テラーノベル
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夜の任務を終えて帰還した○○は、ようやく肩の荷を下ろしていた。
宇髄の屋敷に戻ると、明かりがまだ煌々と灯っている。どうやら宇髄の嫁たちが起きて待っていたらしい。
「おかえりなさーい、○○ちゃん!」
須磨がぱたぱたと駆け寄ってきて、両手をぱっと広げた。
その後ろから、まきをが腰に手を当てて少し眉を寄せる。
「無茶してないでしょうね。……顔、疲れてるじゃない」
「ふふ、相変わらず冷静ね」
雛鶴は柔らかく微笑み、○○の腕をそっと取った。
「ただいま。心配かけたね」
○○は少しだけ頬を緩めて返す。いつもの冷静さの裏に、三人の優しさが沁み込んでくるようだった。
そこへ、奥の襖がガラリと開いた。
「おーおー、帰ったか。派手に働いてきたな」
宇髄天元が片手を腰に当て、豪快に笑っている。その笑みはどこか安心をにじませていた。
「派手でも地味でも、任務は無事に終わらせるのが当然」
○○が淡々と返すと、宇髄は声を上げて笑った。
「クールだなァ。そういうとこが気に入ってるんだぜ、俺は」
嫁三人が「はいはいまた始まった」と言いたげに視線を交わす。須磨は「もうほんとに天元様ったら〜」と笑いながら、○○の手を引いて座敷へ連れていった。
⸻
◆
その夜は珍しく全員で食卓を囲んだ。
疲れを取るため、雛鶴が温かい汁物をよそってくれる。まきをは焼き魚を配り、須磨はあれこれ世話を焼きながら盛り上げる。わいわいと賑やかに食事は進み、○○も珍しく口数が増えていた。
ふと、宇髄がぐいっと盃を差し出してきた。
「飲めよ。今日はよくやった。祝杯だ」
「……私は酒に弱いって、知ってるでしょう」
「だからいいんだよ。たまには理性を外すのも派手でいい」
からかうように言われ、○○は眉をひそめる。だが嫁三人の「○○ちゃんの酔っ払い見たーい!」という熱いリクエストに押され、結局ほんの一口だけ口をつけた。
途端に頬が熱を帯びる。
「……ふぅ……やっぱり弱い」
「か〜わいい!」須磨が両手を打ち合わせてはしゃぐ。
「すぐ赤くなっちゃうのね」雛鶴が嬉しそうに微笑む。
まきをでさえ口元を緩め、「あんた、普段とのギャップがすごいわ」と言う。
宇髄はその様子を肘に頬を乗せて眺め、口角をにやりと上げた。
「……理性が緩んだお前も、悪くない」
○○は耳まで赤くなり、慌てて盃を置いた。
「……酔わせてどうするつもり」
「さあな。派手に楽しむだけだ」
冗談めかした声の裏に、熱のこもった眼差しが潜んでいる。○○はそれを直視できず、そっと視線を逸らした。
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◆
深夜、皆が寝静まったあと。
○○はふと目を覚ました。胸騒ぎがする。静寂の中、外から微かな殺気が流れ込んでいた。
「……鬼、か」
○○は立ち上がり、刀を手にする。屋敷の外に忍び寄る黒い影。まるでこちらの隙を狙うかのように、じっと潜んでいる。
その瞬間、背後から声がした。
「気づいたか。さすがだな」
振り返ると宇髄が立っていた。すでに二本の刀を手にしている。
「俺とお前で迎え撃つ。嫁たちは起こさずに済ませてやろうぜ」
○○は小さく頷いた。
「了解。……行こう」
二人は音もなく庭へ出た。月明かりの下、鬼が舌なめずりをして姿を現す。鋭い牙が光った。
「人間……しかも柱と、その女か。上等だ」
○○の胸に緊張が走る。酔いの残滓はとうに吹き飛んでいた。
隣で宇髄が笑う。
「派手に暴れるぞ、○○!」
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◆
戦いは短くも激しかった。
○○は冷静に隙を突き、宇髄は派手に斬り伏せる。二人の連携は予想以上にかみ合い、鬼はなす術なく討ち取られた。
息を整えながら、○○は小さく吐息をつく。
「……危なかった。屋敷の近くまで忍び寄っていたなんて」
「気を抜けないな。だが……」
宇髄が刀を収め、にっと笑う。
「お前と並んで戦うのは、悪くなかったぜ」
その言葉に、○○の胸がわずかに高鳴った。
酔いでもなく、疲れでもない熱が心を揺らす。
けれど彼女はその感情を表に出さず、ただ静かに頷いた。
「……そう。なら良かった」
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夜明け前、屋敷へ戻ると嫁三人が心配そうに待っていた。
「大丈夫!?」「怪我してない!?」
三人に囲まれて、○○は少し困ったように微笑んだ。
「平気。天元さんが一緒だったから」
その言葉に、宇髄は満足げに腕を組む。
「だろ? 俺と組めば百人力だ」
嫁たちが「はいはい」と笑い合う中、○○はふと宇髄を横目で見た。
彼の言葉が、まだ胸の奥で響いている。
(……悪くなかった、か)
静かに夜が明けていった。
コメント
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ドキがムネムネしてます!続き楽しみ!