テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
アーサー様とのお茶会の時は、侍女達は同席することを許されていない。給仕の方が来られる以外は、アーサー様と二人きり。人目がないので、いつもアーサー様は、私に威圧的な態度をとってくる。
そもそも、婚約前に男女二人きりだなんて色々違うと思うの。せめて、扉を開けておいてくれたら、侍女のエレナが見守ってくれると思うのに……。
マリーベルは、心ここにあらずという面持ちで、習慣的に身についている動作の淑女の礼(カーテシー)をとり、席に着く。
早くこの時が過ぎますように、と心の中で唱えていたマリーベルは、前回のお茶会の席でアーサー殿下から質問されていたことをすっかり忘れていた。
「それで? マリーベル……………………
………………………。具体的にどのように改めるのか? 聞かせてもらおうか。」
アーサー殿下は、マリーベルを見つめながら紅茶を一口飲むと、質問をなげかける。マリーベルは、呼びかけられた後に、妙な間があったことから、こわくなる。
「え? ぐ、具体的にとおっしゃられますのは、その、あの……。」
マリーベルは動揺から、しどろもどろになる。
「はぁ……。まさかとは思うが、何も考えずにここへ来たのか?」
アーサー様の眉間には皺が寄っていた。
「そ、そ、そう言われましても……。」
今日呼び出されたのは、悪女の噂を払拭する具体的な案を確認するためだったのですね?
具体的な案って、噂は消すことなんてできないわ。それ以上のありえない噂を流すとか? かしら。いいえ、このまま、噂通りだから、婚約者にはふさわしくない、とならないかしら。名案かも。
何かしら。アーサー様の視線が痛いわ。
あまり、見ないでもらえないかしら。はい、おっしゃる通り何も考えずに来ました。えぇ、本当に申し訳なく……。だめだわ、こんなことを言ってしまったら、大変なことになるわ。
何か言わなければ。と、とにかく、考える時間を作らなければ。
一旦、気持ちを落ち着けましょう。
マリーベルは紅茶を飲もうと、カップに手を伸ばそうとした。
「お前はこの三日間、何をしていたのだ?三日もあれば、今後の行動リストを作成して私に持ってくるのが普通だ。城の者であれば即座に持ってくるぞ。」
マリーベルは、緊張からガタガタと指先が震え始めた。とてもカップが持てそうにない。
カップに伸ばしかけた手を止めて、何とか膝の上に下ろした。
こわくて目を合わせることができなくて、視線を下に向けたまま、返答する。
「そ、それは、とても優秀な方達ですのね。わ、わ、わ、私には、とても出来かねます。」
ドンッと激しい音が聞こえて、マリーベルは小さな悲鳴をあげる。
「ヒィッ。」
マリーベルは、身体を思わず後ろへ仰け反らせる。
どんな時でも表情を崩さないように、という基本中の基本マナーも、アーサー様の前ではできませんっ。
「アーサー様、テ、テ、テーブルを叩くの
は、どうか、おやめください、心臓に悪いです、私、あの、私……。」
どうにか反論したマリーベルだったが、呂律が回らない。上手く言葉が続けられなかった。
そんなマリーベルを見つめて、アーサー殿下は得意気に言葉を続ける。
「私に指図するのか? まぁ、いいだろう。お前が何も出来ない事は承知している。時間がないのは勿論分かっているよな?」
コクコクコクと、マリーベルは怯えながら首を動かす。
もう、何も考えられない。
圧力を感じるわ。気を抜くと涙が出てきそう。も、も、もしかして、アーサー様は、私をいじめて楽しんでいるのでは? あ、あんまりです、アーサー様……。
「それでだ。最低限、婚約者としてお前に必要な事を考えてきた。」
「ひ、必要な事? 婚約者として?」
「よいか。大切なことを三つ伝える。
まずは、感謝の気持ちだ。そして思いやりだ。まぁ、優しさだな。最後は愛情だ。
愛のない生活は耐えられないからな。
復唱してみろ。」
「へ?」
何を言わされようとしているのか分からず、マリーベルはコテンと首をかしげる。
「記憶力も悪いのか………… 。感謝、思いやり、愛情だ。繰り返せ。」
「はいっ、か、感謝、思いやり、愛情。」
ん? 愛情? 何を言わされているの?
いったい、アーサー様は何を考えているの?
具体的な噂を払拭する案の話ではなかったかしら。
感謝や思いやりは大切なことよ。それはともかくとして、愛情とは、誰が誰に対してのこと?
愛情は、こんな脅されて、強制されるものだったかしら。
お互い惹かれ合い、想いあい、自然と心中から溢れてくる感情のこと……よね。
だめだ、もう、全然、何をしているのか分からないわ。
混乱するマリーベルと違い、アーサー殿下は嬉々としている。
「とりあえず、感謝の気持ちを表現すること
から初めてみろ。」
「ど、どのようにしたらよいのでしょう……?」
先程までの嬉々とした表情から一変。アーサー殿下の眉間の皺が、深まる。
「まずは、私への感謝から。」
「い、今ですか?アーサー様への感謝、感謝すること、えっと、そ、そうですね、
ほ、本日は、ほ、本日も、そ、そうです、
貴重なお時間を頂き、ありがとうございました!」
マリーベルは、何か感謝しなければと、しぼりだすように無理矢理感謝の言葉を述べた。
無難な答えが言えたわ、やれば、できるわ私。
「……」
あら?
マリーベルは、ビクビクしながらも、アーサー殿下の様子を窺う。
どうして、固まっているの?
無言で何の返答もない。ということ、間違えた……?間違えたのですね。
アーサー様が、望まれる答えが分かりません。どうしましょう。
場の空気が、ずーんと鉛のように重く感じる。
「ちがう、そうじゃない!私がお前の婚約者であることへの感謝だろう!」
「そんなっ、感謝できません!」
「なっ!」
しまった、本音が。
マリーベルは咄嗟に手で口を覆う。
また、怒られるわ。どうしましょう。
ちらりとアーサー様の表情を窺う。
予想とは違い、眉間に皺が寄っていなかった。
そんな顔をするアーサー様を、初めて見た気がする。
どうして、そんな苦しそうな顔をしているの?
「う、嘘でもいいから…………言うように! 言い終わるまで帰れないものと思え!」
「そんなっ、あんまりです!」
あまりにも横暴ではないかしら。
アーサー様は、ただ、じっと見つめてくる。
視線が痛い。
無言の圧力だわ。
もう、帰りたい、嘘など言いたくはないのに。
「分かりました。
アーサー様が婚約者で嬉しいです。
アーサー様には感謝しています」
棒読みになっているのが、自分でも分かったけど、なんとか言い切った。
マリーベルの答えを聞くと、アーサー殿下は、先程までの雰囲気が嘘のように、急に顔を綻ばせる。
アーサー様?
初めて見るその笑顔に、マリーベルは、不確にも見惚れてしまった。
驚いたからというのもある。こんなに優しい顔もできるのに、もったいない。
色々な想いから、凝視していた。
マリーベルと思わずパチっと視線が合うと、アーサー殿下の耳がほんのりと赤くなる。
プイッと顔を逸らすと、アーサー殿下は早口で話す。
「そんなに、見つめられると照れるな、そんなに嬉しいか? では、今日は、もう帰ってもいいぞ。その調子で、周囲の者達へも感謝の気持ちをわすれないように。」
言いたいことだけ言い終えると、そそくさと部屋を出て行かれた。
いったい、何だったの?
呆然とする中、マリーベルは、入室してきた侍女によって、現実へと引き戻された。
本当にアーサー様は、謎だらけだわ。
一体、何を考えているのかしら?
#ハッピーエンド
#再会
#ハッピーエンド