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仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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翌日からも、拓馬は明菜とメールのやり取りを続けている。公園での気まずい雰囲気も無く、内容は他愛のない短い文章のやり取りだった。もっとも拓馬は試験勉強で手一杯で、試験が終わるまではそれを気にする余裕も無かった。
拓馬は何とか古い記憶をほじくり返して、試験を乗り切る。頑張った甲斐があり、満足のいく成績では無いが赤点はなんとか免れた。
試験最終日は午後から部活があったが、昼過ぎに始まったので四時前には終了した。拓馬が部室で着替えていると和也からメールが入る。RCサクセションのCDを用意したから渡したいとの事。拓馬はすぐに了解と返信した。
拓馬と和也は申し合わせたかのように、同時に待ち合わせのMバーガーに着いた。
「あれっ、今日は一人?」
意外な事に和也は一人だった。確かに二人で行くとはメールに書かれていなかったが、拓馬は当然彩と二人で来るものと思っていた。
「うん、今日は用事があるって彩に言って、一人で来たんだ」
「そうなんだ……」
――それはわざと一人で来たと言う事か? まさか俺の彩に対する気持ちに気付いて警戒しているのか?
拓馬は和也の気持ちがわからず戸惑う。
「CDのお礼に奢るよ」
「ホント? 嬉しいな」
拓馬の警戒をよそに、和也は無邪気に喜んだ。拓馬達はハンバーガーセットを二つ買い、二階に上がる。席に着くまでの間も、拓馬は和也が一人で来た意味を考えていた。
――仲が良くなって彼氏同士も友達になれば別だが、俺達はそこまでの関係じゃ無い。何を考えているのだろうか?
「はい、これがCDね。ダビングしたからこれはそのままあげるよ。歌詞カードが無くて悪いけど、曲名は書いておいたから。ちなみに俺が一番好きなのは『たとえばこんなラブソング』って曲。名曲だから拓馬もきっと気に入ると思うよ」
席に座るとすぐに、和也は小さな紙袋に入ったCDを拓馬に渡した。結構な枚数の中から、拓馬はその一枚を手に取る。歌詞カードは無いと言っていたが、和也は綺麗な紙に丁寧な字で曲名リストを作ってくれていた。お勧めの曲には短いコメントまで書き込んである。心が籠っていて、やっつけ仕事で無い事は一目でわかった。
「これ作るの大変だっただろ、試験中じゃなかったのか?」
「うちの学校は試験が昨日までだったんだよ」
そう言って和也は笑うが、良く見れば目の周りにくまが出来て寝不足のようだった。
「ありがとう。悪いから、せめてディスクのお金は出すよ」
「そんなの良いよ、ハンバーガーセットを奢ってもらったし。それに俺達友達だろ、遠慮すんなよ」
「友達……」
拓馬は今の和也との関係を友達と呼ぶのに少し抵抗があった。和也が悪い奴だとは思わないが、まだ二回しか会ってないし、恋敵だ。
「友達じゃないかな……」
「あっ、いやいや、友達だよ。急に言われて戸惑っただけだよ。そんなもの一々確認しなくても俺達は友達だよ」
寂しそうな顔をした和也を見て、拓馬は慌ててフォローした。和也は恋敵ではあるが、憎むべき相手とは思えない。
「俺は男の友達と名前で呼び合うなんて初めてなんだよ」
「ええっ、そうなんだ」
「だから拓馬から名前で呼んでくれって言われた時は嬉しかったんだ」
「意外だな。凄く友達が多そうなのに」
拓馬は本気でそう思った。
「本当の友達なんていないよ。俺は結構マイペースなんで、変わってるってよく言われるし。だからRCを好きなのも誰にも言えなかった。成績や運動が良かったりすると、金持ちは何でも出来て違うなって嫌味言われたり……」
――嫉妬だろう、和也は全てを持っている男子高校生だから。和也も努力して今の位置にいる筈なのに、妬む人間はそこを認めないだろうし。
「でも、そんな奴らばかりじゃないだろ」
「俺が自分で壁を作っているのも分かっているんだ。でも、何度もそんな事があると、だんだん信じられなくなってさ……」
恵まれた奴だと思っていた和也が結構悩んでいる事を知り、拓馬は見る目が変わった。
「俺だってそいつらと同じかも知れないぜ。どうして信用するんだ?」
「それは……」
和也は拓馬に自分の気持ちを上手く伝えたくて考えた。
「名前で呼べって言ったり、俺の家を見ても全然態度を変えなかったり……。いや、違うな。そうだ! 初めて見た時感じたんだよ。こいつとは本当の友達になれるって。RCの曲にもあるんだよ。すれ違うだけでも気の合う友達が分かるって」
途中から自分の気持ちを言葉に出来た喜びで和也は笑顔になる。
ーーその曲は俺も知っている。「わかってもらえるさ」だな。俺も好きな曲だ。しかし、憎い恋敵の筈が、こんな風に言われたら憎めないじゃないか。