何気なく押す鍵盤からはどうしても『孤独』という文字が消えてくれない。
ピアノは弾く人の気持ちをよく表すと言うけれど、僕は孤独なんか感じた事はない。
寧ろ、綺麗な音に包まれてとても幸せなくらいだ。
だからそんな事は無視して今日も僕は大好きな曲を弾く。
明るい音色、ピアノでしか表せない切なく、優しい音。
そんな音を奏でていると、勉強の疲れや1人の時間を忘れられる。
僕の中では、指が押したところから音が出る、というよりも音が指を導いている感じ。
いつだって僕の指は頭の中で流れるその音の方へ自然と伸びていく。
目を瞑れば綺麗な鳥達が優雅に舞っている。この景色を僕は一生見続けたいと、そう思っている。
───ガチャ
いつもならなるはずのない音が、ピアノの音に紛れて鳴っていた。
違和感を覚えそっちを見てみると、そこにはスクールバッグを持ったハーフアップの女子生徒がいた。
「綺麗……!」
僕は聞き逃さなかった。
彼女がの発した『綺麗』という一言を。
僕はとても嬉しくなり、演奏の区切りがいい所で止め、彼女に話しかけた。
「このピアノ、すごくいい音だよね」
「え?う、うん!」
突然話しかけられ戸惑っているのか、それとも突然音が止まって驚いていたのか彼女は驚いた表情をしていた。
「吹部もないのにどうしたの?こんな所で」
「えっと、そこの廊下を通った時に物凄く綺麗な音が聞こえたから、誰が弾いてるんだろうって思って…」
彼女は”曲”ではなく、弾いている”人”に興味を持ったらしい。
「あ、あのさ!もしよければだけど…明日もこの時間に弾いてくれない…?」
「いいよ。というかいつもここでこの時間に弾いてるし」
そう言うと、彼女の目は先程よりも明らかにキラキラしていた。
「あ!そうだ!ねえ名前なんて言うの?」
「名前?僕の名前は河宮依織。君は?」
「私は矢城星叶」
『せいか』…何処かで聞いたことがあるような…?
そんな事を考えているうちに矢城さんは「帰らなきゃ」と手を振って帰って行った。
「曲、何が好きかな」
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