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俺とテオは引き続き、森の中の開けた場所にて、テオの強化方法を模索していく。
それぞれ別に発動した2つ以上の魔術を合成できるスキル【魔術合成】。
まずは威力調整で失敗する可能性が無い『同じ属性の魔術2つの合成』に成功した俺たちは、次のステップへと進むことにした。
「テオ、次は『属性が違う魔術2つ』を合成していくぞ! じゃあまず、ベースは火球にして、素材は……風球にするかな」
「さっきと同じように、両手に出せばいいのか?」
「両手で発動するまでは一緒なんだけど、火球は最大威力。風球は威力70%……いや……最初はやっぱ威力50%ぐらい? う~ん……」
腕組みをして考え込みはじめた俺を見て、不思議そうな顔になるテオ。
「火球をベースに、風球を素材で合成する場合、『素材側を威力70%ぴったりで合わせる』のが最も合成後の威力が高いんだけどさ。これは0.1%でも超えると合成自体が失敗するかもしれないギリギリのラインなんだ。かといって安全策をとって50%ぐらいにすると、確実に合成には成功するけどさ、合成後の威力が微妙なんだよなぁ…………」
以前攻略サイトで読んだ「【魔術合成】を極めた彼女の制限プレイ日記」には、魔術を合成する際のベスト配合や、それを見つけるまでの苦節の日々が淡々と綴られていた。
MPには限りがあるから、ある程度【魔術合成】を練習したら、定期的にアイテムや宿屋でMP回復をする等の必要があり、永遠に連続では実験不可能。強力な術式であればあるほどMPの消費量も馬鹿にならない。
割合を変えて1度実験するにも、その都度、複数の複雑なコマンドを狙ったタイミングぴったりに入力しなければ、それぞれの魔術を狙った威力に調整できない。
たった0.1%の違いが結果を大きく左右するため、術式ごとに全く異なる“適切な配合”を頭に入れつつ、都度都度細やかにコントロールするという技術が【魔術合成】には求められる。
魔術を使えば使うほど各スキルの熟練値が溜まるという仕様も、「スキルLVを1よりも上げずに」という縛りを自らに課している彼女にとっては壁になる。
熟練値が一定を超えると自動的にスキルがLVアップしてしまい、縛りが成立しなくなってしまうからだ。
同じスキルをなるべく使わないようにしたり、特定スキルのLVが上昇する可能性がある行動をなるべく行わないようにしたり、特定条件でオート発動するスキル――意図せずとも勝手にスキルLVが上がる可能性があるスキル――をできる限り習得しないようにしたり、といった工夫も必要になる。
仲間キャラの活かし方も大切だ。
通常は勇者が攻撃せずとも、仲間キャラのみで勝利できるよう編成を組んでおけば、道中の余計な戦闘で勇者のスキルLVがアップしてしまう心配は減る。
外せないボス戦では、仲間キャラに時間稼ぎの囮を任せることで、勇者が【魔術合成】で魔術を組み上げていく余裕を作った。
ある程度スキルを練習した後や、思い通りに事が運ばなかった時は、1度リセットしてセーブポイントまで戻っていた。場合によっては、セーブデータ自体を消去して冒頭からやり直さなければならないことも。
中でも「魔王戦の直前でうっかりミスをした結果、スキルLVが上がってしまい、無念のやり直しを行った」という日の記述では、普段は感情を表に出さないはずの彼女の文面から、珍しく悔しさがにじみ出ていたのを俺ははっきり覚えている。
ああでもないこうでもないとつぶやきながら迷い続ける俺。
しばらくは大人しく待っていたテオだったが、やがて痺れを切らしたらしい。
「いやでも70%だと失敗するかもしれないぞ? 最初はもう少し火力を押さえたほうが――」
「いいんだよ失敗してもっ」
「え?」
思いがけないテオの発言。
「――あのさぁ、ブツブツ言ってる暇あんなら、さっさとやっちゃえばいいじゃん!」
「でもどうせなら――」
大声で一喝するテオ。
「魔術は練習あるのみ! とりあえずやってみて、失敗したらできるまで何回も練習して。それでもできなかったら、『もうちょっとそのままがんばろう』とか『じゃあやり方変えてみよう』とか『違う方法探そう』とか考えればいいの! ――ほら、いいからやるよッ」
「わ、わかった……」
何となくテオに押し切られる形だったが、俺達は実践を開始することにした。
「テオ、まず基本のやり方はさっきと一緒で、素材魔術だけ風球に変えて魔術を発動してくれ」
「OK! 火球、風球」
テオが左手にベースとなる『火球』を、右手に素材の『風球』を共に最大威力で発動。
「じゃあ次は、風球の威力を70%に落として――」
こちらの指示を無視し、テオはニヤッと笑ってスキルを発動。
「え、ちょっ――」
「でいっ♪」
慌てふためく俺のほうには目もくれず。
テオは嬉しそうに笑ったまま、左手に持ったベース『火球』へと目掛け、右手の最大威力『風球』をガシッとぶつけるっ!!
瞬間、ぶつかった魔術が暴発!
けたたましい爆音と、ピカッとまぶしい赤の光が辺りへとはじけた!
ショックで固まる俺達。
「……テオ……お前ワザとやったな」
「知~らな~い☆」
「風球の威力が最大だったぞ、70%って言っただろ」
「あれぇバレてた~?」
「バレバレだし」
「えへへ」
「……はぁ」
笑ってごまかすテオに、溜息をつく。
「……なんで最大威力のまま合成したんだよ?」
「だってさ、威力が大きいほうが強くなりそうじゃんっ!」
「ならないっ! ったく、基本もできないうちに変なアレンジすんじゃねぇよ……」
俺が再び溜息をついた瞬間。
遠くから“地響きのような音”が聞こえた。
「……気のせいじゃないよね?」
「ああ。しかもこれ、徐々に音が大きくなってきてないか?」
「言われてみると、そうかもしんない……」
「なんか……凄く嫌な予感がするな」
「奇遇だな~。俺もさっきからイヤな予感してたんだよね――」
森の木を凄い勢いでなぎ倒しながら広場へと現れたのは……瞳をギラギラと光らせた、二足歩行の大きな恐ろしい魔物・オークジェネラルだった。
本来であればこの辺りに居るはずがない高レベルの魔物に、思わず顔が引きつる。
「テオ、こいつって――」
「オークジェネラルだ、なんでこんなところに――」
俺達の姿をとらえるなり、オークジェネラルは咆哮を上げた。
そして古びたゴツい斧を振り上げたかと思うと、こっちへ一直線に突進してきたッ?!
俺達の悲鳴は、むなしく森の中へと響き渡ったのだった。
およそ20分後。
「「ありがとうございましたっ!」」
「いいってことよ!」
俺とテオが頭を下げてお礼を言った相手は、エイバス正門の守衛・ウォード。
乱暴に斧を振り回すオークジェネラル相手にどうする事もできなかった俺達は、森の中をひたすらグルグルと逃げ回っていた。
絶体絶命のピンチかと思われたその時、森の異変を察したウォードが颯爽と単身かけつけ、オークジェネラルをあっさり討伐したのだった。
「しかしまぁ……オークジェネラルに襲われちまうとは災難だったな」
オークジェネラルが落としたドロップ品『古びた戦斧』を眺めながら、ウォードがしみじみ言う。
「全くですよ、なんだってあんな強い魔物がこんな森の浅い所に――」
俺の疑問にかぶせるように、ウォードが答えた。
「そりゃ、あの“爆発音”が原因だろ」
思わず固まる俺とテオ。
「おそらくよ。気持ちよく昼寝でもしてやがったオークジェネラルが、デッケェ爆発音で無理やり起こされブチ切れて、音の方向へ突進してきたら、お前らと偶然出会っちまったってとこじゃねぇか?」
ウォードは森の木々の倒れ方などの現場の状況から原因を推察して語る。
――すいません。
偶然じゃなくて必然です。
まさか俺達自身が爆発音の原因だとは言い出せず、冷や汗が噴き出してきた。
「案外、お前らが何か爆発させたんじゃ――」
「まさか! なぁテオ?」
「ああ! そうそう、爆発音はあっちから聞こえたんだよねっ」
すかさず俺に合わせてオークジェネラルが来た方向を指さすテオ。ナイスプレー!
「……だ、だよなぁ! 俺達もあの音にはビックリしたぜ」
「しかもその直後にオークジェネラルなんてさ、ほんと死んじゃうかと思った~~」
「もしウォードさんが助けに来てくれなかったら、俺達どうなってたことやら……本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
腕組みをして何かを考えていたウォードは、納得して笑顔になる。
「そうだよな! あんなデッケェ音、お前らが出せるわけねぇよな!」
「「あはは……」」
俺とテオから思わず漏れ出る乾いた笑い。
「じゃあ、俺はちょっくら爆発音の原因調べてくっから。何かあったらいけねぇし、お前らは早く街に戻れよ」
「待ってください。ウォードさん、オークジェネラルのドロップ品忘れてますよ!」
大きな槍を構え、オークジェネラルがやって来た方向へ向かおうとするウォードを呼び止める。
「ああ、それならお前らにやるよ」
「え?」
ウォードは振り返ることなく話を続ける。
「……今夜、酒を奢ってくれるんだろ? 礼ならそれで十分だ」
「でも――」
「どのみち守衛の規則で、就業中は基本ドロップ品を拾っちゃいけねぇって事になってんだよ。これをOKにしちまうと、真面目に守衛の仕事をやらずに、魔物を倒して小遣い稼ぎする奴が現れるかもしれねぇしな……あ、そのぶん、わりかし良い給料貰ってっから、遠慮すんじゃねぇぞ!」
ウォードは「じゃあ後でな」と軽く手を振ると、足早に森へ消えていくのだった。
ややあって、森の中の道をエイバス方面へとトボトボ歩く俺とテオ。
「……かっこよかったな、ウォードさん」
「うん……オークジェネラル倒しきるまで、1分もかかってなかったよ……」
ゲームにおいてこの森では、オークジェネラルは最深部の『オークの集落』のみに生息している設定だった。最深部周辺には他にも強力な魔物が大量に出現することもあり、討伐に向かうパーティ推奨LVは90~と言われている。
そして現在俺達が歩くが歩くエイバス周辺――森の比較的浅いエリア――では、ワイルドラビットのようにLV1の一般人でも十分倒せる弱い魔物の目撃情報しかなく、『ゲーム開始当初は街や街道周辺であれば安全にLVアップ可能』というのが常識だった。
よって俺は、この世界でもそうだとばかり思いこんでいたのだが――
「――まさかこの辺にも普通にオークジェネラルが出るなんてな。油断してたぜ」
「俺も俺も! 街の近くであんな強いの見たの初めてだよー」
この周辺に詳しいはずであるテオの発言に違和感を覚える俺。
念のため確かめておくことにする。
「……テオ、確認なんだけどさ」
「ん、なんだいタクト?」
笑顔で答えるテオ。
「オークジェネラルって、この辺りには出現しない魔物なんだよな?」
「そうだよ。あいつらって基本、森の最深部の集落から出ることなんかないもん」
「へぇ……どうして俺達襲われたんだろうな?」
「さっき聞いただろ、オークジェネラルが爆発音で怒ったからだって!」
「そうだったな……じゃなんで、あんな大きな爆発音がしたんだったかな?」
「そりゃー、俺の【魔術合成】でドゴォォンって……あ!」
ようやくテオは気が付いたようだ。
俺の顔が、静かな怒りで震えていることに。
「やっぱり……テオのせいか……!」
「いや……タクト、俺……悪気はなくて――」
言い訳がましいテオに堪忍袋の緒が切れ怒鳴りつける。
「悪気があろうが無かろうが、お前のせいで死にかけたのは揺るぎない事実だ!!」
「え~、死にかけたのは俺もだし――」
「自業自得だろ、お前はッ! こっちは巻き込まれたんだぞ? 大体なぁ――」
テオが素っ頓狂な声を上げた。
ビクッと驚いた俺は、一瞬静かになる。
「ごめんな~タクト。ほんとに俺が悪かったっ!!」
「な……なんだよいきなり……」
急にテオが素直に謝った。
こんなに不自然に豹変されると怪しさしかないんだが。
「いや~、ホントに悪かったと思ってるんだって! お詫びといっちゃなんだけど……俺が一緒に、魔王討伐してやるよ!」
突拍子もないテオの提案に、俺の顔が引きつる。
「……あのさぁテオ、意味わかんないんだけど」
「ま、こうやって知り合ったのも、何かの縁だし!」
「大体お前……『自分の歌で皆を笑顔にするのが夢』とか言ってなかったか?」
「うん、今でもそうだよ」
「だったら俺についてきちゃダメだろ、ちゃんと自分の夢追いかけろよ!」
「魔王を倒したらね」
「なんでだよ!」
「それはね…………俺、気が付いたんだ……『勇者をテーマにした歌』を聴かせて回るより……先にさっさと魔王を倒しちゃったほうが、世界の皆が心から笑顔になるってことに!」
待ってましたとばかりに、ワザとらしい芝居がかった仕草で答えるテオ。
少し頭が痛くなってきたぞ……。
「……お前、魔物が強いエリアで、戦闘力が低すぎて討伐の足手まといになったって言ってなかったか?」
「うん。だけど俺、タクトと一緒なら今までの壁を越えられるような気がするんだ」
「勝手に越えてろ!」
「タクトだって、俺とパーティ組めば色んな可能性が見えるかもよ?」
「無理。俺は安全第一で行きたいの。お前みたいなトラブルメーカー願い下げだ!」
「ひどいなぁ。たった1回の失敗で決めつけるとか」
「その1回がでかいんだ!」
「でもタクトは、俺が剣術教えるのはOKしたじゃん」
「一時的に剣術教えてもらうのと、一緒に魔王を討伐しに行くのは別もんだろ!」
「え~、そんな変わんないって――」
「ちょ……そこまで強く言い切らなくてもいいだろ!」
俺が全身全霊で拒否する姿に、カチンと来た様子のテオ。
「……もういい。あんまりこの手は使いたくなかったけどさ、タクトは肝心なこと忘れてるよね」
「肝心なこと……?」
何のことか分からず首をかしげる。
次の瞬間、テオは黒い笑みを浮かべた。
「……テオ……それはずるいぞ」
「だから、この手は使いたくないって言ったじゃん」
「じゃあ使うなよ!」
「やだ!」
「うぅぅぅ……」
俺は頭を抱えた。
「で、どうする?」
「……」
選択肢を奪われた俺は、諦めて答える。
「…………テオさん、俺とパーティ組んでください」
「OK! 改めて、これからよろしくねっ」
「……はい」
テオの心からの笑顔を見て、心の中で密かに俺は「とっとと強くなって、1日でも早くコイツから逃げ出そう!」と強く誓った。