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あまおう
73
ホウ酸
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#らっだぁ
れーん🌸
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朝。
静かだった部屋に、小さな物音が響く。
かちゃっ。
かたん、からん。
金色の彼は眉を顰めた。
眠い。
とんでもなく眠い。
昨日は帰宅が遅かった。
上司からの仕事を押し付けられ、深夜まで飛び回っていたのだ。
だから、今日は昼まで寝る予定だった。
それなのに。
かちゃっ。
ひとつ、またひとつと音が鳴る。
「……なんやねん」
低く呟く。
重い瞼を開く。
眩しい。
差し込む朝日。
見慣れた天井。
そして。
見慣れない光景。
「…………」
キッチンに青鬼がいた。
思わず固まる。
青鬼も固まった。
数秒。
沈黙が続く。
そして。
ぼんっ
鍋から煙が上がった。
「あっ」
初めて聞いた声だった。
その瞬間。
二人とも止まった。
青鬼は目を見開いて、自分の口を押さえる。
金色の彼もまた、ベッドの上で固まる。
「……今」
沈黙。
「喋った?」
ぶんぶんぶん。
すごい勢いで首を振る少年。
「いや喋ったやろ」
ぶんぶんぶんぶん。
「喋ったわ」
青鬼は顔を背けた。
耳が少し赤い。
金色の彼は思わず吹き出した。
「なんやお前」
笑う。
久しぶりに心から笑った気がした。
結局、朝食は失敗した。
青鬼のつくったものは、見事なまでに焦げたナニカ。
真っ黒だった。
どう見ても食べられない。
青鬼はわかりやすく落ち込んでいた。
机に突っ伏している。
「別に怒っとらんて」
肩がぴくりと動く。
「つーか、料理できると思っとらんかったわ」
青鬼は顔を上げる。
少し考えて、紙を持ってさらさらと何かを書く。
『できる』
「できてへんやん」
『今日は失敗』
「大失敗や」
むすっとした表情をする青鬼。
それが少し面白かった。
その日の昼。
金色の彼はふと思い出した。
「そういや」
本を読んでいた青鬼が顔を上げる。
「名前」
きょとんした表情。
「まだ聞いてへんかったやろ」
沈黙。
「どう呼べばええかわからんねん」
少し考える少年。
それから、紙を引き寄せた。
ペンを持つ。
迷うように止まる。
数秒後、さらさらと文字が書き出された。
そして差し出された紙切れ。
そこには、
『らっだぁ』
と書かれていた。
らっだぁ。
変わった名前だと思った。
「らっだぁ」
呼んでみる。
青鬼――”らっだぁ”が、顔を上げる。
「らっだぁ」
もう一度。
今度は少しだけ目を細めた。
笑ったのだろう。
きっと。
「……へぇ」
どこか、少しだけ嬉しかった。
「⋯俺は、金豚きょーや」
青鬼が首を傾げて、紙に何かを書く。
『どう呼べばいい?』
それが、少し予想外で。
驚きながらも、金色の彼はその質問に答えることにした。
「きょー。きょーって呼んだらええで」
長らく呼ばれていなかった名前。
『きょーさん』
それを呼ばれただけ。
それだけで、限りなく喜びが溢れた。
それはきっと、青鬼の少年も。
✦
それから、名前を呼ぶことが増えた。
「らっだぁ」
振り向く。
「らっだぁ」
頷く。
「らっだぁ」
紙を投げてくる。
その度に。
少しずつ。
少しずつ。
距離が近付いていった。
✦
一ヶ月後。
金色の彼が帰宅すると、部屋が明るかった。
誰かが待っている部屋。
そんなものは何百年ぶりだろうか。
玄関を開ける。
すると、らっだぁが駆け寄ってきた。
紙を突き出す。
『おかえり』
思わず止まる。
たった四文字。
それだけなのに。
胸の奥が妙に温かかった。
「ただいま」
自然と、そう返していた。
その日からだった。
らっだぁのいる場所が、帰る場所になったのは。
✦
冬が来る。
雪が降る。
窓辺でらっだぁが空を見ている。
珍しそうだった。
金色の彼はコーヒーを飲みながら笑う。
「雪初めてなんか?」
らっだぁは頷いて、窓の外へ手を伸ばす。
雪が落ちて、掌で溶ける。
それを楽しそうに何度も繰り返す。
子供みたいだった。
「お前何歳なん」
紙を出して答えるらっだぁ。
『ひみつ』
「教えろや」
『やだ』
「なんやそれ」
笑う。
らっだぁも笑う。
相変わらず、声を出すことはない。
でも、確かに笑っていた。
気付けば、喋らないことなんてどうでもよくなっていた。
最初は理由を知りたかった。
治したはずだから。
不思議だったから。
でも。
今は違う。
紙でもいい。
頷くだけでもいい。
隣にいるならそれでいい。
そう思うようになっていた。
だから。
ある日。
らっだぁが寝た後。
金色の彼は一人で煙草を吸いながら呟く。
「渡したないなぁ」
小さく。
誰にも聞こえない声で。
命令には従わなければならない。
分かっている。
逆らえば終わりだ。
地位も。
生活も。
命も。
全部失う。
それでも。
窓越しに見える寝顔を見ていると。
どうしても思ってしまう。
もっと。
もう少しだけ。
この時間が続けばいいのに。
部屋の中では、らっだぁが眠っていた。
静かな寝息。
穏やかな表情。
幸せそうだった。
そして。
その寝顔を見ながら。
金色の彼は知らない。
らっだぁが。
眠ったふりをしていることを。
薄く開いた瞳が。
こちらを見ていたことを。
だから。
その夜、誰にも聞こえないように。
らっだぁは毛布の中で小さく唇を動かした。
「……きょーさん」
治っていた。
ずっと前から。
喉なんて。
とっくに。
けれど。
その声を聞いた者は、
誰もいなかった。
NEXT=♡1000
コメント
7件
頼む…このまま幸せに生きてくれ…きょーさんの上司いらんことすなよマジで
展開神すぎる!!渡したくないなんて言われたららっだぁ絶対嬉しくない?!きょーさんのこと助けるのってできるのかな? てからっだぁ可愛すぎん??丸焦げになって落ち込んでるところも名前呼ばれて喜んでるところも! 続き楽しみに待ってます✨