テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
357
モブD
224
#恋愛
ばたっちゅ
3,479
#微糖
第一話 『二度目の人生』
――暗い。
温かい。
息苦しい。
(……あれ。)
ぼんやりと意識が浮かび上がる。
体が思うように動かない。
目も開かない。
(俺……。)
最後の記憶がよみがえる。
タスケテって聞こえて
え?って答えて
体が宙に浮く感覚。
そこで、記憶は途切れていた。
(……死んだのか。)
不思議と実感はない。
ただ、少しだけ心残りがあった。
(せっかく次の休みに、あの乙女ゲームをまたやろうと思ってたのにな。)
お気に入りだった作品。
何度プレイしても泣いてしまう物語。
特に好きだったのは、一人の少年だった。
誰よりも優しくて。
誰よりも報われなくて。
最後は世界を滅ぼしてしまう。
――リュシアン・アルヴェイン。
(幸せになってほしかったな……。)
そう思った、その瞬間だった。
世界がひっくり返るような感覚が全身を襲う。
「――おぎゃああああっ!」
(えっ!?)
勝手に口が開き、泣き声が響く。
細い腕。
小さな手。
何も握れない指。
(……赤ちゃん?)
恐る恐る目を開ける。
ぼやけた視界の向こうで、一人の女性が涙ぐみながら笑っていた。
「あなた……見てください。」
「とても可愛い子です。」
優しく抱き上げられる。
柔らかい腕。
安心する匂い。
その隣では、一人の男性が穏やかに微笑んでいた。
「母子ともに健康だ。」
「本当に良かった。」
(……え、ちょっと待って。)
状況が追いつかない。
俺は死んだ。
なのに今は赤ちゃん。
つまり――。
(転生!?)
驚いていると、女性が優しく頬を撫でた。
「あなたのお名前はね。」
その一言で、胸がざわつく。
まさか。
いや、そんなはずは。
「リュシアン。」
時間が止まった。
「リュシアン・アルヴェイン。」
(…………。)
(………………は?)
思考が完全に停止する。
いや。
その名前は知っている。
知りすぎている。
乙女ゲーム『エトワール・オブ・グレイス』に登場する、美しき天才魔道士。
攻略対象なのに攻略できない。
誰よりも人を救いながら、自分だけは救われない少年。
最後には失恋をきっかけに災厄となり、世界を滅ぼすラスボス。
(俺が……。)
(リュシアン!?)
混乱して泣き叫ぼうとしても、
「おぎゃあああああっ!」
赤ちゃんの体では泣くことしかできなかった。
「ふふっ、元気な子ね。」
「将来はきっと立派な魔法使いになりますよ。」
両親は幸せそうに笑う。
何も知らない笑顔だった。
この子が十数年後、世界を滅ぼすことなど。
知るはずもない。
(……いや。)
違う。
俺は知っている。
ゲームの結末を。
リュシアンが抱える孤独を。
誰にも弱音を吐けず、最後まで笑ってしまうことを。
だからこそ。
(変えられる。)
まだ赤ん坊だ。
ゲーム開始までは、長い年月がある。
未来は決まっていない。
恋をしなければいい。
抱え込まなければいい。
ちゃんと誰かを頼ればいい。
世界なんて滅ぼさない。
誰も悲しませない。
そして何より――。
(今度こそ、リュシアンを幸せにする。)
それは前世で、何度も願ったことだった。
その願いを叶えられる立場になったのなら。
諦める理由なんて、一つもない。
窓の外では、春の陽射しが優しく庭を照らしている。
まだ誰とも出会っていない。
王子も。
騎士も。
神官も。
魔術師も。
ヒロインも。
すべては、これから始まる。
これは、誰も救えなかった少年が。
今度こそ、自分自身と大切な人たちを救うための物語。
二度目の人生は、静かに幕を開けた。
第一話『二度目の人生』 終
コメント
3件
第4話読み終えたよ!リュシアンに転生した主人公の「今度こそ幸せにする」っていう決意が熱すぎる…。乙女ゲームの知識活かして未来変えようとする姿勢、すごくワクワクする展開だわ。まだ出会ってないキャラたちとの関わりがどう変わるのか、めちゃ気になる。次話も楽しみにしてる🔥