彼は咳払いし、じっとりとした目で私をみてから気を取り直して言った。
「こういうのは経験人数じゃなくて、相手の事を考えるかどうかだろ。仮に百人とヤッても、独りよがりな事をしてたなら、ちっとも上達しないと思う」
「……そうですね」
「俺は朱里を気持ちよくしたいと思って、お前の反応を見ながら行動しただけだ。基礎知識があって、自分の快楽に流されない忍耐力があれば誰だってできる事だぞ。……あんまり余計な事を考えるな」
「はい」
彼の話を聞いた私は、何となく安心した。
尊さんは格好いいし、何だかんだ言っていい男だから、女性が彼に惹かれる気持ちはとても分かる。
怜香さんの邪魔があってまともなお付き合いをしていないとはいえ、ワンナイトラブなら何度もあったかもしれない。
(……でも、尊さんが最後に選んでくれたのは私だ。過去に嫉妬しても何も解決しないんだから)
自分に言い聞かせた私は、モヤモヤを打ち明けたついでに、もう一つの事も告白した。
「……私、昨晩、途中で昭人を思いだしてしまいました」
「ふぅん」
尊さんは動じないし、気を悪くした様子も見せない。
「ごめんなさい。我ながら不誠実だと思います。もう忘れないといけないのに」
「それって、どういう感情で思いだした? 田村クンのほうがいいと思った?」
「違います。真逆です。『昭人はこういう事をしてくれなかったな』って」
「なら、いーんじゃね?」
「はい?」
予想外の事を言われ、私は目を丸くする。
「田村クンと比べられて、俺のほうが劣ってたらやだけど、要は俺のほうがいい男だから、『何であんな男と付き合ってたんだろ』って思ったんだろ? それって正常な考えだと思う。DVされてた女性が、まともな男と付き合って世界が開けたように感じるのと似てるというか」
「はぁ……」
言われて「確かに……」と思った。
「お前は今、俺と付き合って幸せなんだよ。だからあまり幸せじゃなかった頃を思いだして、『もっと早く尊さんと付き合いたかった……』って思ってるワケ」
彼は「もっと」の下りだけ、裏声で言う。
「……変な裏声作るのやめてくれます?」
唇を突き出してむくれると、彼は「ははっ」と楽しそうに笑った。
そのあと朝食を食べ終えた私は、彼にプレゼントを渡そうと思い、「ちょっと……」と立った。
そしてバッグを置いてある所まで行き、紙袋ごとプレゼントを持ってくる。
「あ、あの。メリークリスマス。……出遅れましたけど」
「おう、サンキュ」
昨日会った時から紙袋を持っていたから、バレバレだっただろう。
でも尊さんは指摘せず、私の格好がつくようにしてくれた。
……こういうところ、やっぱりさり気なく気遣い男なんだよな……。
「あの……、金額的に釣り合いが取れないかもですが……」
そうは言っても、三万円近くするブランドネクタイなので、私にしては背伸びした。
「そういうの気にすんな。朱里からもらえるなら何でも嬉しい。開けていい?」
「はい」
頷くと、尊さんは白いリボンを引き、モスグリーンの細長い箱を開けた。
中に入っているのは、さり気なくブランドロゴが隠れているシンプルめの紺色のネクタイだ。
「あ、あの。一生懸命考えて選びましたが、好みじゃなかったらすみません」
彼氏にプレゼントをあげて、こんなに緊張するの初めてだ。
立ったままモジモジしていると、尊さんはシュルッとネクタイを箱から出して微笑んだ。
「ありがと。大切にするわ」
お礼を言ったあと、彼は私を手招きする。
「ん……?」
近寄ると、彼は私を抱き寄せて、自分の膝の上に向かい合うように座らせた。
「初めては朱里が結んで。パジャマだけど」
そう言われて、胸がキューッとなった。
なんでこの男、女が喜ぶツボを心得てるんだろ。ムカつく。
「……私、ネクタイ結んだ事ありませんよ」
「お、ネクタイ処女もらい。ラッキー」
「ちょっと! ネクタイ処女とか、変な事言うのやめてくださいよ」
言いながら、私はとりあえず尊さんの首にネクタイを掛けてみる。
「やり方、分かんねぇ?」
「はい……。すみません。中学はリボンで、高校はセーラーだったので」
「セーラーいいな。ガキには興味ねぇけど、朱里のセーラーならめっちゃ興奮するかも」
「変態!」
私は彼の顔面を、むぎゅうと押す。
コメント
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🤭フフフ❤ そうだね、らびちゃん。( ´艸`)❤
ほんとは、朱里ちゃんの初めてはぜーんぶ自分がもらいたかったに違いない…ねっ!ミコティ!!!🤭