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人間とは実に勝手な生き物だ。
オレ達はよく“気まぐれ”とか言われるが、オレから言わせれば人間程気まぐれで残酷な生き物は無いと思う。
可愛いという理由で勝手に飼い、飼えなくなったという理由で勝手に捨てる。
奴等のさじ加減でオレ等の運命は、あっさりと決まってしまうんだ強制的に――
「アタシ達……これからどうなるのかな?」
隣の兄弟が不安そうに鳴いていた。
「ボク……ママに会いたいよ……」
オレ達三兄弟は察しの通り、産まれて間もなく母親から引き離されたって訳。
全くもってナンセンスだ。
此所が何処かは知らないが、凍てつく様な寒さから外である事は間違いない。
四方を囲まれたダンボール内部がまた、此所からの脱出不可能を意味していた。
まあ出れたとしても、今のオレ達に生きていく術は無いがね……。
「お腹空いたね……」
「ママのおっぱいが飲みたいよ……」
兄弟達の鳴き声がより一層激しくなってきた。
うるさいな、泣き言ぶちまけたところで、状況は何も変わらないだろ?
オレはもうとっくに諦めていた。
生まれたのも捨てられたのも“運が悪かった”だけだ。
――ここに連れてこられて、どの位経っただろうか?
いっその事、ひと思いに楽にしてくれりゃいいものを――
“良い人に拾われろよ”
それがオレの聴いた、奴の最後の言葉。
ふん……只の偽善だ。要は自分の手を汚したくない、という似非正義を振りかざした体の良い言い訳に過ぎない。
飼えないなら最初から飼うなよ馬鹿。てか産まれて困るなら避妊手術位済ませとけ。
弱い者は死ぬ。それが自然界の掟。人間だけが変な理屈をつけたがる。
あぁ、それにしても腹減った。
早く楽にしてくれないかな?
死は誰にでも平等に訪れる。
無駄に生きてるからこそ、色々と苦しむのだ。
死んでしまえば苦しむ必要も無い。
ただ無に還るだけなんだから。
「寒いよぉ!」
「お腹空いたよママぁ!」
だからうるせぇって。鳴くから余計辛く、惨めになるんだ。
オレみたい大人しくしときゃ、いずれ楽になる。
くたばるのは遅いか早いかの違いだけだ。
――それからどの位経ったかは忘れた。
不意に聞き覚えのある音が、壁の向こう側から聴こえてきた。
そう、これはオレ達を乗せてきた、あの車とやらの停止音。
「ねえねえ、もしかして戻ってきてくれたんじゃない?」
オレ達の中で唯一の雌の兄弟も聴こえたらしく、オレに問い掛けてくる。
「またママに会えるんだね?」
こいつはオレ達の中で一番小さく、甘えん坊だ。要は餓鬼なんだが、母親に再会出来ると思ったのか、急に声に元気が戻っていた。
「うんアタシ達、きっとまた帰れるのよ!」
おめでたいな。あまり無責任な事言わない方がいいし、期待しない方がいい。
あいつが戻ってくる訳が無い。
仮に戻ってきたと仮定しよう。
一度はオレ達を身勝手な理由で捨てた身だ。
そんな奴、信用ならねえな。
また難癖付けて捨てられるのが関の山だ。
不意に空から覗き込んできた二つの顔に、オレも釣られて顔を上げてみる。
目が合ってしまったので即座に逸らす。見られるのは好きじゃない。
だがその二つの顔は、あいつではなかった事は確かだ。
『ねえシンちゃん、やっぱり子猫だよ』
『やっぱりか……しかも可愛がってくださいって箱に書いてある。こんな所に捨てるなんて酷いな……』
声帯からどうやら、人間の雌と雄みたいだ。
兄弟達は見知らぬ者への怯えからか、声にならずただ震えている。
全くもって情けない奴等だ。
『まだこんなに小さいのに可哀想……』
人間は雌の事を女って言うんだったな。女はいかにも“悲しそう”な作り物の声で、そんな馬鹿な事を言っている。
哀れみなんて御免だ。同情なんて腹の足しにもならない。
哀れむだけで、自分がさも悲しい境遇にあったみたいに重ね合わせ、自分に酔って悦に入る偽善者共め。
偽善ぶる位なら、最初からスルーする方がよっぽどまともだ。
人間なら人間らしくしとけ。
ああそうか、だから人間って始末に負えないんだな。
自分勝手過ぎて――