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同日 同時刻羽田沖上空。合衆国空中司令機機内
アメリカ合衆国空軍に属するこの機体は、本国政府に成り代わって、陸海空軍の指揮や行政を担うことができる最後の砦として導入された。
ボーイング747を改良した機内には、国家安全保障局オフィスをはじめ、会議室、戦略幕僚オフィス、通信室、寝室等が設けられ、国家中枢機能である大統領や国務長官、国防省参謀本部の権限を空中で実行できる能力を兼ね備えていた。
アメリカ合衆国が、核攻撃を受けた際を想定して、核爆発時に生じる電磁パルス対策も厳重に施されたこの機の通称は、
「黒い棺桶」
と、名付けられた。
執務室に掲げられた星条旗を背に、国務長官のロバート・エリオット・フォレスタルは、国家安全保障局から送られたファイルに目を通していた。
200ページにも及ぶその内容は、槇村内閣全閣僚のデータと、東京テロ、東京ジェノサイドに関する調査資料である。
槇村を始め、倉敷、堀内、久保キリカを含む全閣僚や関係者の、これまでの言動や家族構成。
出身大学や、思想、趣味や性的趣向のデータが、顔写真付でがファイリングされている。
フォレスタルは、主要閣僚のデータは数日前から頭に叩き込んでいた。
特に思想は重要だった。
国家間の交渉と言えど、相手も自分と同じ人間なのだ。
弱みを突かれては痛いはずだ。
そして、日本政府が隠している機密資料を、国際平和維持の名の下に開示さえねばならない。
東京ジェノサイド発生時に検知された、東京湾内の微弱な放熱現象。
同湾内から採取された、御来屋岩の含有成分。
東京テロ発生時、防衛省施設内で発生した爆発に伴う電磁波放出現象。
衛星おおすみ回収の有無 。
これらの開示無くしては、米日安保条約破棄も有り得るという合衆国の立場は明確である。
フォレスタルは、ドナルド・ザッケンバーグアメリカ合衆国大統領からの親書を預かっていたのだった。
黒い棺桶は、着陸態勢に入っている。
空はどんよりと曇っていた。