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24歳の冬。彼の住むところへ向かった。
もう一人暮らししているだろうから、家なんて見つからないだろうな。
そう分かっていても、手探りでもあなたを見つけると決めた心は揺らがなかった。
昔彼が教えてくれた町まで電車に乗って、バスに乗って、また電車に乗って、ようやく辿り着いた。
一晩安いホテルで過ごして、今日早朝から町を彷徨っていたおかげでまだお昼頃だけれど、1人でいると時間が長く思える。
町は彼が言っていたように海が綺麗で漁をしているようだった。
「牡蠣が取れるんだよ」と教えてくれた記憶が蘇る。
心地いい風が肌に触れた そのとき、近くで大きな音が聞こえた。
なにかが衝突したような一瞬の音だった。
周りにいた人たちが音のする方へ駆け寄って行くのにつられて、私も足を進めた。
なにかの事故なら誰かが困っているかもしれない。
走って行くとすでに何人か集まるように立ち止まっていた。
そこには、横転した小さなトラックと2人の男女が見えた。
トラックの運転手であろう男性と倒れた女性は意識があり無事そうだったけれど、もう1人の男性は出血がひどく、救急車が到着してすぐに運ばれた。
居眠り運転での事故のようで残念な出来事だった。
始めて来ても分かる、静かで平凡なこの町に事故なんて珍しいものだろう。
その場を立ち去るときには人が多くなっていた。
そして、結局その日は彼を見つけることはできず、家も分からなかった。
家を見つけても彼にとっては『実家』だし、元々画面越しで付き合っていた私が急に訪れても迷惑だと躊躇してしまった。
あんなに強く決意してここまで来たのにこの1日で心が折れそうになる。
昨夜泊まったホテルでまた過ごし、明後日まで見つからなかったら帰ろう、と今度は弱い決意をした。
いつまでもここに居られるわけではないから。
心残りなく過ごせたらそれでいいのかもしれない。
半分諦めた状態でその日は眠った。