テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
森の中の開けた場所。
俺たち2人は引き続き、テオの強化方法を模索していた。
2つ以上の魔術を合成できるスキル【魔術合成】。
失敗リスクがない『同属性の合成』に成功したところで、次のステップへ進む。
「テオ、次は『属性が違う魔術2つ』を合成していくぞ! まずベースは火球にして、素材は……風球にするかな」
「さっきみたいに両手に出せばいいのか?」
「ああ頼む。ただし火球は最大威力で、風球は威力70%……いや……最初はやっぱ50%ぐらい? う~ん……」
腕組みをして考え込みはじめた俺を見て、不思議そうな顔になるテオ。
「……なんで迷ってるんだ?」
「火球ベースに風球を合成する場合、素材の風球を威力70%ぴったりで合わせるのが、最も威力が高くなるんだけどさ。これは0.1%でも超えると合成自体が失敗するかもしれないギリギリのラインなんだ。かといって安全策をとって50%にすると、確実に合成は成功するけど……威力が微妙なんだよなぁ…………」
攻略サイトで以前読んだ「【魔術合成】を極めた彼女の制限プレイ日記」。
そこには各術式のベスト配合や、それを見つけるまでの苦節が綴られていた。
たった0.1%の違いが結果を大きく左右する。
術式毎に異なる“適切な配合”を頭に入れつつ、都度都度細やかにコントロールするという技術が【魔術合成】には必要だ。
魔術を使うほど、各スキルの熟練値が溜まるという仕様も壁となる。
スキルLVがアップしてしまえば、制限が成立しなくなってしまうから。
場合によっては1度リセットし、セーブポイントまで戻ることも。
中でも「魔王直前でうっかりミスをした結果、スキルLVが上がり、無念のやり直しを行った」という日の記録には、普段は淡々とした彼女の文面から珍しく悔しさがにじみ出ていたのを、俺ははっきり覚えている。
ああでもないこうでもないとつぶやきながら迷い続ける。
しばらくは大人しく待っていたテオだったが、やがて痺れを切らした。
「あぁもうっッ!! 70%にするっ!」
「いやでも失敗するかもしれないぞ? 最初は少し火力を押さえたほうが――」
「いいんだよ、失敗してもっ」
「え?」
思いがけないテオの発言。
「あのさぁ、ブツブツ言ってる暇あんなら、さっさとやっちゃえばいいじゃん!」
「でもどうせなら――」
「だぁッ!!」
大声で一喝するテオ。
「魔術は練習あるのみ! まずやってみる。失敗したらもう1回やる。それでもできなかったら、色々考えてみればいいの! ほら、いいからやるよッ!!!」
「わ、わかった……」
何となくテオに押し切られる形で、俺たちは実践を開始した。
「まずは魔術を発動してくれ」
「OK! 火球、風球」
テオは2つを最大威力で具現化した。
「じゃあ次は、風球の威力を70%に落として――」
「【魔術合成】」
こちらの指示を無視し、ニヤッと笑ってスキルを発動するテオ。
「え、ちょっ――」
「でいっ♪」
慌てふためく俺のほうには目もくれず。
笑顔のテオは、左手の『火球《ファイアオーブ》』に、右手の『風球』をぶつけたっ!!
――ドゴオオォォオォォォッ!!!!!
瞬間、ぶつかった魔術が暴発!
けたたましい爆音と、ピカッと眩しい赤の光が辺りへとはじけた!
ショックで固まる俺たち。
「……テオ……お前ワザとやったな」
「知~らな~い☆」
「風球の威力が最大だったぞ、70%って言っただろ」
「あれぇバレてた~?」
「バレバレだし」
「えへへ」
「……はぁ」
笑ってごまかすテオに、溜息をつく。
「……なんで最大威力のまま合成したんだよ?」
「だって威力が大きいほうが、強くなりそうじゃんっ!」
「ならないっ! ったく、基本もできないうちに変なアレンジすんなよ……」
俺が再び溜息をついた瞬間。
――ゴゴゴ……
遠くから地響きのようなものが聞こえた。
「……気のせいじゃないよね?」
「ああ。しかもこれ、徐々に音が大きくなってきてないか?」
「言われてみると、そうかもしんない……」
「なんか……凄く嫌な予感がするな」
「奇遇だな~。俺もさっきからイヤな予感してたんだよね――」
――メリッバキッメリメリッ!!
森の木を凄い勢いでなぎ倒しながら広場へと現れたのは。
瞳をギラギラと光らせた、二足歩行の巨大なオークジェネラル。
本来なら周辺に居るはずがない高LVの魔物に、思わず顔が引きつってしまう。
「テオ、こいつって――」
「オークジェネラルだ、なんでこんなところに――」
――グガアアァァッ!!
俺たちの姿をとらえるなり、オークジェネラルは咆哮を上げた。
そしてゴツい斧を振り上げたかと思うと、こっちへ一直線に突進してきたッ!
「「ひぎゃぁーーーーーーーーーっ!!!」」
俺たちの悲鳴は、森の中へと空しく響き渡ったのだった。
*************************************
およそ20分後。
「「ありがとうございましたっ!」」
「いいってことよ!」
俺とテオが頭を下げてお礼を言った相手は、エイバス正門の守衛・ウォード。
乱暴に斧を振り回すオークジェネラル相手に、俺たちはどうする事もできず。
森の中をひたすらグルグルと逃げ回っていた。
絶体絶命のピンチかと思われたその時――
――森の異変を察したウォードが、颯爽と駆けつけた。
彼は一目で状況を把握すると、あっさりと魔物を討伐したのだった。
「しかしまぁ……オークジェネラルに襲われちまうとは災難だったな」
残されたドロップ品『古びた戦斧』を眺めながら、ウォードがしみじみ言う。
「全くですよ、なんだってあんな強い魔物がこんな森の浅い所に――」
俺の疑問にかぶせるように、ウォードが答えた。
「そりゃ、あの爆発音が原因だろ」
「「なッ?!」」
思わず固まる俺とテオ。
「木々の倒れ方から見るに……おそらくよ。気持ちよく昼寝でもしてやがったオークジェネラルが、デッケェ爆発音で無理やり起こされブチ切れて、音の方向へ突進してきたら、お前らと偶然出会っちまったってとこじゃねぇか?」
「「…………」」
ウォードは現場を眺め、原因を推察するように語る。
すいません。偶然じゃなくて必然です。
まさか俺たち自身が爆発音の原因だとは言い出せず、冷や汗が噴き出してきた。
「案外、お前らが何か爆発させたんじゃ――」
「まさか! なぁテオ?」
「ああ! そうそう、爆発音はあっちから聞こえたんだよねっ」
すかさず俺に合わせてオークジェネラルが来た方向を指さすテオ。
ナイスプレー!
「……だ、だよなぁ! 俺たちもあの音にはビックリしたぜ」
「しかもその直後にオークジェネラルなんてさ、もう死んじゃうかと思った~」
「もしウォードさんが来てくれなかったら、俺たちどうなってたか……本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
腕組みをして何かを考えていたウォードは、納得して笑顔になる。
「そうだよな! あんなデッケェ音、お前らが出せるわけねぇよな!」
「「あはは……」」
俺とテオから思わず漏れ出る乾いた笑い。
「じゃあ、俺はちょっくら爆発音の原因調べてくっから。何かあったらいけねぇし、お前らは早く街に戻れよ」
「待ってください。ウォードさん、ドロップ品忘れてますよ!」
長い槍を構え、魔物がやって来た方向へ向かおうとするウォードを呼び止める。
「ああ、それならお前らにやるよ」
「え?」
ウォードは振り返ることなく話を続ける。
「……今夜、酒奢ってくれるんだろ? 礼ならそれで十分だ」
「でも――」
「どのみち守衛の規則で、就業中は基本ドロップ品を拾っちゃいけねぇって事になってんだよ。これをOKにしちまうと、真面目に門を守らずに、魔物を倒して小遣い稼ぎする奴が現れるかもしれねぇしな……あ、そのぶん、わりかし良い給料貰ってっから、遠慮すんじゃねぇぞ!」
ウォードは「じゃ後でな」と軽く手を振ると、足早に森へ消えていった。
*************************************
ややあって、森の中の道をエイバス方面へとトボトボ歩く俺とテオ。
「……かっこよかったな、ウォードさん」
「うん……オークジェネラル倒しきるまで、1分もかかってなかったよ……」
ゲームだと、森の最深部『オークの集落』のみに生息する設定だ。
他にも強力な魔物が出現するから討伐推奨LVは90以上。
また最深部の魔物をこのあたりで見ることなどあり得ない。
よって俺は、この世界でもそうだとばかり思いこんでいたのだが……。
「まさかこの辺にも普通にオークジェネラルが出るなんてな。油断してたぜ」
「俺も俺も! 街の近くであんな強いの見たの初めてだよー」
「え……?」
この周辺に詳しいはずのテオの発言に、違和感を覚えた。
念のため、確かめておくことにする。
「……テオ、確認なんだけどさ」
「ん、なんだい?」
笑顔で答えるテオ。
「オークジェネラルはこの辺りには出現しない魔物だよな?」
「そうだよ。あいつらって『オークの集落』から出ることなんかないもん」
「へぇ……どうして俺たち襲われたんだろうな?」
「さっき聞いただろ、オークジェネラルが爆発音に怒ったからって!」
「そうだったな……じゃあなんで、あんな大きな音がしたんだったかな?」
「そりゃー、俺の【魔術合成】でドゴォォンって……あ!」
ようやくテオは気が付いたようだ。
俺の顔が、静かな怒りで震えていることに。
「やっぱりテオのせいか……!」
「いや……タクト、俺……悪気はなくて――」
「知るかッ!!」
言い訳がましいテオに堪忍袋の緒が切れ怒鳴りつける。
「お前のせいで死にかけたのは揺るぎない事実だ!!」
「え~、死にかけたのは俺もだし――」
「自業自得だろ、お前はッ! こっちは巻き込まれたんだぞ? 大体なぁ――」
「そーだっ!!!!」
テオが素っ頓狂な声を上げた。
びくっと驚いた俺は、一瞬静かになる。
「ごめんなタクト。ほんとに俺が悪かった!!」
「な……なんだよいきなり……」
急にテオが素直に謝った。
こんなに不自然に豹変されると怪しさしかないんだが。
「いや~、ホントに悪かったと思ってるんだって! お詫びといっちゃなんだけど……俺が一緒に、魔王討伐してやるよ!」
「はァ?!」
突拍子もないテオの提案に、俺の顔が引きつる。
「……あのさ意味わかんないんだけど」
「ま、こうやって知り合ったのも、何かの縁だし!」
「大体お前……『自分の歌で皆を笑顔にするのが夢』とか言ってなかったか?」
「うん、今でもそうだよ」
「だったら俺についてきちゃダメだろ、ちゃんと自分の夢追いかけろよ!」
「魔王を倒したらね」
「なんでだよ!」
「それはね……」
テオは待ってましたとばかりに、ワザとらしい芝居がかった仕草で答える。
「俺、気が付いたんだ……『勇者をテーマにした歌』を聴かせて回るより……先にさっさと魔王を倒しちゃったほうが、世界の皆が心から笑顔になるってことに!」
少し頭が痛くなってきたぞ。
「……お前、魔物が強いエリアで戦闘力が低すぎて足手まといだったんだよな?」
「うん。だけど俺、タクトと一緒なら壁を越えられるような気がするんだ」
「勝手に越えてろ!」
「タクトだって、俺とパーティ組めば色んな可能性が見えるかもよ?」
「無理。俺は安全第一で行きたいの。お前みたいなトラブルメーカー願い下げだ」
「ひどいなぁ。たった1回の失敗で決めつけるとか」
「その1回がでかいんだ!」
「でもタクトは、俺が剣術教えるのはOKしたじゃん」
「一時的に剣術教えてもらうのと、一緒に魔王を討伐しに行くのは別もんだろ!」
「え~、そんな変わんないって――」
「変わるっ! 全然違うっ!! 絶対絶対絶対絶対ぜ~~~ったい! お前とは一緒に行きたくないッ!!!!!」
「ちょ……そこまで強く言い切らなくてもいいだろ!」
俺が全身全霊で拒否する姿に、カチンと来た様子のテオ。
「……もういい。あんまりこの手は使いたくなかったけどさ、タクトは肝心なこと忘れてるよね」
「肝心なこと……?」
何のことか分からず首をかしげる。
次の瞬間、テオは黒い笑みを浮かべた。
「あのこと、バラすよ?」
「……テオ……それはずるいぞ」
「だから、この手は使いたくないって言ったじゃん」
「じゃあ使うなよ!」
「やだ!」
「うぅぅぅ……」
俺は頭を抱えた。
「で、どうする?」
「……」
選択肢を奪われた俺は、諦めて答える。
「…………テオさん、俺とパーティ組んでください」
「OK! 改めて、これからよろしくねっ」
「……はい」
テオの心からの笑顔を見ながら、俺は密かに強く誓った。
とっとと強くなって――1日でも早く、コイツから逃げ出そうと。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
にゃみ3
526
#チート能力
厨二病の創破
98
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
4,290
#婚約破棄
霞花怜
322