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格安生姜
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午後6時。
ゲーム大会は、予想以上に白熱していた。
太「いや待って!! 今の絶対当たってたって!!」
舜「当たってない当たってない! ちゃんと画面見て!」
太「見てたわ!!」
舜「じゃあ何で負けてんの!?」
太「お前ほんま腹立つな!!」
仁「お前ら、ゲームでそんな本気になる?」
勇「仁人もやろうよー!」
仁「俺、今ので疲れた」
勇「えー! じゃあ俺が勝ったら一緒にやって!」
仁「何でそうなるんだよ」
勇「俺が仁人と遊びたいから!」
仁「……はいはい」
柔「よっしー、結局やるんだろうね」
仁「やらねえよ」
勇「じゃあ俺、仁人の分まで頑張る!」
仁「お前の頑張りと俺に何の関係があんだよ」
勇「仁人にかっこいいとこ見せたい!」
仁「…………」
太「うわっ、また始まった!」
舜「勇ちゃん、今日ずっとそれじゃん!」
勇「だって仁人にかっこいいって思われたいんだもん!」
仁「……ゲームしろ!!」
黒「…………」
坂「…………」
黒「坂田さん」
坂「はい」
黒「今の会話、ゲームの話でしたよね?」
坂「そのはずです」
黒「僕には恋愛ドラマのワンシーンに聞こえたんですが」
坂「僕もです」
午後6時半。
結局、ゲーム大会は勇斗の圧勝で幕を閉じた。
勇「っしゃあああ!! 勝ったあああ!!」
太「くっそー!! もう一回!!」
舜「いや、俺もうお腹すいた!」
柔「俺も。そろそろご飯にしようか」
その言葉を聞いた瞬間、勇斗がぱっと仁人を振り返った。
勇「仁人! ご飯!」
仁「……何で俺を見るんだよ」
勇「今日の夜ご飯、何?」
仁「作ってねえよ。お前の家だろ」
勇「えー! 仁人のご飯が食べたい!」
仁「知らねえよ。自分で作れ」
勇「仁人さあ……俺のこと好き?」
仁「その質問を料理と結びつけるな!!」
太「もう吉田さん、作ってあげたら?」
仁「お前らまで何なんだよ!」
舜「俺、仁ちゃんのご飯食べたい!」
柔「俺も食べたいな」
仁「……お前らなあ」
三人の期待に満ちた視線。
そして、隣で両手を合わせている勇斗。
勇「お願いします、仁人シェフ!」
仁「…………」
勇「仁人のご飯、世界一おいしいです!」
仁「……はあ。冷蔵庫、何入ってる?」
勇「やったああああ!!」
仁「まだ作るって言ってねえだろ!!」
太「いや、もう作る流れやん!」
舜「仁ちゃん、優しいー!」
仁「お前ら、手伝えよ!!」
勇「はーい!!」
仁「勇斗は皿出して」
勇「はい!」
仁「太智と舜太は野菜洗って」
太「了解!」
舜「任せて!」
仁「柔太郎はテーブル片づけて」
柔「わかった」
黒「…………」
坂「…………」
黒「……吉田さん、完全にこの家のお母さんみたいになってますね」
坂「ちゃんと全員、指示に従っていますね」
黒「佐野さんなんて、返事が異常にいい」
坂「吉田さんの言うことだけは素直に聞くんですね」
勇「仁人ー! お皿これでいい?」
仁「うん、それでいい。ありがと」
勇「……えへへ」
黒「…………」
坂「…………」
黒「褒められただけですよね?」
坂「はい」
黒「何であんなに嬉しそうなんですか?」
坂「僕に聞かないでください」
午後7時30分。
テーブルには、仁人が作った料理がずらりと並んでいた。
太「うっま!!」
舜「これ本当にうまい!」
柔「まじで料理上手だよね」
仁「別に。適当に作っただけ」
勇「俺、仁人のこういうとこ大好き」
仁「……食え」
勇「はーい!」
黒「佐野さん、感想が全部吉田さんに向かっています」
勇「だって仁人が作ってくれたんですよ!?」
坂「料理の感想を聞いているんです」
勇「おいしいです!! 仁人、天才!!」
仁「はいはい」
勇斗は嬉しそうに料理を口に運ぶ。
すると、仁人が勇斗の皿をちらりと見た。
仁「勇斗、そればっかり食ってないで、こっちも食べろよ」
勇「えー、これ好きなんだもん」
仁「野菜も食べろって」
勇「……はーい」
仁人は勇斗の皿に野菜を取り分けた。
勇斗はそれを見て、にこにこと笑っている。
勇「仁人って、ほんと俺のことよく見てるよね」
仁「お前が好き嫌いするからだろ」
勇「俺のこと、何でも知ってるもんね」
仁「長い付き合いだからな」
勇「じゃあ俺が今、何考えてるかわかる?」
仁「……どうせ、俺に甘えたいとかだろ」
勇「正解!!!!」
仁「当たってんのかよ!!」
太「いや、わかりやすすぎるやろ!!」
舜「勇ちゃん、犬みたい!」
柔「大型犬だね」
勇「えー! じゃあ仁人、俺の飼い主?」
仁「誰が飼い主だ!!」
勇「じゃあ恋人?」
仁「友達だよ!!」
勇「えへへ、友達!」
仁「何で嬉しそうなんだよ……」
黒田は箸を持ったまま、静かにカメラを見つめた。
黒「……坂田さん」
坂「はい」
黒「この食卓、情報量が多すぎませんか」
坂「僕もそう思います」
黒「しかも、吉田さんは佐野さんの好き嫌いを把握している」
坂「はい」
黒「佐野さんはそれを当然のように受け入れている」
坂「はい」
黒「……結婚して何年目の食卓なんでしょうね」
坂「友達歴の話では?」
黒「もう、わからないです」
午後8時。
太智、舜太、柔太郎は、そろそろ帰ることになった。
太「いやー、今日も食った食った!」
舜「仁ちゃん、ごちそうさま! また来るね!」
仁「はいはい。次はお前らも何か持ってこいよ」
柔「わかった。今度はお菓子でも買ってくるね」
勇「えー! もう帰っちゃうの!?」
太「お前、さっきまで一緒にゲームしてたやろ!」
勇「だってまだ仁人と遊びたい!」
舜「俺らおるやん!!」
勇「お前らとは遊んだじゃん!」
太「差別やんけ!!」
仁「勇斗、玄関まで送ってやれ」
勇「はーい!」
仁「……あと、明日も仕事なんだから、夜更かしすんなよ」
勇「えー、仁人も一緒に寝てくれる?」
仁「お前の家で何言ってんだよ!!」
太「…………」
舜「…………」
柔「…………」
黒「…………」
坂「…………」
勇「……え、何?」
太「いや、勇斗」
舜「今のはさすがに……」
柔「うん。ちょっとね」
仁「何がだよ!!」
太「いや、何でもない! 俺ら帰るわ!」
舜「お邪魔しましたー!」
柔「またね、二人とも」
仁「二人ともって何だ!!」
勇「また来てねー!!」
玄関のドアが閉まった。
リビングには、勇斗と仁人、そして取材班だけが残った。
黒「…………」
坂「…………」
黒「……坂田さん」
坂「はい」
黒「今、夜更かしするなという話から、一緒に寝るかという話になりましたよね?」
坂「はい」
黒「どういう論理ですか?」
坂「僕にはわかりません」
勇「……仁人ー!」
仁「何だよ」
勇「二人きりになっちゃったね!」
仁「取材班がいるだろ!!」
黒「すみません、僕たちもいます」
勇「そうだった!!」
仁「お前、本当に何なんだよ……」
勇「仁人と二人でいたかったのにー」
仁「……はいはい」
勇斗は不満そうに頬を膨らませた。
仁人はその顔を見て、ため息をつく。
仁「……わかったわかった。撮影終わったら、ちょっとだけ一緒にゲームしてやるから」
勇「……ほんと!?」
仁「うん」
勇「やったああああ!!」
仁「声でけえ!!」
黒「……吉田さん」
仁「はい?」
黒「今の、断る選択肢はなかったんですか?」
仁「……こいつ、こうなると面倒くさいんで」
勇「えー! 俺、面倒くさくないよ!」
仁「面倒くさいよ」
勇「仁人ひどい!!」
仁「……でも、まあ」
勇「ん?」
仁人は少しだけ目をそらした。
仁「……一緒にいるのは、別に嫌じゃねえし」
勇「…………」
一瞬、勇斗が黙った。
そして。
勇「……仁人、好き!!」
仁「だから友達としてだろ!!」
勇「うん!! 友達として大好き!!」
黒「…………」
坂「…………」
黒「……坂田さん」
坂「はい」
黒「僕たち、今夜何時に帰れると思います?」
坂「……この二人次第ですね」
午後9時30分。
2人ともしれっとお風呂に入り、
撮影が一段落した頃、仁人はソファの端に座っていた。
さっきまで元気にツッコミを入れていたのに、今は目をこすり、何度も小さなあくびをしている。
勇斗はゲーム機を片づけながら、ちらりと仁人を見た。
勇「……仁人?」
仁「……ん?」
勇「眠い?」
仁「……眠くねえ」
勇「そっか」
勇斗は笑って、仁人の隣に座った。
勇「じゃあ、もうちょっと一緒に起きてよっか」
仁「……ん」
それから数分。
仁人の頭が、こくん、と揺れた。
勇「……仁人?」
仁「……んー……」
勇「寝ていいよ」
仁「……まだ起きてる……」
勇「うん。わかった」
勇斗はからかわなかった。
ただ、仁人の手からスマホが滑り落ちそうになったのを見て、そっと受け取った。
勇「スマホ、預かるね」
仁「……ん」
勇「充電しとくから」
仁「……ありがと」
その返事が、いつもよりずっと小さくて。
勇斗は思わず笑みをこぼした。
勇「……眠いと素直だねえ」
仁「……うるせ……」
勇「はいはい」
勇斗は自分の座る位置を少し変え、仁人が寄りかかりやすいように肩を差し出した。
すると仁人は、迷うことなく勇斗の肩に頭を預けた。
まるで、それが当たり前みたいに。
仁「……勇斗」
勇「ん?」
仁「……ちょっとだけ、このまま……」
勇「……うん。もちろん」
仁「……動くなよ」
勇「動かないよ」
仁「……ん」
仁人の指が、勇斗の袖をきゅっとつかんだ。
勇斗はその手を見て、優しく握り返す。
そして、ブランケットを広げて仁人の肩にかけた。
勇「……寒くない?」
仁「……大丈夫」
勇「ほんと? 手、冷たくない?」
仁「……平気だって」
勇「そっか」
それでも勇斗は、ブランケットがずれないように端を整えた。
仁人が少し体を動かすと、背中に手を添えて支える。
その動作には、ふざけた様子も、いつもの大げさなリアクションもなかった。
ただ、眠そうな友達を気遣う、穏やかな優しさがあった。
黒「…………」
坂「…………」
黒「……佐野さん」
勇「……はい?」
黒「吉田さん、寝ちゃいそうですね」
勇「……ですね」
黒「撮影、続けても大丈夫ですか?」
勇斗は仁人の顔を見て、少し考えた。
勇「……寝顔、撮るのはやめてもらってもいいですか?」
黒「……もちろんです」
勇「ありがとうございます」
黒田がカメラを少し下げる。
勇斗はほっとしたように息を吐いた。
勇「……仁人、寝るときは無防備なんで」
黒「……普段から、よく一緒にいるんですか?」
勇「はい。よく泊まりにも来るし、俺も仁人の家に行くし」
坂「……そのときも、こうして?」
勇「んー……まあ、眠いときは」
勇斗は少し照れたように笑った。
勇「仁人、普段はあんな感じだけど、眠いときは結構甘えてくるんですよ」
黒「…………」
坂「…………」
勇「……あ、これ言ったら怒られるかな」
黒「……佐野さん」
勇「はい?」
黒「あなた、吉田さんのことが本当に好きなんですね」
勇斗は目を丸くした。
そして、少しも迷わず答えた。
勇「……はい。大好きです」
黒「…………」
坂「…………」
勇「……友達として!」
黒「最後に付け足さないと駄目なんですか!?」
勇「だって友達だもん!!」
その声に、仁人が小さく身じろぎした。
仁「……はやと……」
勇「ごめん! 起こした?」
仁「……んー……」
勇「大丈夫。寝てていいよ」
仁「……ぎゅー……」
勇斗の動きが止まった。
黒田と坂田も止まった。
勇「…………」
仁「……ぎゅー、して……」
勇斗は片手で口元を覆った。
勇「……っ、仁人……」
仁「……やだ?」
勇「やじゃないよ。全然やじゃない」
勇斗はそっと仁人の体を支え、自分の方へ引き寄せた。
仁人の背中に腕を回し、包み込むように抱きしめる。
勇「……はい。ぎゅー」
仁「……ん……」
仁人は安心したように勇斗の胸元へ顔を寄せた。
勇斗は仁人の頭を撫で、背中をゆっくりとさすった。
勇「……よしよし。今日もお疲れさま」
仁「……ん……」
勇「いっぱい頑張ったね」
仁「……はやとも……」
勇「ん?」
仁「……お疲れ……」
勇斗は、ぱちぱちと瞬きをした。
そして、どうしようもなく嬉しそうに笑った。
勇「……ありがとう」
仁「……ん……」
勇「……仁人、大好き」
仁「……俺も……」
勇斗が固まった。
黒田が息をのんだ。
坂田が無言でカメラを握り直した。
勇「……え?」
仁「……好き……」
勇「…………」
黒「…………」
坂「…………」
勇斗は、顔を真っ赤にした。
勇「……仁人、それ……」
仁「…………」
勇「…………」
黒「…………」
坂「…………」
勇斗は一度、目を閉じた。
そして、仁人の頭をぎゅっと抱きしめ直す。
勇「……うん。俺も、大好き」
黒「…………」
坂「…………」
黒「……坂田さん」
坂「はい」
黒「今の会話、もう一度整理してもらっていいですか?」
坂「眠い吉田さんが佐野さんに甘え、佐野さんが抱きしめ、二人で好きと言い合いました」
黒「……恋人では?」
坂「友達だそうです」
黒「……そうですか」
坂「はい」
黒田はゆっくりとカメラを下ろした。
黒「……もう、何も言いません」
午後10時。
仁人は、勇斗の腕の中で眠ってしまった。
勇斗は仁人を起こさないように、そっと抱きかかえる。
黒「……佐野さん?」
勇「……はい」
黒「どちらへ?」
勇「寝室です。ここだと首痛くなっちゃうんで」
黒「……ああ、なるほど」
勇斗は仁人の体をしっかり支え、ゆっくりと立ち上がった。
仁人は起きる気配もなく、勇斗の首元に腕を回す。
勇「……ふふっ」
黒「……何か?」
勇「いや、なんでもないです」
そう言いながら、勇斗は仁人を見下ろした。
勇「……ほんと、かわいいなあ」
黒「聞こえてますよ」
勇「うわっ! また!?」
坂「マイク、ついてますから」
勇「もうやだ、この取材!!」
そう言いながらも、勇斗の腕は仁人を優しく支えたままだった。
寝室に入ると、勇斗は仁人をベッドに寝かせ、枕の位置を整えた。
ブランケットをかけ、顔にかかった前髪をそっとよける。
仁「……はやと……」
勇「……ん?」
仁「……いっしょ……」
勇斗は一瞬、動きを止めた。
勇「……一緒にいてほしいの?」
仁「……ん……」
勇斗は笑った。
勇「……わかった。隣にいるよ」
そう言ってベッドの端に腰掛けると、仁人が眠ったまま勇斗の手を探した。
勇斗はその手を握る。
勇「……はいはい。ここにいるから」
仁人の表情が、ふっと穏やかになった。
勇斗はそのまま、しばらく手を握っていた。
黒田と坂田は、寝室の入口から少し離れた場所で、静かにその様子を見守っていた。
黒「……坂田さん」
坂「はい」
黒「今日、僕たちは何を取材していたんでしたっけ」
坂「佐野勇斗さんの一日密着です」
黒「……そうでしたね」
坂「はい」
黒「でも、今日一番わかったことがあります」
坂「何ですか?」
黒「佐野さんは、吉田さんのことになると、世界一優しい顔をする」
坂「……そうですね」
黒「吉田さんも、佐野さんにだけは、びっくりするくらい素直になる」
坂「……そうですね」
黒「……それで、二人は友達なんですよね」
坂「本人たちは、そう言っています」
黒「……なるほど」
黒田は、深く息を吐いた。
黒「……明日の企画書、タイトルを変えましょう」
坂「何にするんですか?」
黒田は真剣な顔で答えた。
黒「『【急募】友達という言葉の意味を教えてください』」
坂「最高です」
黒「けど多分変えれないと思うんですよね、、、」
その頃、ベッドの横では。
勇「……仁人、おやすみ」
眠っている仁人の手を、そっと握り直す。
勇「……明日も一緒にいようね」
仁人は返事をしなかった。
ただ、眠ったまま、勇斗の手をきゅっと握り返した。
勇斗は嬉しそうに笑った。
勇「……ふふっ。約束ね」
もちろん、二人は恋人ではない。
少なくとも、本人たちの認識では。