テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
4
643
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「お前簡単に人を信じすぎるのも危険だぞ」
「いや、簡単じゃないよ。こんな事何度も無いから。そう、一目惚れ。彩を初めてみた時と同じ感じだった。この娘とだったら上手くいくって思った、彩の時と同じなんだ」
――確かに変わった奴かも知れないな。
そうは思うが、拓馬自身はこんな和也を好ましく思う。もし弟がいたらこんな感じなのかと微笑ましくなった。
「あんた達、男二人でデートしてるの?」
急に声を掛けられてそちらの方を見ると、コーヒーを持った明菜がいた。
「あっ、明菜どうしてここに?」
約束していなかった明菜がやってきて、拓馬は驚く。
「通りすがりに、二人の自転車を見かけたから中に入ったのよ。和也君、酷いね。彩は一人で寂しそうな顔して帰ったよ」
「えっ、本当?」
「本当よ、見ていられなかったわ」
「ごめん、俺もう行くよ」
和也は拓馬に謝り、慌てて席を立ち、階段を下りて行った。
それを見送った後、和也が座っていた席に明菜が腰を下ろす。
公園で気まずい雰囲気のまま別れてから、初めて二人は顔を合わせる。拓馬は何を言えば良いのかわからず言葉が出なかった。
そんな空気を察してか、明菜は笑顔を浮かべて最初に口を開いた。
「あれからね、少し考えたんだ……私は自分の気持ちを伝えられずに、和也君とお別れしたんでしょ?」
「詳しい事はわからないけど、そうだろうな」
「拓馬君から見て、後悔しているように見えた?」
明菜の顔から笑顔が消え、真剣な表情になった。
「どうなんだろう。和也の事も最後に会った時に初めて聞いたからな……ただ、恋愛に対してドライだった。真剣に恋をしている感じは無かったな……それが和也の死の影響かはわからないけど」
「そうか……好きな気持ちを伝えられなかったから、そうなったのかな……」
拓馬は大人になった明菜の事を思い出す。一人の男と長く付き合う事は無く、別れても悲しむことなくあっさりしていた。自由奔放な明菜に本当の幸せを掴んで欲しいと拓馬と彩は心から願っていた。
「和也の死を防げたら、告白してみたら良いよ」
「ええっ、でも……」
拓馬の提案に明菜は驚く。
「明菜に少しでも後悔するかもって気持ちがあるなら、告白すべきだよ。和也も彩も、きっと明菜の気持ちを受け止めてくれる。三人の関係が壊れる事はないと思うよ。そうすれば、気持ちを切り替えて次の恋愛に進めるだろ」
拓馬は明菜の幸せを願い、優しくそう言った。
「そんな上手くいくかなあ……でも、ありがとう、気持ちが楽になったよ」
「大丈夫。三人の仲はそんなにヤワじゃないだろ」
「そうだねって、よく考えたら、私の告白は断られるのが前提じゃないの?」
「ああっ! ご、ごめん、でも……」
「いいよ、むしろその方が良い。あの二人の仲を壊したいとは思わないから」
明菜の言葉が本心かどうか、わからない。でも、少しは和也との未来を望む気持ちはあると拓馬は思った。
「明菜なら、気持ちを切り替えれば、すぐに良い男が見つかるよ。きっと良い恋愛が出来ると思う」
「良い恋愛か……私も女子高生だからね。人並にキャッキャウフフな恋愛をしてみたいな」
「ええっ、明菜が……」
「失礼ね! まだ、十七歳なんだから良いじゃない」
少し不貞腐れたような顔をする明菜が、いつもの大人びた彼女とは違い、拓馬は可愛く思えた。
「そうだな、明菜は共学だし、周りに男が一杯いるから良い男が見つかるよ」
「そうだね、ありがとう」
明菜はいつもの笑顔に戻ると、ブラックコーヒーを口に運んだ。
「で、拓馬君はどうするの? 彩に告白するの?」
そう聞かれても、拓馬はすぐに返事が出来ない。
――今の和也と付き合っている状況で、彩に告白しても絶対に断られるだろう。それは分かる。もし彩がフリーであれば、どんなに苦労をしてもアタックし続けて好きにさせる自信はあるのだが……。
――もし、彩と付き合いたければ、和也を見殺しにするしかない。俺にそれが出来るのか? 俺を友達と呼んで喜んでくれた和也を見殺しにするなんて俺に出来るのか? それじゃあ、彩を諦めるのか……そもそも、告白する事が彩の為になるのか……。
「わからないな……今の彩に告白したところで、上手く行くとは思えないし、告白せずに見守る方が彩の為になるかも知れないし……」
「でも、拓馬君も告白すべきよ。告白して次の恋に進むべきだわ」
「そうだな……そうかも知れないな……って俺も断られるのが前提かよ!」
二人は声を上げて笑った。
――七年後も今も、次の恋なんて考えた事が無かった。彩と過ごした幸せな時間を無しにする事など出来る気がしない。あの時、彩から和也の事を告白された時、笑って許せば良かった。大きな心で彩を受け止めていれば、今頃幸せだったのに。
「さあ、そろそろ帰ろうか」
拓馬はわざと明るい調子でそう言った。