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ちろりーぬ
164
なーさん。です
200
花の冠
春休み。竜一と虎太郎と咲茉は、狼谷兄弟と公園に来ていた。弟たちは広場を自由に駆け回り、時々竜一がそれを追いかけ、隼は鉄棒で懸垂中。咲茉は荷物の番をしながら4人の様子を眺めていた。
今日は暖かいし天気もいい。寒がりな自分にはとてもありがたい。
「エマねえぢゃ!」
少し離れた場所から鷹が笑顔で手を振り、虎太郎もそれに倣う。咲茉も手を振り返す。
15〜20分程経ち、咲茉が声を掛ける。
『みんなそろそろ一旦休憩しない?』
「そうだね!ちょっと水分摂ろうか」
「ああ」
4人が戻ってくる。手を洗い、アルコールウエットティッシュで手を拭いてから水筒のお茶で水分補給。
「結城さん、荷物の番ばっかりさせてごめんね。退屈じゃない?」
『ううん、平気。今日はあったかいし、みんなを眺めながら日向ぼっこできてちょうどいいよ』
にっこり笑って自分もお茶を飲む咲茉。そして犀川が持たせてくれたおやつを子どもたちに開けてやる。
『狼谷くんは懸垂何回できた?』
「22回だな」
「すごい!俺多分5回もいかないと思う」
「30くらいいきたかったけどな」
『充分だと思うけど。すごいなあ。私は運動は全くだから』
咲茉の言葉に竜一は成績表を見せ合った時のことを思い出す。
「運動苦手って言うけど、結城さん体育の成績そんな悪くはなかったよね」
「どのくらいだ?」
『3だよ』
「ならいいじゃねえか。平均的ってことだろ」
『うん、1とか2とかじゃなかったからいいやーって』
1もなかなか取れない数字だけれど。
『走るのも泳ぐのも速くないし、投げたらすぐ近くに落っこちるし、鉄棒もだめ、跳び箱はもっとだめで。とりあえず1とか2をつけられないように頑張ってる感じ。だから運動得意な人が羨ましい』
鷹と虎太郎の口元に付いたクッキーの食べかすをティッシュで拭きながら話す咲茉。
「でも、吹奏楽部も運動部って扱いなんだよね?」
『うん。楽器を吹くのも結構エネルギー使うしね。筋トレの日もあるんだよ』
「「筋トレ!?」 」
竜一と隼の声が見事に揃う。
『腹筋と背筋を100回ずつしたりとか』
「100回も!?」
『うん。次の日みんな筋肉痛だよ』
「そらそうなるだろ…」
知らなかった。毎日ではないとはいえ、吹奏楽部の生徒たちがそんなハードな練習メニューをこなしているなんて。
「あにぎ!おでもきとれするじょ!」
「う!」
突然筋トレのやる気スイッチが入った弟たち。
「おー、そうかよ。頑張れ」
「いっぱいきとれして、れんじゃーれどになるんだ!」
「筋トレしたってレンジャーにはなれ……むごっ」
「狼谷!」
竜一が隼の口を塞いだことで、幼児の夢を壊す現実的な発言が放たれるのが阻止された。
休憩を終えてまた広場に戻る男たち。兄2人は弟たちを鉄棒にぶら下がらせてやる。
「にいぢゃ!おでもうだめだ!」
5秒も経たないうちに鷹が音を上げる。
「そんなんでいいのかよ。レンジャーレッドになれねえぞ」
「だっでぎついんだもおおおお!」
「狼谷!可哀想だろ。下ろしてあげろよ」
「わーったよ。…おら」
根性のない弟を呆れながら下ろしてやる隼。一方虎太郎はというと。
「………」
顔を真っ赤にしてぷるぷるしていた。
「こっ、虎太郎!お前もそんなになるまで頑張り続けなくていいから!」
竜一が慌てて鉄棒から引き離す。
「…前から思ってたけど、そいつ根性あるよな」
隼が感心したように虎太郎を見ていた。
咲茉は再び荷物の番をしつつ、その辺に咲いているシロツメクサを摘んで弄っていた。
「あっ、エマおねえちゃま!りゅうにいちゃまに
、はやとにいちゃま、こちゃろうちゃんとたかちゃんもいましゅ!」
自分たちの名前を呼ぶ、可愛らしい声にそちらを向くと、奇凛が母親と公園に来ていた。
『奇凛ちゃん!熊塚先生!こんにちは』
「こんにちは、結城さん。みんなで来ていたのね」
『はい。今日はあったかくて過ごしやすいですよね』
奇凛の母と咲茉が笑顔で会話している。
「熊塚先生!奇凛ちゃん!」
竜一、隼、虎太郎、鷹が戻ってくる。
「きりんもいっしょにあそぶじょ!」
「うん!」
早速、鷹と虎太郎と一緒に駆けていこうとして、奇凛がぴたりと動きを止めた。
「エマおねえちゃま、しょれ、なんていうおはなでしゅか?」
咲茉が持っていた花を指差す。
『これ?シロツメクサっていうの。ピンク色のもあるんだよ』
茎の花に近いところに穴を開け、そこに茎の先を通して輪にしたものを、奇凛の指に着けてやる咲茉。
「わあ!ゆびわ!ゆびわでしゅ!」
奇凛は大喜びだ。
「よかったわね、奇凛」
「うん!」
「きりんばっかずりい!おでもゆびわほじい!」
『ありゃ』
「人のもん欲しがんな」
隼が鷹の頭を軽くはたく。
「ここはぽつぽつとしか咲いてないけど、裏のほうにはたくさん咲いていたわ 」
「じゃあ、みんなでそっちに行ってみようか。狼谷、いいか?」
「べつに俺は構わねえ」
「荷物は私が見ておくわ。結城さん、奇凛をお願いできるかしら?」
『はい、もちろんです!』
「ありがとう。よろしくね」
「まま、いってきましゅ!」
「はい、行ってらっしゃい」
隼が鷹を脇に抱え、竜一と虎太郎、咲茉と奇凛が手を繋いで公園の裏のほうに向かって移動する。
『わあっ!』
「すごい!」
「おはなばたけでしゅ!」
奇凛の母が言っていた通り、そこには先程の広場よりももっとたくさんの花が咲いていた。シロツメクサだけでなく、アカツメクサも咲いている。
「想像以上だな」
「うん!」
竜一と隼も目を丸くしている。
「おねえちゃま、ゆびわのちゅくりかたおちえてくだしゃい!」
『うん、いいよ』
咲茉が近くのシロツメクサを摘み取り、子どもたちによく見えるようにしゃがんで作り始める。
『ここに爪でちょこっとだけ穴を開けて、茎の先をこの穴に入れて……、はい、これでもう完成だよ』
「わあっ!きりんもちゅくってみましゅ!」
『うん!』
「こたもつくう」
「おでっ!おでも! 」
3人とも張り切って花を摘み、指輪を作ろうと奮闘する。しかし茎が細い上に、まだ力のコントロールの上手くいかない幼児には結構難しい。
「できない!」
またしても早急に音を上げる鷹。虎太郎と奇凛はめげずに何度も挑戦している。
「お前もちったあ2人を見習え」
「狼谷…。誰にだって得意不得意はあるだろ」
竜一が苦笑いする。
「全部自分でしようとすっから失敗すんだろ。……ほらよ、穴開けてやったから茎通せ」
「あっ、そっか。…虎太郎、奇凛ちゃん。これでやってみて」
兄2人が予め茎に穴を開けてやったものを渡すと、3人とも茎の先を穴に通すことができた。
「できまちた!」
「う!できた!」
「おでもできたじょ!」
達成感に目を輝かせる3人。
『みんな上手!よかったね』
咲茉も笑顔で子どもたちを褒める。その手にはまた別の作品が。
「エマおねえちゃま!しょれもおちえてくだしゃい!」
『いいよー!』
最後の仕上げをして、花輪が出来上がった。
『…そしたら、これを作るにはお花がいっぱい必要なの。みんなで手分けして摘んできてくれる?長さはね……』
咲茉が近くの花を3輪摘んで子どもたちに手渡す。
『このくらい。お願いね』
「はーい!」
「う!」
「おでがいちばんおおくつんでくるじょ!」
3人は咲茉にもらった花を目安に摘み始める。
「結城、ほんと器用だな」
『小さい頃に教えてもらって作ってたの。試しにやってみたけど案外手が覚えてるものなんだね』
「俺も作った覚えがあるけど忘れちゃった。俺にも教えてもらっていいかな?」
『うん、もちろん』
高校生組もシロツメクサとアカツメクサを摘んでいく。
「いっぱいちゅめまちた!」
「う!」
「おでのがいちばんおおいじょ!」
『みんなお疲れ様。じゃあ、早速作ってみよっか』
子どもたちが戻ってきたので花輪の作り方を教える。
『まずは1本縦に持ってね。次のお花をここに固定して、茎をこっちからくるっと回して最初のお花に巻きつけて真っ直ぐにして……。あとはこれを繰り返すの』
当然、指輪を作るよりも工程が多くて難しい。竜一と隼はある程度自分で作ってみてから弟たちを手伝う。咲茉は奇凛に付きっきりで教えてやっている。
『そうそう、奇凛ちゃん上手!』
「えへー!ままにあげゆの!」
『きっと喜ぶね』
女子組はほのぼのした雰囲気で花輪を作っている。
「こたも…。にちゃと、ばっちゃと、さっちゃにあげゆ」
「あ、ありがとな、虎太郎。……みんなに作ってくれるのか」
これは時間が掛かりそうだ。竜一は覚悟を決めて虎太郎を手伝う。
隼は鷹がすぐに諦めてへそを曲げるのが面倒なので、弟には花を渡す役を命じ、自分がそれを編んでいってやる。その為進むスピードが速い。
「これ、最後のほうはどうすんだ?」
隼に聞かれ、咲茉が自分の作りかけを使って説明する。
『最後はね、今まで編んだのを輪っかにして、重なるところを茎で結ぶの。余ったら隙間に入れると目立たなくなるよ。あとはブレスレットにするのかネックレスにするのか冠にするのかでお花を編む長さが決まるかな』
「そうか。さんきゅ」
みんな黙々と花輪作りを進めていく。
しばらくして、ようやく完成した。それぞれ冠だったりネックレスだったりブレスレットだったり。
やっと終わった………。
同じ工程が延々続き、疲れた兄2人は肩や首をぐるぐる動かして気分転換を図る。
『みんなお疲れ様!上手にできたね』
「おねえちゃまありがとうでしゅ!」
『どういたしまして。はい、3人とも。これは私からのプレゼント』
「「「!」」」
咲茉が奇凛と虎太郎と鷹の頭に冠を乗せる。
『一生懸命頑張ったから、ご褒美ね』
「わあい!」
「う!あーと!」
「やったー!」
「鷹は殆ど何もしてねえだろ」
「まあまあ、狼谷。いいじゃないか」
広場に戻ろうと立ち上がる一同。
ぽすっ
ふぁさっ
『え?』
咲茉の頭には花冠、首にはネックレスが掛けられた。
「それ、やる」
「結城さんが教えてくれたおかげでみんなの花輪ができて喜んでるよ。ありがとう。いちばん頑張った結城さんに、俺たちからプレゼント」
『あっ、ありがとう……』
思い掛けない展開に、咲茉が頬をピンク色に染めてはにかんだ。
「ままー!」
「奇凛。みんなもおかえりなさい」
広場で待っていた奇凛の母が笑顔で6人を迎える。
「あら、奇凛。素敵な冠ね。お姫様みたいよ」
「えへー!これ、ままにちゅくったの」
「まあ…!」
奇凛が母の頭に冠を乗せる。少し不格好だけれど、娘の愛がたっぷり詰まった花冠だ。
「ままもおひめちゃま!」
「ありがとう、奇凛。とっても頑張ったのね」
「エマおねえちゃまがちゅくりかたおちえてくれたんでしゅよ」
「そうなのね。結城さん、ありがとう」
『いえっ、頑張ったのは奇凛ちゃんですから』
子どもたちと同様、咲茉の頭や首にも花輪が鎮座している。
「エマねえぢゃのはりゅうとあにぎがつくったんだじょ!」
「あら」
竜一は作りそうだと思ったが、まさか隼まで花輪を作って咲茉にプレゼントしていたとは。
「わざわざ言わなくていいんだよ、このアホ」
少しだけ赤くなった隼を、奇凛の母は見逃さなかった。
「いっぱいがんばったからおなかしゅきまちた…」
「じゃあ、犀川さんが持たせてくれたおやつがまだあるし、お茶会にしようか」
『賛成!』
「わあい!」
「おでもまたおかしくうじょ!」
手を洗い、更にウエットティッシュで拭いてから、みんなでお茶を飲み、おやつを食べる。
和やかな時間が過ぎっていった。
つづく
コメント
1件
春の陽だまりみたいに暖かい回だったね🥀🤍 咲茉が教えた花冠を、逆にみんなからプレゼントされる展開、じんわり胸が熱くなったよ。特に隼が赤くなるところとか、竜一の「いちばん頑張った結城さんに」って言葉がすごく優しくて…。子ども達の一生懸命な姿も可愛くて、読んでて自然に笑顔になれた回でした🌙