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夏休みが目前に迫った七月下旬の週末、俺と美紅と母ちゃんは三人そろって東京の北の方にある山崎隆平の家を訪ねた。俺の小6の時のクラスメート、そして純の遺書に六人目として名前を書かれたやつ。そして純の幽霊が間違いなく次に襲って来るだろう相手。
隆平の住所は母ちゃんが警察に頼んで調べてもらったからすぐに分かった。この頃には警察も一連の中三連続殺人事件を、深見純の自殺に何か関係があるという見方をするようになっていたらしい。だから七人目である俺の母親の、そういう頼みはすぐに聞いてくれると母ちゃんが言っていた。
と言っても、さすがにその自殺した純の幽霊が犯人だなんて話は警察には言わないままだったが。
母ちゃんがあらかじめ電話で連絡していたから、隆平の家にはすぐ入れてもらえた。東京都内では珍しい一戸建ての家が多い地域で、隆平の家もそれほど大きくはないが庭までついてる一戸建てだ。
隆平の父親はけっこう有名な大企業の管理職だそうで、小学校の頃から隆平も金持ちのおぼっちゃんで通っていた。父親は不在で、母親が俺たちを応対してくれた。小学校の頃俺も会ったことがあるはずだが、よくは思い出せない。でもげっそり顔がやつれて、同じ年頃のはずの俺の母ちゃんよりずっと老けて見える。
おばさんは当然、例の連続殺人の事を知っていたし、隆平と俺が次に襲われる可能性がある事も理解していた。でも隆平のお父さんはそんな非科学的な話は相手にもしてくれず、その日も会社の接待ゴルフに出かけていたそうだ。
しばらく隆平のお母さんと話をして、とにかく俺が隆平に直接会って話してみることにした。おばさんが言うには隆平はもう一カ月ぐらい自分の部屋にカギをかけて閉じこもっているそうだ。きっと悟と同じで純の幽霊におびえているんだろう。
俺は二階に上がり、隆平の部屋のドアを叩きながら声をかけた。
「隆平! 雄二だ。遠野雄二だ。俺を覚えてるか? 開けてくれないか?」
するとドアの向こうでカチャッという音がしてドアがほんの少しだけ開いた。その隙間から、あの頃の面影のある顔が見えた。俺だと分かると隆平は俺の腕をつかんで引きずり込むようにして中に入れ、それからすぐにドアのカギをかけた。そして振り返った隆平の顔を見て俺は愕然とした。
なんてやつれ方だ! 隆平のお母さんも相当ひどかったが、隆平自身はもっとひどかった。まるで骨と皮のように痩せこけて、髪はバサバサ、全身から嫌な臭いがしていた。外出どころか風呂にもろくに入ってないんだろうな。そのくせ、目だけが獣のようにギラギラ光っている。
「雄二……おまえはまだ無事なんだな?」
そういう隆平の声には、何か感情が欠落したような響きがある。もう気が狂いかけているんじゃないか、そんな心配を感じるほどだ。
無理もない。小六の時の仲間が次々に無残な殺され方をして、その原因をこいつは知っていたんだから。いくら小学生のガキの悪ふざけの結果とはいえ、純が自殺した原因が自分たちだった事実も隆平は知っていたはずだ。
俺と違ってこいつにはそれなりに罪の意識もあったのかもしれない。その純の幽霊が今頃になって復讐に現れた。そして自分の順番が少しずつ迫って来る。精神的に耐えられなくなって当然だ。
隆平の最近の様子はおばさんから大体聞いていたから、俺はなんとか隆平を興奮させないように慎重に言葉を選びながら言った。
「いいか、隆平。落ち着いてよく聞いてくれ。俺が今日来たのはおまえを守るためだ。純の幽霊におまえが殺されるのを防ぐためだ」
「そ、そんな事が!」
「できるんだ! 実は悟が殺された時、俺は一緒にいたんだ。これは警察には内緒にしているけどな……そして俺もその時純の幽霊に襲われそうになった。でも俺はまだこうして生きている。だから、おまえを守る事も不可能じゃない……そうだろ?」