テラーノベル
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元貴との関係を選んでから、僕たちは活動休止注意とはいえ次に進むために楽曲を作り、練習をして、ダンスをして···日々は忙しく過ぎていった。
元貴も落ち着いていて、僕は若井への気持ちを秘めたまま表面上は穏やか過ごしていた。
けど、最近になって気づいた事がある。
「···若井、昨日の夜どこか出かけてたの?」
「なんで?」
「服、取りに帰った時いなかったから···」
「···そう、友達と会ってて。けど飲み歩いてたわけじゃないし大勢と会ってたわけじゃないから」
別に責めるわけじゃなかった。
そんな権利もない。
でも、もしかしたら僕が元貴の家に泊まる時、若井も出かけてるんじゃないかなって思うようになっていった。
もしくは、誰かを家に呼んでいる。
なんとなく、朝帰った時の空気がいつもと違う時がある。
匂いとか、洗われたグラスとか、干されたタオルとか。
あんなに仲良くなっていたのにまた距離が開いたような気がしていた。
もっと若井の側にいたかった。
けど元貴の側にも居たいと思う。
どちらも本当の気持ちで、そのどちらもを両立させることはできないとわかっていた。
ある日、若井には元貴の家に泊まると伝えて元貴には今日は帰る、と言った。
家に若井は居なくて、その夜は遅くまで帰ってこなかった。
嫌な予感がして部屋でウトウトしながらも待っていた僕は若井が帰ってきた音で目を覚ました。
「いいの?同居してる人帰ってこない?」
「別に1人だし。朝までいていいよ」
「嬉しい、ねぇ私は若井くんのこと本当に好き、だから付き合ってよ」
「俺はそんなつもりはないって。そういうのは要らない」
「ひどーい、まぁそんなところも好きだけど」
よく聞こえる高い笑い声。
すぐにその声は喘ぎ声にかわった。
そのいやらしい声も、たまに混じる若井の声も···その全てが嫌だった。
嫌だ、嫌だ。
けど自分は元貴とそういうことをしておいて?
それに自分はただの同居人でしかないのに?
それでも耐えられない気持ちで僕はそっと気づけれないように家を出た。
若井との家にも居られず、元貴のところに行く気持ちにもなれなくて僕はネカフェでひと晩を過ごした。
もし自分が元貴も付き合ってなかったら少しの嫉妬心を表に出せただろうか?
けど元貴の為にも若井が好きなんて言い出せない。
狭い椅子の上で膝を抱えて考えてもなんの答えも出なかった。
朝になってそろそろ帰っただろうか、と玄関を開ける。
「···ただいま」
「おかえり、早いね」
「だめだった?」
「そんなわけないでしょ、ご飯食べた?···なんでそんな疲れた顔してるの」
若井の指が優しく僕の目元を撫でる。
いっそ帰ってこない方がいいって言ってくれたらいいのに。
優しくなければいいのに。
「ありがとう、若井は優しいね···」
「りょうちゃんにだからだよ。美味しい目玉焼き焼く。いっぱい食べよ」
若井が笑って朝食を作っていく。
昨日の女の人への態度とは全く違う優しさを感じであれは若井じゃなかったんじゃないかって思うくらいだった。
けど顔を洗おうと行った洗面所に落ちていた長い髪の毛を見て現実を知る。
そして自分がこんなにもあの女性に嫉妬していたと気づいた。
やっぱり嫌だ。
若井が他の誰かを抱くのが辛い。
若井が好きだ。
けど元貴も守りたい。
自分の中の嘘のない気持ちが僕を暗闇に引きずり込んでいくような気がして、鏡に写ったその顔は酷いものだった。
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