テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#正体バレ
#再会
階段に座ったまま、
ひよりは胸元を押さえていた。
陽の言葉がまだ胸の奥で響いている。
──「ひよりが俺に頼ってくれるのは、正直、嬉しい」
その一言が、
怖さとは違うざわめきを生んでいた。
(……陽くん……
そんなふうに思ってたの……?)
胸が苦しい。
でも、痛いだけじゃない。
陽はひよりの前にしゃがんだまま、
真剣な目でひよりを見ていた。
「ひより。
さっきのこと……
全部じゃなくていいから、少しだけ話せる?」
ひよりは唇を噛んだ。
「……陽くんに……
嫌われたくない……」
陽の目が大きく揺れた。
「嫌うわけないよ」
「でも……
私……小学生のとき……
何も言えなくて……
ずっと……」
言葉が喉で詰まる。
陽はひよりの手をそっと包んだ。
ひよりは涙をこらえながら、
かすかに陽の袖を掴んだ。
「……陽くんが……
そばにいてくれると……
安心するのに……
胸が……苦しくなる……」
陽は一瞬だけ息を呑んだ。
そして、
ひよりの手を包む力がほんの少し強くなる。
「……それ、俺も同じだよ」
ひよりの心臓が跳ねた。
陽は続ける。
「ひよりが俺の名前呼んだだけで……
胸が熱くなる。
守りたいって思うし……
離れたくないって思う」
ひよりは言葉を失った。
胸の奥が、
怖さと嬉しさでぐちゃぐちゃになる。
(……陽くん……
そんな……)
そのときだった。
──足音。
ひよりの身体がびくっと跳ねる。
陽はすぐに立ち上がり、
ひよりの前に立つ。
「……誰?」
足音はゆっくりと近づいてくる。
そして──
「……小鳥遊さん。
さっきは……ごめん」
佐伯だった。
ひよりの呼吸が止まる。
陽の表情が一瞬で変わった。
優しさではなく、
ひよりを守るための鋭さが宿る。
「今は無理だって言いましたよね」
佐伯は立ち止まり、
ひよりの様子を見て眉を寄せた。
「……そんなに……俺のこと……
怖がってるの……?」
ひよりは答えられない。
胸が苦しくて、息が吸えない。
陽はひよりの肩に手を置き、
佐伯をまっすぐ見据えた。
「あなたが悪いとかじゃなくて、
ひよりが“今は”無理なんです。
距離を取ってください」
佐伯は唇を噛んだ。
「……でも……
俺、ちゃんと謝りたいんだ。
逃げられるのは……辛い」
その言葉に、ひよりの胸がまた痛んだ。
「逃げられるようなことをしたのは、あなたですよね」
陽はひよりの震えを感じ取り、そっと背中に手を添えた。
「ひより。帰ろう」
ひよりは小さく頷いた。
陽はひよりの手を握り、
佐伯の横を通り過ぎようとする。
その瞬間、
佐伯が小さく呟いた。
「……小鳥遊さん。
俺……あのときのこと……
ずっと後悔してた」
ひよりの足が止まりかけた。
胸が痛い。
でも、振り返れない。
陽はひよりの手を強く握り、
静かに言った。
「行こう」
ひよりは陽に引かれるように歩き出した。
佐伯の視線が背中に刺さる。
陽の手の温度がそれを遮る。
ひよりの胸の奥では、
三つの感情が同時に揺れていた。
─陽への安心
──陽への“それ以上”の何か
──佐伯への恐怖と、言えなかった言葉
全部が絡まり合って、ひよりの心は静かに、
でも確実に揺れ始めていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!