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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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 今まさに目の前の糞女をぶっ殺してやりたいシャーリィ=アーキハクトです。今すぐにでも殴ってしまいたくなった自分を抑えられたのは僥倖でした。

 実は護身用として勇者の剣を携帯しています。もちろん武具の持ち込みは固く禁じられていますが、勇者の剣は見た目だけならただの剣の柄にしか見えません。

 守衛に質問されましたが、父の形見として肌身離さず持ち歩いていると説明したらあっさりと持ち込みを許可してくれた経緯があります。

 つまり、目の前の女を今すぐに葬り去ることも容易いのです。しかし、それをすれば他に関与していた連中の足取りを失ってしまいます。

 何より、お姉様を初めとしたレンゲン公爵家、裏で手を回してくれているお兄様。そしてレイミや暁の……私の大切なものを全て失ってしまうことになります。それだけはダメだ。

 この女を殺すならば私と同じように、全てを奪い去ってから始末する。その為にはやらなければいけないことがたくさんありますね。

 今は我慢しなければ。

「気に入らないわね、随分と反抗的な目をしているじゃない。今この場で貴女を始末することだって出来るのよ?」

「出来るわけがありませんよね?こんな場でレンゲン公爵家の縁者を始末すれば貴女は周囲からの信用を失います。恐怖だけで場を纏められると思う程馬鹿でないでしょう」

 むしろそんな馬鹿なら非常に有難いのですが、残念ながらこの女は馬鹿じゃない。

「ええ、そんな勿体ない真似はしないわよ。貴女はまだ理解していないみたいだし、もう一度全てを奪い去ってあげるわ。折角助かったのに、またノコノコと私の前に現れる程度の知能しかないものね?」

「私がこれ迄どんな想いで過ごしてきたのか、貴女には到底理解できないでしょう。残念ですが、今は諦めます。いつの日か、その身に刻み込んであげますよ」

 相手がどんな存在であろうと復讐を必ず果たす。その想いだけはずっと変わりません。復讐を果たしても失ったものが戻るわけではないと言うのは理解していますが、それでも前に進むためには必要なことなのです。

「精々悪足掻きをして私を少しでも楽しませることね?シャーリィ。もしかしたら手心を加えて貴女だけは生かしてあげるかもしれないわよ?もちろん、私の奴隷として」

「安心してください、私に貴女を奴隷にするなんて悪趣味はありません。ちゃんと殺してあげますから」

「それは楽しみね。殿下、お話は終わりましたわ。さあさあ、まだまだパーティーを楽しみましょう」

「もちろんだよ、フェルーシア嬢。ではシャーロット嬢、ジョセフィーヌ嬢、ごきげんよう」

「ごっ、ごきげんよう……」

「光栄でした、殿下」

 フェルーシアは第二皇子を連れて離れていきました。事実上の宣戦布告、備えを急がねばなりません。

「シャーロット?」

 奴に、マンダイン公爵家が直接手を下せないような状況を作る必要があります。装備や戦力は拡張の最中ですし、旧態依然としていてもマンダイン公爵家の動員兵力は単独でも二万。派閥や帝室も動かすとなれば彼我の戦力差は歴然です。

 真正面から戦うのだけは避けねばなりません。この場合重要になるのはシェルドハーフェンを有する南部閥、ワイアット公爵家です。日和見主義でシェルドハーフェンも半ば放置していますが、曲がりなりにも南部閥の支配地域。より具体的に言えばガウェイン辺境伯の勢力圏です。

 ユーシスお兄様の後ろ楯であるガウェイン辺境伯が味方に付くかどうかは、情勢次第。確実に味方にしつつマンダイン公爵家から手を出せないような状況を作り上げるならば、ワイアット公爵家を味方へ引き込むのは大前提となります。

「あの、シャーロット?」

 しかし、日和見主義のワイアット公爵家です。帝国南部最大の勢力を誇りながら、全く信用できないと言う事実に頭が痛くなりますね。

 日和見主義者であるならば強引な手を使えない訳ではありませんが、そんな輩は土壇場で裏切るもの。全く安心できません。

「あの……?」

 となれば、最適解はワイアット公爵家の没落、これしかありません。ワイアット公爵家が倒れれば、次に南部閥を率いるのはガウェイン辺境伯です。

 武闘派として名高く、さらに高潔な人柄で貴族界での信頼も高く更に善政を敷いているので民からも慕われている。ユーシスお兄様、つまり第三皇子の守役でもあったので帝室にも顔が利く。

「うん、考えれば考えるほど良物件ですね。ワイアット公爵家には消えていただくように、ちょっとした謀略を仕掛けてみましょうか」

「しゃ、シャーロット……?」

 おっと、何故かジョゼが怯えていますね。可愛い妹分を脅えさせるなど、万死に値します。フェルーシアは将来的に惨たらしく始末するとして。

「ジョゼ姉様、これから忙しくなりますよ。カナリア閣下の下へ戻りましょう」

「あの、今ワイアット公爵家がどうとか……」

 おっと、口に出てしまいましたか。この場では危険なことなのに、少し気が緩んでしまいましたか。

「詳しいお話は後程人払いをして閣下と一緒に行いましょう。大丈夫、ジョゼ姉様にご迷惑をお掛けするつもりはありませんよ」

 ジョゼを連れて西部閥の貴族達が集まる区画へ移動しました。相変わらずパーティー会場は華やかで誰もが笑顔で言葉を交わしています。貴族らしい権力闘争が渦巻いていると思えばぞくぞくしますね。

 幸いにしてカナリアお姉様はフリーの様子。挨拶を一通り済ませて一休みと言うところでしょう。更に好都合なことに、側には護衛として仮面を着けたレイミまで居るではありませんか。これを幸運と言わず何と言いましょうか!

 私達が近付くと、西部閥の貴族達が集まり然り気無く壁を作りました。流石はカナリアお姉様、教育も行き届いていますね。

「ただいま戻りました、お母様」

「お帰りなさい、疲れたみたいね。シャーロットもご苦労様」

 疲れ果てた様子のジョゼがカナリアお姉様に抱き付いています。あまり公の場に相応しくない行いですが、身内しか居ませんし外部の目は遮断されているので構いません。

 私はカナリアお姉様に一礼し、然り気無く近寄ってきたレイミの耳許で囁きました。

「仇を見つけましたよ。フェルーシア=マンダインです」

 すると……ふふっ、やはり姉妹ですね。レイミの口許が愉しげに歪むのが分かりましたから。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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