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アランは、歪む視界の中で必死に前へ進んでいた。遺跡の空間は静まり返っているはずなのに、耳の奥ではずっと囁き声が続いている。それがリリスのものなのか、別の“何か”なのか、判別がつかない。
闇の奥に、かすかな光が見えた。
「……リリス?」
光の中心にいたのは、小柄な少女。あの、無邪気で笑っていた頃のままの姿。だが近づくにつれ、その姿に“違和感”が混じりはじめる。
リリスの影が、揺れていた。まるで、別の何かが彼女に取り憑いているかのように。
「戻って、アラン……ここは、来ちゃダメ」
震える声。だがその言葉とは裏腹に、彼女の背後から黒い触手のようなものがアランへ向かって伸びてくる。
アランは剣を抜き、叫んだ。
「そんな顔で言うな! 絶対に助けるって、誓っただろ!」
触手を斬りつけるも、数は増え続ける。光が揺らぎ、アランの足元に罅が走った。
「ッ――!?」
その瞬間、地面が崩れ、アランの体は闇へと落ちていった。手を伸ばすリリスの姿が、どんどん遠ざかっていく。
「アラ……ン……」
最後に聞こえたのは、リリスの泣き声だった。
目を覚ましたとき、そこは見知らぬ荒野の中だった。遺跡は跡形もなく崩れ、リリスの気配も感じられない。アランは拳を握りしめた。
「……もう一度、必ず辿り着く」
その誓いは、かすかな風とともに空へ消えていった――。