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ユキと離れ離れとなったアミとミオの二人は、広大なエルドアーク宮殿内をひた歩く。
「それにしても何よここは? 全然先が見えないじゃない!」
ミオの不満げな声が木霊する。優に半刻は歩いただろうか。未だに先が見えぬ程の一直線。このまま進んで良いものかの疑念は拭えない。
「それでも、先に進む以外に道は無いわ」
それでも歩みを止める訳にはいかないと、アミのそれは己を鼓舞する意味合いがあったのかも知れない。
「でも姉様? もし敵に襲われたりでもしたら……」
ミオの不安は尤もだ。今ユキはこの場に居らず、行方不明のまま。宮殿内には直属以上しか居ない事を考えると、会敵はそのまま死を意味する。
「その時は戦うだけよ。ユキ一人に全てを背負わせる訳にはいかない」
アミのそれは覚悟の顕れだった。直属以上とのレベル差は如何ともし難い。それはアザミとルヅキの強さを見て痛感している。それでも彼が居ないからといって、弱音を吐く訳にはいかない。
“ユキは決して弱音を吐かず、何度でも立ち上がって戦ったーー”と、アミは一番間近で見届けてきたからこその。
「それに……ユキは必ず追い付くと言った。私はそれを信じて進むだけよ」
それは彼に対する、絶対的な信頼と深愛。
「まあユキの事だから、何があっても約束は守るだろうけどね」
それはミオも同感だった。彼は何があっても守ってくれるーーと。久々にユキの居ないこの状況下に、少しばかり気が滅入ってしまっていたのかも知れない。
「さっさとこの通路を抜けて、ユキと合流しましょ姉様」
「ええ。必ず会えるわ」
再び合流出来ると信じてーー。二人は通路内を俄然邁進するのだった。
****
ーー暫く進む事、四半刻。漸く先が見えてきた。その間、敵との遭遇が無かったのは僥倖とも云えた。
「姉様、曲がり角が!」
直線通路の終着点。其処には右側へと続く道が。
「行くしかないわね……。ミオ、気をつけて」
其処が完全な死角となっているのにアミは危機感を覚えたが、当然行く以外の道は無い。勿論、細心の注意を払ってだ。
アミとミオの二人は、何時でも抜けるよう短刀の柄に手を添え、一度立ち止まる。曲がり角から何やら気配を感じるからだ。
“まさか……敵が待ち伏せを?
二人は固唾を飲み込む。
「ーーあっ!」
だが、それは杞憂に終わる。
「「ユキ!」」
二人は同時に声を上げた。曲がり角から躍り出たのは、紛れもなくユキの姿だったからだ。
「アミ? ミオ?」
ユキも二人に気付く。漸く三人は合流出来たのだ。
「ユキ、無事で良かった」
アミは急ぎユキの下へ駆け寄り、彼が無事であった安堵から抱擁する。
「ええ……私は大丈夫です。二人も無事で良かった。遅くなって済みません……」
ユキは遅れた事を詫びるが、その口調は何処か憂いを帯びていた。
「どうしたのユキ? 何か……あった?」
その憂いを、心境の揺らぎをアミはすぐに気付く。その言葉にユキは少しの間を置いて、何処か意を決したようにーー
「実は……先程冥王と会って、闘ってきました」
「えっ?」
まさかそんな事態になっていたとは露知らず、アミはユキの憂いがこの事に依るものだという事に驚愕。
「身体はーー怪我とかは大丈夫!?」
アミは思わず心配の声を挙げるが、最後に見た時と外傷は増えていない。だが闘ってきたという事実。それでも彼のその憂いの表情は、勝利してきたともまた異なる。
明らかに勝敗依然の何かがあったと見るべきだと。
「身体は大丈夫です。それよりーー」
ユキは二人を見据え、ゆっくりとこれまでの事を紡いでいく。
「貴女達に相談と、お願いがあります」
ノクティスとの会談。その時の事実と、避けられぬ運命をーー
「この世界は……もう終わりです。もうじき冥王の手により、この世の全てが宇宙の藻屑へと消え去る事になります」
初めて感じた恐怖と、絶対に避けられないこの世の終焉。そうユキは断腸の思いで、あの時の事を絞り出していた。
「えっ? ユキ……それって、どういう?」
突如宣告されたこの世の終わりに、アミは戸惑いを隠せない。というより、ユキの口からそんな言葉が出るとは思わなかったからだ。冥王との闘いで、彼の心境を揺るがす何かがあったとしても。
「ちょっとユキ!? アンタいきなり何言い出すのよ!」
声を荒げるミオもまた同感だ。
「どういう意味もこういう意味もありません。私達は思い違いをしていたんです。今この世界がまだ存続しているのは、冥王の戯れの一環に過ぎない事を」
ユキは二人にこれまでの事を、淡々と語っていく。
「冥王がその気になれば、この世界は何時でも終わります。そしてそれは、もう避けられない事となりました……」
この世界が確実な終わりを迎える、その恐るべき事実を。
「そ、そんな……」
「う、嘘でしょ? そんな事がある訳……」
俄には信じ難いユキの言葉に、アミとミオは上手く言葉は乗せれない。だが信憑性に乏しくとも、ユキが嘘を、もしくは冗談を言っていると思えなかったのは、彼の悲壮に満ちた口調からも如実に感じ取れた。
これまでに無い、独特の張り詰めた空気感が三人の間を包み込む。
「ですが、それを避けるというより、助かる方法が一つだけあります」
ユキはその空気を打ち消すかの様にーー
「この世界が消え去るのは避けられませんが、私が冥王の下へ行く事を条件に、貴女達二人だけは共に連れて行って良いと約束してくれました」
かつてのノクティスの条件を、そう二人へと提示していた。
「でも、それって私達以外は……」
「はぁ? ちょっと意味わかんないんだけど」
当然、アミとミオは突然の事に納得しきれないし、ミオに至ってはその意味を受け入れきれない。