テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
店を出たあと。
昼の光はまだ残ってるのに、
さっきまでの空気がそのままついてきてるみたいだった。
「……」
「……」
並んで歩いてるだけ。
なのに、さっきテーブルの下で触れてた感覚が、
まだ残ってる。
(……くそ)
エリオットはポケットに手を突っ込んで、
わざと前を向く。
隣を見ない。
見たら——余計に意識するから。
「どこ行く?」
チャンスが軽く聞く。
「……どこでも」
投げるみたいな答え。
でも、完全に“どこでもよくない”。
チャンスはそれを分かってる顔で、
少しだけ歩く速度を落とす。
「じゃあ——」
細い路地の方へ、さりげなく曲がる。
人通りが、ぐっと減る。
「おい」
エリオットが少しだけ眉を寄せる。
「こっち何もないだろ」
「そうだな」
平然と返す。
でも、その声が少し低い。
さっきより近い。
気づいたら、距離が縮まってる。
「……」
エリオットの喉が小さく動く。
(やばい)
分かってる。
この流れ、分かってるのに——
止まれない。
「なぁ」
チャンスが呼ぶ。
すぐ横で。
「……なに」
視線を向けた瞬間、
腕を引かれる。
「っ……!」
壁に、軽く押し付けられる。
音が、やけに大きく響いた気がした。
「……我慢できねぇんだろ」
低い声。
逃げ場は、もうない。
「……お前がな」
言い返すけど、
声が少しだけ揺れてる。
チャンスはそれを見て、
少しだけ笑う。
「どっちもだろ」
距離が、近い。
さっきのカフェとは違う。
誰も見てない。
「……っ」
エリオットが何か言おうとした瞬間、
指で軽く顎を上げられる。
「帰ったらって言ってたよな」
「……言った」
「でも」
少しだけ顔を近づけて、
「無理だ」
そのまま——
触れる。
今度は、さっきみたいな焦らしはない。
でも荒いわけでもない。
“抑えてた分”がそのまま出たみたいな温度。
「……っ、ん……」
エリオットの手が、
無意識にチャンスの服を掴む。
押し返すでもなく、
完全に受けるでもなく——
引き寄せてる。
「ほら」
一瞬だけ離れて、
「ちゃんと来いって言ったろ」
低く囁かれる。
「……来てるだろ」
小さく返す。
でも、その声はもう完全に違う。
さっきの強がりじゃない。
チャンスはそれを聞いて、
少しだけ満足そうに目を細める。
「ならいい」
また距離を詰める。
今度はエリオットの方から、
ほんの少しだけ先に動く。
「……っ」
触れる寸前で、息が重なる。
その一瞬が、やけに長い。
さっきまでの我慢が、
全部ほどけていくみたいに。
路地裏の静けさの中で、
足音も、声もないのに、
二人の距離だけが——どんどん近くなる。