾ったのだ。

言わなくても、そんなことくらい。


「私が守る。……それだけよ」


アランは、ほんの僅かに目を細めた。


「イリア様が?」


「悪い?」


挑むように睨みつける。


「……いいえ」


意外にも、否定は返ってこなかった。


「合理的です。放置すれば、鳴き声で屍人を引き寄せる。

保護した方が、安全でしょう」


……理屈で言われると、腹が立たないのが余計に腹立たしい。


「それに」


アランは一歩近づき、しゃがみ込む。

子犬と視線を合わせ――


その瞬間。


私の首筋が、かすかに熱を帯びた。


「……っ」


同時に、子犬が小さく鼻を鳴らす。


「ワン……」


「……今の、感じた?」


「……ええ」


短い沈黙。


アランの首元にも、

同じように、微かな光が走っていた。


「……この子」


「痣に、反応していますね」


アランの声は低く、確信めいていた。


「……気味が悪いわ」


「同感です」


そう言いながらも、

彼の手は、子犬を遠ざけようとはしなかった。


「名前を……」


言いかけて、私は口を噤む。


「……いえ。何でもない」


まだ、拾っただけだ。

名前を付けるほどじゃない。


――そう思いたいのに。


子犬は、

私とアランの間に座り込み、

どちらにも等しく尻尾を振った。


……最悪だ。


「行きましょう」


私は子犬を抱き上げる。


「置いていく気は、ないから」


「……承知しました」


アランはそう答え、

私の半歩後ろを歩き出した。


子犬の体温が、腕に伝わる。


そして、首筋の痣が――

消えることなく、静かに脈打っていた。


性悪令嬢は屍人が蔓延る世界でお姉様を守りたい

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚