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お話…
どんな話をしたら良いのかな。
「ねぇ、僕さ、この城から出たことがないんだ」
「?何故だ?」
出たことがないとは…どうしてだ?
「箱入り娘みたいな感じでね、外の世界は危ないからって。」
「まあ魔物がいたり危ない生物が溢れている。皇子がそんな生物に遭遇し殺されたでもあったら大変だからな」
「へえ、魔物は強いの?」
「魔物か…伝説の魔物は強いがそれ以外は大したことはない。だが皇子くらいの子供ではまだ危ないだろう」
魔物は私にかかればイチコロだが、皇子はまだ10歳も超えていないだろう。
みたところ、6歳くらいだろうか?
「皇子は第二皇子。兄とは少し離れていて末っ子でもある。帝王様が心配なのだろうな。」
「なるほどね〜いつ出られるんだろ」
「もう少し強くなったらだな」
コンコン、とドアを軽く叩く音がする。
「メルギーです。レーデント様、失礼致します。」
「ありがとうございます、メルギー」
メルギーには敬語で私にはタメ口…私舐められてる?
「では数学の授業を始めます」
「よろしくお願いします」
「はい、ではまず復習をしましょうか。」
数学が始まった。
子供でもこんなに難しい問題をしているのだな。だって小学生低学年くらい…
あれ、なんだっけ。小学生低学年って…何だそれは、何も思い出せない。
「聞こえるか、エル」
この声は未鈴だろうか。よく通る大人びた声が頭に響く。
「どうしたんだ」
「これはテレパシーじゃ。思うだけで良いぞ。それよりもお主、どんどん記憶を忘れていっているではないか」
そうみたいなんだ。何を忘れていっているのかもわからないんだ。
「…元の世界には戻らなくて良いのか?」
元の世界…何だ?それは何だ?
「本当に忘れてしまったようじゃな。」
何を…?
「エル、お主の本当の名は何だか知っとるか」
私はエルだ。
「そうか、覚えていないんだな。」
ああ、未鈴が何をいっているのか何にもわからない。
「お主の未来はわかるか?」
脳裏に薄ら…
「紙に書いときなさい、全て忘れてしまうかもしれんからの」
…何かはわからないが承知した。
「皇子、ノートを1ページくれないか」
「え?あ、良いよ」
ビリっと破いてくれた。
「鉛筆を貸してくれるかな」
「?一緒にお勉強するの?」
「まあそんなとこだ。」
嘘をついてでも思い出す。
絶対に忘れてはいけない記憶が忘れていっている、そんな気がするから。
ものすごい早さで鉛筆を走らせる。ノートのマス目を気にしないで書いているので、それはもうぐちゃぐちゃだ。
急そげ。
忘れてしまう前に、早く文字に残すんだ。
「ふぅ…できた。」
「わあ、ぐちゃぐちゃだね」
「そんなに急いでどうしたのですか?」
「まあちょっとな…」
集中力が切れてしまいそうだ。
この後の授業はメルギーに任せよう。
ちょっと、疲れてしまったな…
「寝るでない。」
寝かせてくれないのか?私は疲れてしまったのだ。
「ダメだ。わしの言うことをその紙切れに書くのじゃ」
仕方ない、わかった。
集中力を振り絞り目を開く。
「では話すぞ。
お主の本当の名は「神月 朱鳥」という。
名前が違う理由はお主がこの地に“異世界転移”してしまったからじゃ。
お主がこの地に来る前には“日本”に住んでいた高校生。まあ少し変わった高校生じゃったな。」
高校生とは?
「それも忘れたのか。高校生というのは学校という勉強をする場所でな、16歳のお主、朱鳥はいじめを受けていたのじゃ。」
いじめられていたんだ…何故?
「いじめというのは些細なことで起こってしまう。朱鳥はとても頑張り屋で、勉強をたくさんしていた。それだけなのに、ガリ勉などと言われ、陰口を言われるようになった。」
そっか…大変だったんだな。
「そのいじめから現実逃避をするために漫画を描いていた。」
漫画?
「漫画というのはな、なんというのじゃろうか…ああ、分厚い紙に絵を描いた本じゃ。」
ふ〜ん、よくわからないや…
「まあ良い。朱鳥はそれを描くのが楽しみで生きていた。いつもの毎日を送る朱鳥が電車に乗ると…」
電車?
「うーんと、人を運ぶ、電気で走る乗り物じゃよ。」
へえ。
「朱鳥は電車に乗った。乗ったはずだった…」
それで、漫画で描いたはずのこの場所に来てしまったんだな。
私は勘づいた。
「そうじゃ。そして、お主は死んでしまうかもしれない。お主が、未来を変えるのじゃ。
いじめられた朱鳥のために、
幸せになるために。」
ありがとう。私、きっと未鈴がいなかったら死んでいた。
その未来をそのまま歩むことになってしまったのだもんな。
ありがとう。
…頑張るよ。未来を変えるために。