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シダ・ファミリーはその日の内に襲撃を決行することに決めた。ヤンが戻れば横槍を入れられると邪推した結果である。
ただ彼らとて欲はあるが愚かではなく白昼堂々と『暁』に仕掛けるような愚は犯さず、第三桟橋に潜んで夜を待った。
一方五十人の移動を隠すことは至難の技であり、この動きは十五番街に網を張り巡らせていた『暁』情報局に知られることとなった。
警報を受け取った第四桟橋警備隊は警戒を厳重にして襲撃に備えた。
エレノアは海賊衆の一部を率いて上陸し、警備隊の指揮を取る。湾内に待機しているアークロイヤル号は腹心のリンデマンが指揮を執り、状況次第ではQF4.5インチ榴弾砲による艦砲射撃の用意を行っていた。
だが余りにも大々的に備えると襲撃を躊躇される危険があったため、『暁』は数日前から準備を進めていた。先ずは逃走していた裏切り者のヘンリー伍長を捕縛して抹殺。
工作員の一人が彼に扮して第四桟橋の監視を請け負い、偽の情報を流し続けた。また襲撃当日は全ての明かりを消して人員も潜ませ無人を偽装する徹底ぶりであった。
『暁』は罠を仕掛け、襲撃者を殲滅すべく待ち構えていた。
一方シダ・ファミリーは、頭であるシダが最も信頼する腹心ジョセフに虎の子の五十人を預けて襲撃部隊を編制。監視しているヘンリー伍長から『暁』警備隊が一斉に『黄昏』へ逃げ込んだとの情報をもとに事前偵察を実施。
第四桟橋と倉庫群は明かりを灯さず静かなことを確認。闇に紛れての襲撃を決行した。
月明かりも少なく、まさに夜襲に最適な環境ではあったが、彼らは知るはずもなかった。今回の襲撃に備えて『猟兵』の一部が割かれていることを。
彼女達は森で狩猟を行い生きてきたエルフ達。当然人間より遥かに夜目に秀でており、リナ曰く僅かな月明かりがあれば昼間と変わらないくらいに見えると豪語するほど。
今回の襲撃に合わせて数名が倉庫群に潜伏して襲撃者を監視。充分に引き付けたら合図を送り警備隊による殲滅を支援。更に逃れたものを始末する任務を負っていた。
「そこまでやるかい」
「代表は殲滅を宣言されました。私達はその意思を忠実に実行するだけです」
『猟兵』を率いるリナから計画を聞いたエレノアは、苦笑いを漏らす他なかった。
「敵には同情するよ。シャーリィちゃんは相変わらず敵対者に容赦がないねぇ」
「身内である幸運に感謝しましょう。では、私達は潜みます。その時は合図を送りますから」
「ああ、任せときな」
更に言えば、万が一の備えとして上空に翼を広げたマナミアが待機していた。
「初仕事、下手を打って主様に失望されないようにしないといけないわね」
彼女の配下の二十人は次なる策に備えて既に十五番街深くへと潜入していた。
深夜、ジョセフ率いるシダ・ファミリー構成員五十人は強奪品を輸送するための馬車を数台伴って第四桟橋の区画へと侵入した。月明かりと松明の明かりを頼りに夜の倉庫群を進む。だがどの倉庫も空であった。
「あいつら、物資も『黄昏』に運び込んだんじゃねぇだろうな」
「だとしたら無駄足ですぜ、ジョセフの兄貴。どうしやす?」
「あの大きな倉庫を調べて中身が空なら引き上げるぞ。親父は残念に思うだろうがな」
シダ・ファミリー構成員は途中の倉庫を調べながら倉庫群の中心地へと進む。
「なんだか嫌な予感がしてきたな。誰かに見られているような……」
事実、倉庫の屋根を伝い音もなく身軽に動き回るエルフ達によってその行動は全て監視されていた。
「はぐれるなよ、こうもくらいと迷いそうだからな」
「へい」
暗闇の中、五十人は複数の馬車を囲みゆっくりと倉庫群を練り歩く。
そして彼らが規定の場所にたどり着いた瞬間、準備していたエルフの一人が|鏑矢《かぶらや》を放つ。それは甲高い音を響かせながら飛翔する合図であった。
次の瞬間倉庫群に設置されたあらゆる電灯が灯り、更に新配備された複数のサーチライトが襲撃者達を照らし出した。
「ぅっ!?なんだこれは!?」
突然真昼のように周囲が明るくなり困惑する彼らを待ち構えていた警備隊が包囲する。誤射を避けるため全員高所に陣取っていた。
「よぉ、こそ泥共。こんな真夜中にご苦労なこった」
一歩進み出たエレノアが手製のメガホンで語りかける。
「なっ!?てめえは!」
「お前らを招待した覚えはないんだが、せっかく来てくれた大切なお客様だ。盛大におもてなしをしないとうちの沽券に関わるんでなぁ?」
「ちぃ!嵌められたか!」
ジョセフは素早く周囲を見渡すが、完全に包囲されている事実に気付かされただけであった。
「んじゃ、おもてなしの時間だ。なに、遠慮すんな。腹一杯食えよ?」
その言葉と共に右手を振り上げると、警備兵達が一斉に小銃や機関銃を構える。
「まっ……!」
「撃てーっ!」
エレノアが右手を勢い良く振り下ろすと、凄まじい銃声が夜の倉庫街に響き渡る。
四方八方の高所から雨のように撃ち出される弾丸は襲撃者達や馬車を例外なく撃ち抜いていき、周囲は瞬く間に断末魔と夥しい血飛沫が上がる地獄と化した。
「前進!さあ行くぞ!」
更にこれが初陣となるマークIV戦車二両も参戦。味方の銃弾をものともせずに動き回り、馬車や襲撃者を踏み潰し搭載されている機関銃で薙ぎ払った。
「逃がさないよ?」
更に包囲から逃れようと逃げ出した者は『猟兵』のエルフ達が例外なく討ち取る。
「げっ!?」
「ぎゃっ!?」
「……ん」
しれっと参加していたアスカも逃げ出した二人に飛びかかり、短剣で素早く首筋を斬って始末する活躍を魅せた。
十数分後、射撃が中断されると広場には完全に蹂躙されたシダ・ファミリーの五十人が物言わぬ屍となって散乱していた。
生存者を完全にゼロとするべく、皆で死体を回収。広場に集めてマークIV戦車二両で入念に踏み潰す徹底ぶりをみせた。
「あーあ、嫌な音だよ」
人体が踏み潰され骨が砕ける音が響き、エレノアはうんざりと感想を漏らした。
対する戦車乗り達は初めての実戦で興奮しているのか、何度も何度も死体を蹂躙していった。
「作戦成功、侵入者と死体の数が一致しました。生存者は無し。生き残りも居ません。死体も片付けますし、彼等がここに居た痕跡も残しません」
「それじゃあ、予定通り次の段階に進みましょうか。今夜、あちらでも騒ぎが起きてる筈よ」
「本当、三者連合の奴等には同情するよ。シャーリィちゃんを敵に回す意味を理解するだろうさ。あの世でね」
リナとマナミアが暗い笑みを浮かべ、エレノアは心底同情したように苦笑いを浮かべつつ肩を竦める。
同時刻、シダ・ファミリーに扮した『暁』の工作員達が十五番街で暴れまわり、特に『血塗られた戦旗』の所有する不動産を片っ端から荒らし回った。
それは三者連合の不和を利用し、シダ・ファミリーの襲撃を逆手に取ったシャーリィの策略が開始された瞬間でもあった。