テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
綺麗な子だな。
最初に思った時には、もう見惚れていたみたいです。儚げに海を見つめる横顔は、少し長い黒髪がよく映えていました。毎日のようにここ最近はやってきていましたが、しっかりと顔を見たのは初めてでした。
そのこは朝から夜までずっといました。服は綺麗で、虐待とかではないようでした。僕はその子が毎日見れるのが嬉しかったのですが、心臓がギュッて痛むようでした。
表情は、悲しいようで、寂しいようで、僕が見たどの同年代よりも綺麗でした。
海辺のベンチの周りには、たくさんの桔梗が生えていました。桔梗は昨日の雨で露が涙のように光っていました。
江ノ島では、遠い血縁のおばあさんが経営している小さな民宿で暮らしています。近所のおじさんの家の屋根を直したり、経営を手伝ったりして日々生計を立てます。この民宿は、おばあさんと、血が繋がっていないお姉さんと、血が繋がっていない、いつからいつのかわからないお祖父さんと、僕がレギュラーメンバーです。
海辺のベンチには、またその子がいました。
桔梗は、瑞々しい青色で、綺麗に枯れそうでした。
僕の視線はほとんどその子の横顔が占めていました。物憂げな表情も、海色に染まりそうな目も、今の僕には痛く感じました。
恋はできませんでした。
恋。
そんな綺麗な言葉では、何もできないのでした。
270
いちごバナナスムージー
51
試作品X号
31
コメント
1件
うわ、これめっちゃ好きな雰囲気だ……。江ノ島の海辺と桔梗の花の描写が綺麗で、ずっと見てられる。主人公の“恋はできませんでした”って諦めにも似た一文、めちゃくちゃ刺さったわ。横顔しか見えない少女の儚さと、それを見つめることで精一杯な主人公の距離感が切ない。続きどうなるんだろう、気になるなあ。