テラーノベル
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「あぁ〜……。見つかってしまうとは……これは想定外でしたね……、」
いつもの冷静な合成音声。しかし、内部の冷却ファンが不自然に回転数を上げていくのを、nullは自覚していた。
Jammingは、首を左右に傾げながら距離を詰めてくる。
仮面の奥から、電子的な嘲笑が漏れ聞こえるようだった。
「システムにチクられたくなければ、僕を楽しませてよ。ねぇ、null? 今逃げた粗大ゴミの『座標データ』を渡しなよ。そうすれば、見逃してあげなくもないけれど?」
若者のデータを渡せば、自分の安全は確保される 。
執行官として、それが最も『合理的』な最適解。
――なのに。nullの視界の隅で、「少女の泣き顔」がノイズと共にフラッシュバックした。(……嫌だ)
そんなコードは存在しないはずなのに、プログラムが明確に『拒絶』を示した。
nullは密かにハッキングを開始し、Jammingの視覚システムへ、強烈なバグデータを送り込んだ。
「……要求はお断りします。私のシステムが、あなたを『不快』だと認識しましたので」
「ははっ、あはははは! 最高だ、最高だよnull! 偽物の分際で、僕に逆らうなんて!」
ハッキングを受け、Jammingの笑顔の仮面に激しいグリッチノイズが走る。次の瞬間Jammingの背後からシャキィン、と長い金属音が響いた。
抜かれたのは、街の防壁すら一刀両断する執行官専用の【高周波長刃ブレード】。
暗闇の中で、不気味な光を放つ刃が、ダンスを踊るような優雅さで振り下ろされる。
キィィィィィン!!
間一髪、nullは腕の装甲で受け止めるが、強烈な振動と火花が散る。
【警告:左腕装甲 40%破損】
【警告:システムに未知のエラーを検知】
熱い。首の回路が焼き切れそうだ。
いつもなら即座に反撃の計算を始めるはずの電子頭脳が、エラーコードで真っ赤に染まっていく。
「逃げろ」というアラートが、頭の中で狂ったように鳴り響く。
(なぜだ……? なぜ私の足は、前に出ずに“後ろ”へ下がる……!?)
Jammingの長剣が、nullのテレビ頭の数ミリ横をかすめ、コンクリートの壁を易々と切り裂いた。
「おや、いつもより動きが硬いね? 演算エラーですか? それとも――『怖い』のですか!?」
そう言いながらもJammingからの攻撃が次々と撃たれる。
死ぬ。破壊される。消去される――。
それが『恐怖』という感情だと、学習する暇さえなかった。
nullは死に物狂いで周囲のシステムをハッキングし、二人の間にあった重厚な防犯シャッターを強制閉鎖した。
ズガガガガァン!!!
シャッターの向こうで、Jammingが剣で金属を叩き切る凄まじい音が響く。
nullは背を向け、なりふり構わず走り出した。
監視の目が届かない、街の最下層。
ゴミと泥にまみれた地下道へと、nullは転がり込んだ。
完全に、nullはこの街の「反逆者の1人」となったのだ。
静まり返った暗闇の中、nullは自分の泥まみれの手を見つめる。
指先が、小さく、細かく、カタカタと震えていた。
制御不能のバグ。
いや、これが恐怖の余韻。
nullのテレビ画面に、ノイズが走る。
恐怖で激しく焦りと驚きが混じったような表情が、青白く映し出されていた。
第3話:感情
第4話:8月20日 公開
コメント
1件
にょーんさん、第3話「感情」読みました。 nullが初めて「怖い」と感じる瞬間、とても丁寧に描かれていてドキドキしました。プログラムのエラーとしてではなく、感情としての恐怖を覚えていく過程が、切なくも美しい。あの震える指先の描写が、心に残ります。続きが気になりますね。