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様々な思惑が交差する中、三者連合はヤンを代表として『暁』からの強奪品を手土産に『海狼の牙』への交渉を開始していた。
「港湾エリアを度々騒がせて申し訳ございません。ですが、これも我々の生活と権利を守るための戦い。どうか、お目こぼしを。こちらは細やかではありますが、ご挨拶の品です」
ビジネススーツに身を包んだヤンは、『海狼の牙』の事務所にて幹部であるメッツとの会談に臨んでいた。
手土産として金貨百枚相当の強奪品を馬車に満載しての来訪であり、それなりに自信を滲ませていた。
対するメッツは、強面な風貌に似合わぬ柔らかい笑みを浮かべながら応対していた。
「これはこれは、手土産持参とは痛み入ります。ここ最近の騒ぎに関して代表も随分と心配されておられます」
「代表にはご心配をお掛けしております。速やかに騒ぎを終息させ、港湾エリアに平穏を取り戻して魅せましょう」
「それは心強いですな、代表にも必ず伝えておきましょう」
「それで、代わりと言っては難ですが……無事に終息させたならば、第三桟橋の管理を是非我々にお任せいただきたいのです。もちろん!規定通りの上納金はしっかりと納めさせていただきますので!」
「ほほう、第三桟橋をあなた方に。確か三者連合という名前でしたか。しかし、シダ・ファミリーとリンドバーグ・ファミリーは長年対立関係であったことは我々も把握しておりますぞ?失礼ですが、ずっと連合を維持できるのですかな?」
メッツの疑問に対してヤンは涼しげに答える。
「ご心配には及びません。仰る通り、彼らはいずれ対立して潰し合う事になるでしょう。我々はそれを煽りつつ共倒れさせます。所詮は裏社会の組織。堅気である我々が治めるべきでしょう」
自信満々に答えるヤンに、一瞬だけ気付かれぬよう冷めた視線を向けるメッツ。だが直ぐに笑みを浮かべる。
「それは頼もしいことだ。代表も交易の安定化と港湾エリアのより良い発展を望まれています。事を為し遂げたならば、必ず代表に進言することを約束しましょう。口約束では心配ならば書類を用意しますが?」
「それには及びません。では私はこれで。もうしばらく騒がしくなることをお許しください」
一礼して部屋を後にするヤン。
「どうするんです?メッツさん」
部下の一人が声をかける。
「堅気崩れの奴が、身のほどを知らないらしい。手土産は受け取って構わん。この件は私がボスに伝えておく。他の連中には他言無用だ」
「良いんですか?」
「簡単な話さ。あんな連中にミス・シャーリィが破れる姿を想像できるかね?噂に惑わされず、ボスの意思を尊重するように引き締めておいてくれ」
「はい!」
シェルドハーフェン港湾エリアの中心にある三階建ての大きな屋敷。そこが『海狼の牙』の本部である。その三階にあるサリアの執務室。
「ボス、メッツです」
「……入りなさい」
入室すると様々な本や実験器具が並ぶ室内で、サリアは安楽椅子に座り本を読んでいた。
「読書中に失礼します」
「……構わないわ。それで、何かあった?」
ゆっくりと本から視線をメッツに向けるサリア。
「三者連合荒波の歌声を仕切ってるヤンと言う男が訪ねてきました。ボスの予想通り、『暁』からの強奪品を手土産に持ってきています」
「……それで?」
「騒ぎを起こしていることに対する詫びと、全てが片付いたら第三桟橋をくれとの嘆願でした」
「……大言壮語もそこまでいけば見上げたものね。現時点でさえ纏まれていないのに。大金を見て欲を出しちゃったかしら?」
「恐らくは。強奪品はどうします?ミス・シャーリィに返却しますか?」
「……好きに使って良いとシャーリィから言われてるわ。シャーリィからの贈り物として処理しなさい」
「分かりました。この件は『暁』に伝えますか?」
「……下手に動いて関係が露見するのも面倒よ。それに、あの娘は予想していた。伝えるまでもないわ」
「承知しました。それでは失礼します」
一礼して部屋を後にするメッツ。それを見送ったサリアは。
「……盤面は動き始めたわね。シャーリィが三者連合をどう料理するか、今から楽しみね」
そう呟き、本へと視線を戻すのだった。
一方ヤンが交渉のために不在の三者連合では、揉め事が発生していた。『暁』からの強奪により莫大な資金を得られたが、シダは後先考えずに部下達と豪遊して散財。対してリンドバーグはその資金を用いて装備の更新を行っていた。具体的にはマスケット銃やフリントロックピストルではなく、片落ちではあるが『ライデン社』のボルトアクションライフルと自動拳銃を『ターラン商会』経由で購入できるだけ購入した。
『ターラン商会』としても三者連合には活躍して貰いたいので、赤字を覚悟で割安で販売。だがここで三者連合内に装備の差が顕著に現れることとなる。
「ケチケチすんなよ、俺達は連合だろう?」
「冗談ではない。後先考えず散財したのはそちらではないかね?それで足りないから装備を寄越せとは、なんとも虫の良い話ではないかね?」
装備を更新したリンドバーグ・ファミリーを見てシダは装備の譲渡を要請。当然彼らの散財を見ていたリンドバーグはこれを拒否。両者は再び険悪な雰囲気となった。そしていつもならば仲裁するヤンの不在が両者の対立を決定的なものとしてしまう。
「ちっ、ケチな野郎だ。それなら仕方ねぇ、また奪いに行くだけさ」
「待ちたまえ、既に第三桟橋には何も残されていない。何処から奪うつもりかね?」
「当然第四桟橋からに決まってるだろ」
「!?正気かね!?彼処には第三桟橋と違い『暁』の警備隊の本隊が駐留しているのだぞ!」
シダの言葉にリンドバーグは驚愕した。作戦は順調ではあるがどう考えても『暁』と正面から戦う力はないと言うのが彼の見解であり、それは正しかった。
しかし度重なる成功と大金に目の眩んだシダにその懸念は臆病だと捉えられる。
「なんだぁ?また臆病風かよ?爺さん。これまでも奴等は逃げ回ってただろ。むしろ時間をかけたらあいつらが体勢を立て直しちまう。それまでに攻撃を続けるんだよ!」
「無謀だ!装備の質が明らかに違うのだぞ!」
「はっ!それなら俺達だけでやる
アンタらは指をくわえて見てな。分け前は無しだからな」
こうしてシダ・ファミリーが単独による攻撃を図る。対する『暁』はと言えば。
第四桟橋にはマークIV戦車を配置し、百人の完全装備の警備隊が駐留。更に交易から戻ったアークロイヤル号と海賊衆が待機していた。
桟橋で蒼髪隻眼の美女は腹心からの報告を受けていた。
「へぇ。それで、シャーリィちゃんの判断は?」
「仕掛けてきたら殲滅しろって話だ」
それを聞いてエレノアは獰猛な笑みを浮かべる。
「そりゃあいい。けど、単独の暴走だったらどうするんだい?他の奴等に逃げられるよ?」
「船長、うちのリトルボスがそんなヘマをすると思うか?」
「はははっ!無用な心配だったね。マクベスの奴は動けないだろうし、その時は私が指揮を執るよ。派手にやろうじゃないか」
三者連合は破滅への一歩を自ら踏み出すこととなる。