テラーノベル
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#独占欲
#ワンナイトラブ
「……破水ですね。このまま入院になります」
診察室で、例のイケメン医師が、淡々と言った。
「え……?」
思わず呟いた。予定日まであと一週間以上ある。腹痛もなければ、自覚症状もゼロ。
「……なんか、急でびっくり。陽一さん、悪いけど家の荷物取ってきてくれる?」
待合室で苦笑する私に、彼は頼もしく頷いた。
「分かった。すぐ戻るよ」
「初産は時間がかかるって聞くし、ゆっくりで大丈夫!」
去りゆく背中にそう声をかける。――そのときの私は、まだ知らなかった。お腹の中の「たまちゃん」が、すでにカウントダウンを終えていたことを。
***
陽一さんが去ってから、わずか10分後。世界が一変した。
「い、痛……っ!!」
入院手続きを待つ間、私は冷や汗を流しながらソファにもたれた。暴力的な痛みが、波のように押し寄せる。
「まだまだですよー。初産は数時間から数日かかるものですからねえ」
看護師さんの「経験に基づいた余裕」が、今の私には地獄の宣告に聞こえた。
なんとか病室のベッドに辿り着き、柵を掴んで耐える。だが、モニターを見ていた担当の看護師さんの顔色が変わった。
「先生呼んできて! 今すぐ!!」
同僚に声をかける。
「部屋移動します!ここでは絶対産まないでください!!」
「……そんなこと、言われても……っ!!」
私は震える手でスマホを掴み、陽一さんに“最後の指令”を送った。
***
「はい、今駅前に着いたところで――」
『陽一さん、今すぐ戻って……!』
「え?」
『うまれちゃいそうなの……っ!!』
通話が切れた。
思考が、一瞬、真っ白になる。
(……嘘だろ?)
(時間かかるんじゃなかったのか!?)
配車アプリを開くが無情にも近くに呼べそうなタクシーはない。
駅から病院まで徒歩20分。
(間に合え……!!)
僕は走った。肺が焼ける。脚が重い。信号待ちの数十秒が、永遠みたいに長い。
こんなに必死に走ったのは、あの『渋谷ホテル街事件』(※第17話参照、木島に連れ去られた彼女をスマートタグで追ったあの日)以来だった。
病院に滑り込んだのは、まさに文字通りの「デッドライン」直前だった。
彼女は、真っ青になりながらも、一瞬だけ安堵の表情を見せた。そこからは怒涛の展開で、僕が彼女の手を握ってから、わずか10分。
分娩室に、新しい命の泣き声が響き渡った。
「……おめでとうございます。女の子ですね」
「……間に合って、よかった……」
ぐったりしつつ、彼女は笑った。
「抱っこしてみますか?」
看護師さんから差し出された「たまちゃん」は、小さくて温かくて、なんだか胸がいっぱいになった。
そのとき、彼女がふっと笑った。
「ねえ」
「なに?」
「この子、絶対狙って出てきたよね?」
「……なんで?」
悪戯っぽく微笑む彼女に、僕は首を傾げた。
「あの先生、今日(金曜)を逃したら月曜まで来ないもん」
(……まさかな……)
「この子、イケメン好きなんじゃない? 誰に似たのかな?(笑)」
(……やめてくれ。今からそんなに面食いだったら、父親の僕(フツメン・モブ顔)の立場はどうなるんだ……)
医師がこれからの説明を始めると、たまちゃんは心地よさそうにもぞもぞと動いた。
(……もしかして、とんでもないヤツがやって来たのか……?)
……でも、まあ悪くないか。
コメント
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もう213話か…一気にここまで走ってきた感じがするよ🥀 破水からの激痛、そして陽一さんが駅前から全力疾走するシーン、息を止めて読んだ。 「間に合ってよかった」のひと言に、ふたりの今までの時間が全部詰まってて泣きそうになった。 たまちゃん、まさかイケメン医師狙いでデッドライン走らせたんか…笑 でも、最後の悪戯っぽい笑顔がたまらなく愛おしかったです🌙