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元貴とりょうちゃんが付き合い出してから元貴は明らかに落ち着いた。
前みたいによく笑ったし、活動再開の目処も立って3人で前向きに話し合ったり笑い合ったりすることも増えていった。
けど、その裏で俺は苦しくて仕方なかった。
元貴がふいに見せる甘えるような仕草を笑って受け入れるりょうちゃんを見るのも、りょうちゃんだけが元貴の家に泊まって俺だけ1人家に帰るのも。
寂しくて、苦しくて。
今頃2人は抱き合ったり、キスをしたりしているんだろうとそんなことばっかり想像して勝手に傷ついて。
そんな夜に家に居られなくて街で適当に声をかけた人とひと晩を過ごすようになった。
好きでもなんでもない。
別に誰でも良かった。
どうでも良かった。
最低なことをしていると思った、でも寂しさは癒されたから俺はりょうちゃんがいない夜は外に出て名前も知らないような女と過ごす。
それを続けていると次第にいつでも会えるような都合のいい相手ができて家に呼んだりもした。
いつだって遊び相手を抱きながら考えるのはりょうちゃんのことだけだった。
夢の中で出てくるのは隣にいる人ではなくりょうちゃんだけだった。
そして思う、明日になったらりょうちゃんは俺のところに帰ってくる。
そうしたらまた一緒に過ごせるんだって。
だから帰ってきたりょうちゃんにお帰りと言って美味しいご飯を作る。
元貴のこともりょうちゃんのことも嫌いになりたくはなかったから。
“逃げる”ことでりょうちゃんにも元貴にも笑えるならそれでいいじゃないかと思った。
誰も傷つけないのだから。
バレてはいないし、バレたところで別に俺の為に泣く人なんかいない。
だから元貴に2人きりで呼び出された時、ギターのことかななんて考えていたくらいだった。
「2人きり?どうしたの、ギターのこと?」
「若井に聞きたいことがあったから···」
「なに?なんかあった?」
元貴が真剣な声を出してもまさかあんなことを聞かれるなんて、想像も出来なかった。
「若井は、本当はりょうちゃんのことが好きなんじゃない?遊び歩いてる理由はそれ?」
少しの間、息をするのを忘れるくらい驚いた。そしてその質問の2つとも答えはYesだった。
でもそんなこと言えるはずもなくて俺は質問に質問で返した。
「なんで?それに遊び歩いてるって···?」
「りょうちゃんが、泣いたから」
「は?」
「りょうちゃんが俺の前で泣き出した。自分がいない時、若井が女の人を家に連れ込んでるって。それもたぶん、1回とか2回じゃないし、恋人でもないって」
「なんで···」
なんで?
りょうちゃんは気づいてた?
でもなんでそれが泣くほどの事なんだ?
「···ごめん、軽率なことして。確かにそういう相手を家には呼んだ···りょうちゃんにはバレてないと思ってた。それにいない時ならいいかって。もうしない、確かに気持ち悪いよな、知らない人が来るのとか。すぐ謝るよ、もうしない。もう俺、帰っても」
もうしない、外で会えばいい。
りょうちゃんには謝ろう、泣くほど嫌なことしてごめんって。
嫌がるようなことをしたいわけじゃない。
···もしかして、知ってたからあの夜、りょうちゃんは俺を?
立ち上がって帰ろうとする俺はしっかりと元貴に腕を掴まれた。
まずい、と思った。
もう逃げられないと。
「待って。ちゃんと俺の質問に答えて。俺は若井がりょうちゃんのことをどう思ってるかを聞きたかった。別に遊ぶのとかは···良くないけど、いい。もう一回聞くよ、りょうちゃんのことが好き?俺が好きみたいに、好き?」
元貴の口調は優しかった。
責めるようなものじゃない、じっと俺を見つめて、まるで何もかも見透かすような瞳で俺を見ていた。
ごめん、元貴。
「好きじゃない。そういうんじゃない。ただ遊びで連れ込んだだけでりょうちゃんが理由じゃない。だから···安心して」
「······わかった」
ごめん、元貴。
俺は初めて元貴に嘘をつくかもしれない。
言えるわけない、言っても仕方ないことだから。
だってりょうちゃんは元貴と付き合ってるから、俺だけが好きでこんな想いをしてるなんて···惨めじゃない?
俺は元貴の顔を見ないようにして帰ろうとした。
「若井、りょうちゃんは若井にこのことは言わないでって言ったんだ。だから聞かなかったことにして、もう家には···」
「わかった。もうしない、約束するよ」
元貴はりょうちゃんが好きだから守るために俺にこっそり聞いたんだ。
家に帰りながら聞いてくれたのが元貴で良かった、と思った。
もしりょうちゃんに僕のことが好きなの?なんて、だからそんなことしたのなんて聞かれたら。
俺は嘘をつけなかっただろうから。
コメント
4件
う、わぁ⋯⋯優しい声でしっかり話を聞いてくれるけど、ある意味で修羅場だなあ😢
でも、この嘘も大森さんにはわかるんだよね...
若井 切なすぎる…💦