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恋愛感情はありません

3 - 誰にも言えない事

♥

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2025年06月07日

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それから毎日のように、放課後になると優羅と美咲は屋上で会うようになった。

まるでそれがルールであり、誰にも知られてはいけない“儀式”のように。


教室では、ふたりは別々の顔をしていた。


優羅は相変わらず目立たない。声をかけられれば静かに答えるけれど、自分からは何も言わない。

美咲は逆に、明るく振る舞っていた。クラスではよく笑っていたし、時には男子にからかわれても「やめてよー」なんて笑っていた。


でも、屋上に来たときだけ、ふたりは仮面を脱ぎ捨てる。


「今日さ、また腕やっちゃった」


「…深くない?」


「見せたいわけじゃないけど、見てくれるのは優羅さんしかいないから」


そう言って、美咲は自分の手首を、そっと差し出す。

赤く滲んだ線に、優羅は指を添えることはしなかった。ただ、じっと見つめた。


「学校って、演技してる人ばっかりだよね」


「…私もだけどね」


「ううん、優羅さんは“何もしてない”から、本物っぽい」


「本物って…私、空っぽだよ?」


「その空っぽが、落ち着く」


その日、美咲はいつもより近くに座った。足が触れるくらい。

一瞬、優羅の心が跳ねたけれど、それを表に出すことはしなかった。


「もしさ、学校の誰かに“ふたりのこと”知られたらどうなると思う?」


「バカにされる」


「引かれるかも」


「“気持ち悪い”って言われる」


ふたりの口から出てきたのは、どれも過去に実際言われた言葉だった。


「でもさ、ここに来ると…なんか全部どうでもよくなる」


「…うん。私も」


沈黙のあと、美咲がポツリと口にした。


「優羅さんって、女の子のこと好きになったことある?」


その問いに、優羅はすぐに答えられなかった。


「“恋”っていうのが、そもそも分かんないんだよね。私、誰かに期待するのも、裏切られるのも、もうやめたから」


「…そっか。私も、わかんないや。恋とかじゃないけど、優羅さんといるときだけ、ちゃんと呼吸できる感じ」


「……私も、同じ」


それが“好き”という感情なのか、ただの依存なのか。ふたりには、まだ分からなかった。


だけど、誰にも言えない。

この関係が壊れてしまうことを、どこかで恐れていた。


誰かに見られたら終わる。

名前をつけられたら終わる。

ラベルを貼られた瞬間に、こんなにも静かで、優しくて、苦しい関係が――壊れてしまう。


「ねえ、お願いがあるの」


「なに?」


「私がここに来なかった日があったら、探さないでね」


「……それ、フラグみたいだからやめて」


ふたりで小さく笑い合った。

でも、その笑顔の裏には、互いに言えない“不安”が確かにあった。


それでも、手はつながない。

キスもしない。

抱きしめもしない。


でも誰よりも深く、強く、結びついていた。


“誰にも言えないこと”がある。

それは、たったひとりに伝わっていればいい。


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