テラーノベル
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土曜日の朝、ショッピは緊張した面持ちでバス停に立っていた。シャオロンの家に初めて行く日だ。
(浴衣を借りるだけなのに……なんでこんなにドキドキするんや)
時計を見て、約束の時間までまだ30分もあることに気づく。早すぎる訪問は迷惑かもと思いながらも、なぜか動けなくなった。結局、そのままバスが到着するのを待つことになった。
「あっ、来た来た!」
シャオロンの家の前に着くと、既にシャオロンが玄関先で待っていた。ラフなTシャツに短パン姿だ。
「早いですね」
ショッピは少し驚いた表情で言った。
「お前こそ早いやん!もう準備できとるから上がれよ」
「お邪魔します……」
恐る恐る靴を脱ぎ、畳の匂いがする日本家屋に足を踏み入れる。廊下を抜けると、広い和室があった。
「これが父ちゃんの浴衣やで」
桐の箪笥から丁寧に取り出された藍染めの浴衣。見事な白色の縞模様が施されている。
「すごい……本格的ですね」
ショッピは思わず感嘆の声を漏らした。
「そんで、これが俺の」
もう一枚の浴衣は白地に藍の蝶々柄だ。
「お揃いじゃないんですね」
「ああ、お揃いが良かったんやけど…」
「色合いが逆でもええやん!って思ってな!」
「…そうっすね」
「あの、試着してみてもいいですか?」
「あぁ!ええよ!!」
浴衣を手渡された瞬間、不思議と安心感が広がった。昔から日本の伝統的な衣装に憧れていたのだ。
「シャオさんはいつもどうやって着るんですか?」
「えっとな、基本的には……」
シャオロンは自分で着てみせるために、一旦部屋を出て行った。
少しして、戻ってきたシャオロンを見て、ショッピは言葉を失った。
白い浴衣に身を包んだシャオロンは、普段よりさらに凛とした佇まいに見えた。
「どや?変ちゃう?」
自信なさげに尋ねるシャオロンに対し、ショッピは首を横に振った。
「全然。すごく似合ってます……本当に」
その言葉には偽りがなかった。
「ほんま?なら良かったわ」
シャオロンは照れくさそうに微笑む。
「ショッピも試してみ?」
「はい」
シャオロンの指導のもと、ショッピも藍染めの浴衣を身につけ始めた。最初は慣れない帯の結び方に苦労したが、何度か繰り返すうちにうまくできるようになった。
「おお!イケメンやん!」
鏡の中の自分を見て、シャオロンが手を叩いた。
「……そうですか?」
ショッピはまだ少し恥ずかしそうにしている。
「盆踊り、楽しみやなぁ」
シャオロンがぽつりと言った。
「そうですね」
ショッピも同意する。
しかし内心では、盆踊り以上に楽しみなことがあるとわかっていた。
この美しい夏の風景の中で、誰にも邪魔されずにシャオロンと共に過ごせる時間—それこそが何よりの宝物だと。
「なあ、浴衣の合わせとか、もうちょっと研究しよか」
シャオロンが提案する。
「えっ?まだやるんですか?」
「だって完璧にして行きたいやん?ほら、この模様とか—」
シャオロンは楽しそうにショッピの袖口を持ち上げた。
その瞬間、互いの距離が急に近づいて、二人は思わず息を呑んだ。
「……」
沈黙が流れる中、シャオロンがそっと浴衣を離した。
「そ、そうだ!写真撮っとく?」
唐突な提案に、ショッピは困惑しながらも頷いた。
「あ、はい……記念に」
スマホを構えるシャオロンを見つめながら、ショッピは思う。
(この夏休みが、忘れられないものになりますように)
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