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#二次創作
ふゅう@不定期
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#CR
兎ゞ亜 @はじめたばかり
11,532
雨だった。
空は低く暮れなずむ夕暮れ、街は汚れていた。
堕天使たちの縄張りから少し外れた廃地区。
かつて人が住んでいた名残だけが残る路地裏を、金色の彼は一人歩いていた。
白い翼を畳み、煙草を咥える。
仕事帰りだ。
気分は最悪。
上から無茶な命令を押し付けられ、その尻拭いをしてきたばかりだった。
「……帰りたいわ」
誰もいない夜に呟く。
当たり前に返事はない。
こんな場所に好き好んで来るやつはいないのだ。
普通なら。
「⋯ぁ、?」
足が止まる。
視界の端。
ゴミ袋の山の向こう。
何かが倒れていた。
最初は死体だと思った。
この辺りじゃ珍しくもない。
だから無視しようとした。
けれど。
見えてしまった。
雨に濡れた肌。
青い。
異様なほど青い。
「……は?」
煙草が手から滑り落ちた。
近付いて、そっと肌に触れる。
呼吸はある。
まだ生きている。
若い。
今や長寿種が世界の大半を占めるこの世の中でも、明らかに若い。
おそらく、金色の彼よりもずっと若いだろう。
少年にも見える顔立ち。
だが問題はそこじゃない。
頭の角。
肌の色。
そして、首。
喉が裂かれていた。
ひどい傷だった。
肉が抉れ、血が雨に流されている。
普通なら死んでいる。
生きている方がおかしいほどの傷。
「おい」
反応は無い。
「聞こえとるか」
少年の瞼が震えた。
ゆっくり開く、紅い瞳。
背筋が凍った。
青鬼。
ありえない。
数百年生きてきて、噂には聞いたことがあるけれど、見たことは一度もない。
いるとも思っていなかった。
希少種。
特別な能力を持つ、伝説の種族。
裏社会では城一つ建てられるほどの値段で取引されるといわれる、”化け物”。
それが、青鬼。
「……マジかよ」
雨音だけが響く。
少年はぼんやりとこちらを見ていた。
怯えもない。
警戒もない。
ただ。
死にかけの獣みたいな目だった。
✦
連れて帰った。
正確には、放っておけなかった。
見つかったら面倒だったからだ。
他の連中に見つかれば即座に売られる。
その前に自分が売れば、金になる。
けれど。
何故か、それをしたくなかった。
理由は分からない。
少年を部屋へ運んでベッドに寝かせる。
喉の傷を見る。
あらためて見てもひどい。
でも。
「⋯治せる」
金色の彼にはその力があった。
彼の種族、堕天使の中でも珍しい能力。
失われた肉体を修復する力。
代償は重いが、今この青鬼に死なれるよりマシだ。
「……動くなよ」
少年に告げる。
聞いているかも分からないが。
手を伸ばす。
淡い光が溢れて、傷口を包み込む。
肉が再生する。
裂けた皮膚が繋がる。
血が止まる。
そして、数分後。
喉の傷は跡形もなく消えていた。
完治。
完璧に。
能力を使い終えた彼は息を吐く。
「これで喋れるやろ」
そう言った。
けれど。
少年は何も答えなかった。
✦
三日後。
少年は生きていた。
飯も食う。
歩ける。
眠る。
傷はない。
問題は何もない。
なのに。
喋らない。
「おい」
金色の彼の呼びかけに、少年は振り返る。
「名前は?」
沈黙。
「聞こえとるやろ」
こくり、と頷く。
「じゃあ喋れ」
沈黙。
「喉、まだ痛いんか?」
首を振る。
「は?」
また、沈黙が落ちる。
「……お前なぁ」
治っている。
それは間違いない。
なのに、喋らない。
意味が分からなかった。
「⋯まぁ、ええわ」
堕天使である彼には、時間は幾らでもあった。
✦
一週間後。
上司にバレた。
当然だった。
青鬼なんて隠し通せるわけがない。
豪奢な部屋。
高い天井。
金色の彼は跪いていた。
その前にいる男が笑う。
「青鬼を拾ったそうだな」
「⋯⋯⋯」
「渡せ」
彼は黙る。
男が続ける。
「金は出す」
「別に金はいらへんのやけど」
「なら地位をやる」
「いらん」
沈黙。
空気が冷える。
男は椅子に背を預けた。
「お前は勘違いしている」
その声だけで、空気が凍る。
「命令だ」
彼は目を伏せた。
分かっている。
逆らえない。
この世界はそういう仕組みだ。
堕天使は階級社会。
上が絶対。
下は従うだけ。
だから。
本来なら。
「……少し待ってください」
そう言うべきではなかった。
帰宅すると、青鬼の少年は窓際に座っていた。
夕焼けを見ている。
茜色の光が、青く透けた肌を照らす。
どこか綺麗だった。
不覚にも、そう思った。
「おい」
彼の声に、少年が振り向く。
「お前、いつまで喋らんつもりや」
沈黙。
「俺が困るんやけど」
静かに、時間だけが過ぎていく。
「なんか言えや」
すると。
青鬼は少しだけ笑った。
声はない。
けれど、確かに笑った。
金色の彼は固まる。
その顔を初めて見たから。
死にそうな顔しか知らなかったから。
「……」
青鬼は立ち上がって机へ向かう。
そこに置かれていた、一枚の紙を取った。
何かを書く。
そして差し出した。
そこには、たった一言。
『ありがとう』
とだけ書かれていた。
その字を見た瞬間。
なぜか。
胸が少し痛んだ。
青鬼は知らない。
金色の彼が、もう命令を受けていることを。
彼もまた、知らない。
青鬼が本当は喋れることを。
そして、二人とも知らない。
この穏やかな日々が、
そう長くは続かないことを。
NEXT=♡1000
新連載です。
1話ずつ長いですが読んでいただけると嬉しいです(人*´∀`)。*゚+
ちなみに10話完結です。ご了承を。