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br視点_
夜の匂いは、きりやんの匂いによく似ている
冷たいようで、どこか温もりがあって
決して手のひらでは掴めない鋭い正義
「……ねぇ、今日も君は忘れたままだったね」
アパートの前、影の中からドアを見つめながらぶるーくは呟いた
腰を落とし、ドアノブに手を掛ける
鍵はもちろん、とうの昔に複製してある
扉を静かに開ける
風がふわりと流れ、君の部屋の匂いが胸を満たす
帰ってきた
いつもより少しコーヒーの香りが薄い
多分今日は飲む時間がなかったのかな
「ほらやっぱり疲れてる」
テーブルの上には資料の山
冷蔵庫の缶の位置も微妙に狂ってる
靴の向き
カーテンの開き具合
ブラインドの傾き
「君の生活、全部見えるよ」
「何が好きで、何を嫌うか」
「何時にいつも起きて、どんな風にため息を着くか」
まるで愛しい本を何度も何度も読み返すように、ぶるーくはきりやんの部屋を、ただ歩く
ソファに落ちた髪を拾い、枕の位置を微調整する
「今日君は、隣の署員と少し笑ってたね……あれは………………許せないな」
深く、冷たい吐息と共に、ぶるーくは携帯を取り出す
写真フォルダを開くと、望遠で撮ったきりやんの写真が、ずらりと並んでいた
笑っている顔、睨む顔、怒っている顔、
シャワーの後に濡れた髪でカーテンを閉める横顔
(全部、僕だけのモノ)
そう思うたび、心の奥でくすぐったい熱が広がっていく
「君は正義に縛られてるけど、僕はね……君に縛られてるんだ」
リビングに一輪、赤い花を置く
冷蔵庫に好きなカフェオレ
タンスにそっと赤い羽を紛れ込ませて
「君はきっと明日も僕を拒むんだろうな…………それでもいい」
「だって拒むってことは、僕の事をちゃんと意識してるってことでしょ?」
ぶるーくは寝室に向かう
手に掛けたドアノブを一瞬だけ躊躇して、そっと耳を壁につける
この奥には、狂おしいほどに愛おしいきりやんがいる
「おやすみ。きりやん。今日もちゃんと帰ってきたよ」
わざとらしく玄関のドアを音を立てて閉め、また静かに闇へ戻っていく
まるで何事もなかったかのように