テラーノベル
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『大人になるのがんばらなきゃ』とつぶやいてから、なんだか千歳の元気がない。元気がないのだが、なんかやたら俺にはくっついてくる。俺が仕事中のときにも膝に乗るし、寝るときはやっぱり巻き付いてくるし。
千歳の座椅子が今日届いて、それからは千歳は俺の膝に一度も乗っていない。『がんばる』問って、ずっと自分の座椅子に座って組紐を作っているが、やっぱりなんだか顔がしょんぼりしている。
なんか悩みでもあるんだろうか、自分が子供だなって悩んでるんだろうか?
夕飯もお風呂も済んだ夜のまったりタイム。迷った末、俺は座椅子で組紐を作っている千歳に聞いてみた。
「ねえ、千歳。元気ないけど、なにか悩んでる?」
千歳(黒い一反木綿のすがた)は気まずそうな顔になり、体を小さくした。
『……べ、別に元気なくない、悩んでない』
「でもさ、なんか、子供っぽいってのを気にしてるみたいだから」
『…………』
千歳は返事をしなかったが、もっと身を縮めてしまった。どうしよう、多分図星なんだけど、聞かないほうが良かったかなあ。
俺は、なんとか千歳を慰めたかった。
「えっと、確かに千歳はものすごく大人ってわけじゃないけど、でも、千歳のこれまでを考えたら、すごくよくやってると思うんだ、だってすごく家事能力高いし、俺の世話たくさんしてくれて体治してくれたし、頼まれた仕事ちゃんとできてるし、人を思いやれるし、ひとだすけみたいなこともできてるしさ」
『…………』
千歳は愁眉を開いてくれない。くそ、慰めが足りないか?
「えっとさ、千歳の核の人は中学生くらいで死んじゃったわけだけど、それからずっと祠に閉じ込められてたんだからさ、まだ子供なところがあったって当たり前だよ、むしろ、そういう来歴の人にしてはすごくよくやってて、だいぶ大人だよ」
『…………』
千歳はうつむいてしまった。
『……できてることもあると思うけど、ワシ、子供だなって思うところは別のことで、そっちは全然治せなくて、叶わないとすごく寂しい』
「別のこと? どんなこと?」
『……恥ずかしいから、言えない』
こ、困ったな……うーん、恥ずかしくて人に言えないって、まあ、十代くらいの精神年齢ではよくあることではあるけど……。
……ん? 千歳、叶わないと寂しいって言ったな? 何か、願い事とか、欲しいものってこと?
「……うーん、じゃあ、言わなくていいから、俺の話を聞いてほしいんだけど」
『なんだ?』
「あのさ、小さい時に叶えられなかった願い事とか、手に入らなかった欲しいものって、大人になってから暴発することがあるんだよね」
『……? どういうことだ?』
千歳は首を傾げた。
「えーと、漫画とかゲームで話すとわかりやすいんだけど。子供の頃、親に禁止されて、漫画読みたいのに読ませてもらえなかったり、ゲームしたいのに買ってもらえなかったりした人って、大人になってから、ものすごく漫画集めたりゲームにハマったりするっていう話があってさ。小さい頃満たされなかったものが、大人になってから暴発しちゃうんだよね」
『まあ……大人になったら、親に買ってもらえなくても自分で買えるしな』
「漫画やゲームならまだ良くて、小さい頃お父さんがいない家庭で育った女の子が、大人になってから、父性を感じるすごく年上の既婚男性にばっかり恋しちゃうとか」
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『うーん……それはちょっとなあ』
千歳は顔をしかめた。
「で、そんでさ。千歳はまだ大人じゃないところがあって、叶えたいけど我慢してることがあるみたいだけど、あんまり我慢すると、大人になってからよくない暴発しちゃうかも、っていう話。恥ずかしいなら、叶えたいことが何かは別に言わなくていいけど、そんなに我慢しないほうがいいよって話」
『…………』
千歳は、驚いたように目を瞬いた。
「俺はさ、千歳が欲しいものがあるなら探すの手伝うし、物じゃなくても、してほしいことがあるなら、できるだけするからさ」
『…………』
千歳は腕を組み、うつむいて考え、天井を見上げてまた考え、そして言った。
『……なんでもか?』
「俺にできることなら」
『…………』
千歳は組紐の材料をまとめ、手に持って、座椅子を立って俺のところに来た。ボンと音を立てて、小さな子供の姿になって、俺の膝によじのぼってきた。
「え、どした?」
『……しばらくここで組紐作る。前、ワシの座椅子が届いてもお前の膝に座らせてくれるって言ったじゃないか』
「言ったけど、今の流れ的に悩みを教えてくれるのかと……」
『…………』
千歳は、無言で俺の腹に背中をぶつけた。
……ん、いや、流れ的に俺の膝に座りたかったってこと?
そんなんいつだっていいのに、と思ったけど、千歳が子供っぽいことを悩んでるのを思い出して合点がいった。まあ、確かに、膝に座りたいって子供っぽいけど。
ん? でも千歳、叶わないと寂しいとか言ったな? え、俺の膝に座れないと寂しいの?
『……お前にくっついて寝るのも、まだしていいか?』
千歳が俺を見上げて聞いてくる。
「え、うん、別に全然いいけど」
反射的に答えて、気付いた。くっついて寝るのも含むってことは、スキンシップ的なこと全般?
スキンシップ……。誰かの膝に乗ること。誰かと添い寝すること。
……千歳の核の人は、あんな座敷牢育ちだ。小さい頃に、誰かの膝に乗るとか、添い寝してもらうとか、そんな機会ほとんどなくてもおかしくない。
うわー、考えるだけでかわいそうになってきた! そりゃ千歳、スキンシップに飢えてるよな! 精神年齢中学生くらいだとしても、誰かとスキンシップしたくておかしくないよな! 下手するともうよくない暴発の年頃だよ!
『……ワシ、くっつくの、寒くなくてもしたい』
俺の考えを裏付けるように、千歳がつぶやいた。
『お前が彼女できて結婚して子供できるまでには大人になるから、お前にくっつきたいのは嫁とか子どもの方に譲らなきゃいけないから、だから、今は、まだしばらくくっついてもいいか?』
俺を見上げる千歳の目は、潤んでいた。
「…………」
……千歳を抱きしめてなでくり回したい気持になった。そうだよな、もっと誰かにくっつきたかったよな、くっつけなくて寂しかったよな。
「……俺に彼女なんてさ、いつ出来るかわからないんだから、心配しなくていいよ、俺で良ければいくらでもくっつきな」
いくらだってくっついていいよ、いくらでもおいで。
抱きしめてなでくり回したら流石に子供扱いし過ぎかなと思って、俺は代わりに千歳の背中をなでた。
「誰彼構わずくっついたらトラブルのもとだから、他の人にくっつきたくなったらその人にいいよって言ってもらわないとダメだけど、でも俺は全然かまわないから」
そう言って千歳の背中をポンポンすると、千歳の表情がやっと和らいだ。
『……うん』
そのまま千歳は俺の腹に背中を預けて組紐を作り続け、俺は足がしびれた。
コメント
1件
あああっ、もう、だめだ……🥺🤍 千歳くんが「大人にならなきゃ」ってがんばってるのに、実は「くっつきたい」って素直に言えなくて、でも潤んだ目で「まだしていいか?」って聞くところ……胸がぎゅってなった。 「自分で我慢してる」って気づいて、それを「暴発しちゃうよ」って優しく受け止めてくれる主人公の言葉、すごく温かかった。 「誰かとくっつくこと」に飢えてたんだね、千歳くん。 それが叶って良かった、って心から思えた話でした🌙