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#真似すんな
昼過ぎ。
人通りの多い通りにある、普通のカフェ。
ガラス張りで、明るくて、
昨日のバーとは真逆の空気。
「……なんでここ」
エリオットがメニューを見ながらぼそっと言う。
「普通に飯食うだけだろ」
チャンスは当たり前みたいに答えて、
水の入ったグラスを指で軽く回す。
「文句あんのか?」
「……別に」
即答。
でも、その“別に”がもう怪しい。
注文を済ませて、
料理が来るまでの間。
沈黙。
昨日なら平気だったはずの沈黙が、
妙に気になる。
(……近くないか)
向かいに座ってるだけなのに、
やけに距離を意識する。
視線を上げると、
チャンスと目が合う。
「……なに」
「いや?」
すぐ逸らされる。
それがまた気になる。
(なんだよその“いや?”)
なんでもない感じが、逆に引っかかる。
「……お前さ」
エリオットが先に口を開く。
「昨日のこと」
「ん?」
「……忘れてないよな」
聞き方が微妙に不器用。
チャンスは一瞬だけ考えて、
「忘れるわけねぇだろ」
ってさらっと返す。
その言い方が、やけに軽い。
「……っ」
エリオットの指が、テーブルの上で少しだけ動く。
「……へぇ」
興味なさそうに返すけど、
明らかに気にしてる。
チャンスはそれを見て、
わざと少しだけ身を乗り出す。
「なんだよ」
「別に」
「気にしてんのか?」
「してない」
即答。でも早すぎる。
チャンスは小さく笑う。
「してる顔だな」
「してないって言ってるだろ」
少しだけムキになる。
そのタイミングで、料理が運ばれてくる。
「お待たせしました〜」
空気が一瞬リセットされる。
「……食うか」
「……うん」
ぎこちない。
フォークを手に取るタイミングまで被る。
「……」
「……」
また目が合う。
すぐ逸らす。
(なんだこれ)
エリオットは内心で舌打ちする。
(普通に飯食うだけだろ……)
なのに、
チャンスが水を飲む仕草とか、
何でもない動きが妙に気になる。
(……昨日のせいだ)
思い出した瞬間、耳が少し熱くなる。
「……顔赤くね?」
「赤くない」
即答。
でも完全に赤い。
チャンスは少しだけ笑って、
何でもない顔で言う。
「昨日の事でも思い出したか?」
「っ……!」
フォークが止まる。
「思い出してねぇよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃない」
でも声がちょっと上ずってる。
チャンスはそれ以上は突っ込まない。
代わりに、普通に食べ始める。
その“普通さ”が、逆にずるい。
(なんで平気なんだよ……)
エリオットはじっと見る。
「……なぁ」
「ん?」
「お前さ」
少しだけ間。
「……なんとも思ってないの?」
ぽろっと出る。
自分でも意外なくらい、素直な声。
チャンスは一瞬だけ手を止めて、
エリオットを見る。
「何が」
「……だから、その」
言葉に詰まる。
でも逃げるのも悔しくて、
「昨日のこと」
って言い切る。
数秒、沈黙。
チャンスはゆっくりフォークを置いて、
それから、少しだけ前に身を乗り出す。
「思ってるに決まってんだろ」
低い声。
さっきまでとトーンが変わる。
「じゃなきゃ、今こうなってねぇよ」
「……」
エリオットの呼吸が一瞬止まる。
「こうって……」
「さっきからずっと」
視線を外さないまま、
「お前のこと見てんのも」
さらっと言う。
「……っ」
エリオットの顔が一気に熱くなる。
「見てねぇだろ」
「見てる」
即答。
「目合うたび逸らすの誰だよ」
「それは……!」
言い返せない。
チャンスは少しだけ笑って、
「ほらな」
って軽く言う。
でもそのあと、少しだけ声を落とす。
「……昨日の続き、気になるか?」
その一言で、
空気がまた変わる。
カフェのざわめきの中で、
そこだけ少しだけ濃くなる。
エリオットは一瞬だけ黙って——
「……別に」
って言うけど、
今度は全然誤魔化せてない。
チャンスはそれを見て、
ほんの少しだけ楽しそうに目を細める。
「そうかよ」
あえて引く。
でも——
テーブルの下で、軽く足が触れる。
「っ……」
エリオットがびくっとする。
「なにして——」
「何も」
平然とした顔。
でも、足は離れない。
軽く触れたまま。
逃げられない距離。
「……お前さ」
小声で言う。
「ここ外」
「知ってる」
「……人いる」
「いるな」
全部分かっててやってる。
エリオットは数秒黙って、
それから小さく、
「……ずるい」
って呟く。
チャンスはそれを聞いて、
少しだけ笑う。
「昨日言っただろ」
低く、静かに。
「中途半端はやめろって」
「……」
「気になるなら、ちゃんと来いよ」
テーブル越しに、視線を絡める。
逃げ場はない。
でも今度は——
嫌じゃない。
エリオットはゆっくり息を吐いて、
「……じゃあ」
小さく言う。
「帰ったら、な」
少しだけ目を逸らして。
でも逃げてない。
チャンスは一瞬だけ止まって、
それから、ふっと笑う。
「了解」
軽く答える。
その一言で、
“続きがある”のが確定する。
カフェの中なのに、
二人の間だけ、まだ少しだけ熱が残っていた。
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