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星崎視点
「あ⋯映った映った!
そっちはどうですか?」
僕はどうしても寂しさを拭いきれなくて、
彼にLINEのビデオ電話をしていた。
ホテルのベッドであぐらをかき、
優里さんはリラックスした状態で、
僕の雑談に応じてくれた。
「すごい寒いよ。
あーでも飯はうまい」
久しぶりの電話での会話なのに、
開口一番でご飯の話をするのが、
何だか可愛らしく和やかな空気感だった。
「そうじゃなくてツアーの方ですって!
順調そうですか?」
「チケットソールドしてるから問題ないよ」
そんな他愛のない話をしていた時だった。
ピンポーン
え?
誰だろう。
何か注文したような覚えはないが、
一言だけ優里さんに断りを入れて、
玄関に向かうと配達員らしく荷物を抱えていた。
よく分からないなりに受け取って部屋に戻る。
「おー来たか。
開けてみ」
え?
あ⋯よく見たら差出人のところ優里さんの名前だ。
中身は何だろう。
箱折のお菓子で八ツ橋の詰め合わせが、
ダンボールいっぱいに入っていた。
優里さんはこうしてツアーがあると、
お菓子やその場所で食べて美味しかったものなどをこうして、
お土産として度々送ってくれていた。
「わあー美味しそう。
いつもありがとうございます!」
数が多いのは僕たちだけではなく、
スタッフの分も含んでいるからだ。
こういう優しさが優里さんらしさ全開だなと改めて思う。
その後も話し込んではいたが、
どうしても予備軍のことは言えなかった。
この穏やかな時間がずっとは続かないのかな。
僕は無性に不安の底に突き落とされる。
「大丈夫か?」
「優里さんって凄いなあ。
どうして気づくんですか?」
「そんなの誰よりも瑠璃夜を見てるからだろ」
ドキッ
え?
こんな歯の浮くようなセリフだなんて、
優里さんの口から何度も聞いているはずなのに、
何でこれほどまでドキドキするのだろう。
何でこれほどまで心を乱されるのだろう。
何だかまるで告白でもされたように優里さんを意識して、
気恥ずかしくなってしまう。
この気持ちっていったい何?
僕はどこかソワソワしたまま通話を終えた。
「さて行きますか」
今日は午後からの仕事が数件あった。
「失礼します」
僕は大森さんたちがいる楽屋に来ていた。
挨拶回りも兼ねているが、
差し入れを配るためだ。
「あれ⋯八ツ橋じゃん。
京都に行ってたの?」
早速僕が片手に抱えている箱折を見ながら、
若井さんが声をかけてきた。
「行っているのは優里さんです。
お土産を自宅に送ってくださったので、
よかったどうぞ」
「うわ〜ありがとう!」
天真爛漫な子供のように藤澤さんが喜ぶ。
自分が用意したわけではないが、
こういう純粋な反応をされると、
こっちまで嬉しくなる。
きっと藤澤さんのキャラもとい人柄なのだろう。
「優里さんと⋯どういう関係?」
大森さんからいきなり警戒するような、
探りを入れるような、
何とも言えない目で聞かれた。
正直どうと言われても困る。
「仕事上の先輩で友人です」
そう答えても僕の答えには満足できないのか、
まだ彼の目からは警戒の色が滲んでいた。
どうしよう?
何て答えたらよかったのか分からない。
居た堪れない微妙な空気が流れて、
僕は思わず逃げてしまう。
「お邪魔しました」
何だか今日の大森さんは怖い顔をしていた。
僕の発言が不味かったのか、
元々ちょっと機嫌が悪かったのか、
明らかにいつもの大森さんではなかった。
もしかして体調不良だろうか?
もしそうだとしたらあまり干渉せずにいた方が、
ゆっくり休めるかな?
「ふーさん!
遊びに来ました」
深瀬さんにも優里さんからもらった八ツ橋を差し入れをして、
少し雑談をする。
優里さんは僕に本当は「生八橋」というものがあり、
それが美味しくて同じものを食べさせたかったらしいが、
八ツ橋よりも傷みやすく、
現地でしか食べられないため諦めたらしい。
「へえ〜生八橋か。
それは知らなかったな。
あ⋯そういえばリハビリはどう?」
「少しずつ治療していくことにしました」
僕の返答に安心した表情を浮かべる深瀬さんを見て、
こんなにも心配させてしまっていたのかと思い知った。
「何なら車出そうか?」
ドキッ
あれ?
まただ。
優しくされるたびに、
心の中を乱される。
これはーーーーー?
相談してみようかな。
「んー⋯そこまでしてもらうのはちょっと、
ありがたいですが申し訳ないですね」
「じゃあ⋯俺が一緒にいたいからって言ってもダメ?」
他のメンバーもいるためこそっと、
深瀬さんが僕に耳打ちする。
そんな言い方をされたら断れない。
甘えてしまってもいいのだろうか。
「ダメではないです」
「じゃあ行く時は連絡してね」
そんな約束をして、
僕たちは一旦別れた。
コラボ企画のインタビュー取材を受けるために、
部屋に向かうと相手方と記者が既にいた。
「すいません、
遅れてしまって⋯」
僕が謝ると気さくにまだ打ち合わせがあるから、
問題ないと返された。
チラッと対談相手を確認した際に、
大森さんと目が合う。
ザワッ
あれ?
何か違う。
優里さんや深瀬さんに感じたものとは、
違う何かを大森さんに感じた。
(なんて考えすぎ?
気のせいかな?)
やっぱり深瀬さんに一度相談してみよう。
そんなことを考えながら取材を終えた。
その後はテレビでのグルメロケ、
YouTube配信用のアカペラ動画撮影などをこなして、
今日の仕事を終えた。
「あ⋯リハビリ行く時は声かけろって言われたな」
僕が仕事を終えたことと、
病院に行きたいことをLINEで送ると、
すぐに既読がついて迎えに来てくれた。
「お疲れー!
乗って乗って」
「ありがとうございます」
僕たちはその足ですぐに病院に行き、
診察や検査を受ける。
これがまた面倒なことに、
複数の検査があり、
その度に待たされる。
「ふあぁ⋯⋯」
仕事終わりの体には、
ただの検査だけでも負担でしかなかった。
「辛かったら寝なよ?
肩くらい貸すし、
順番が来たら起こしてあげるから」
睡魔に抗えなかった僕はその提案を素直に受け入れた。
気が遠くなるほどの検査を経てようやく診断結果が出た。
体に異常はないため、
低音の乱れは一時的なものだと判断された。
自分の武器である持ち味まで、
だめになったわけではないと知り、
僕はほっと胸を撫で下ろした。
ここから悪化しないように経過見守りの必要があるため、
しばらくは通院しなければならない。
その病院からの帰りにずっと気になっていたことを聞いてみた。
「普段は何も思わなかった人からかけられた言葉に、
ドキドキ?
心が動揺するのって変ですか?」
「は!?
えっと⋯⋯変ではないよ?」
変ではないというその言い回しに違和感があった。
変じゃないなら何?
何故か深瀬さんが明らかに動揺していた。
「じゃあ⋯目が合うだけで、
心がざわつく感じがするのも普通ですか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯恋、
してるんだね」
ん?
恋?
は?
誰が誰に?
僕は一瞬で頭がパンクしそうになる。
心がざわつくほど掻き乱されるのが恋なら、
僕は大森さんが好きってこと?
(まさかそれはないでしょ)
でも何で?
というかいつから?
どのタイミングで好きになったのか思い出せない。
ヒーローみたいにスタッフのいじめから庇ってくれた時?
小鳥遊社長を解雇させるために協力してくれた時?
アンチから守ろうとしてくれた時?
予備軍と診断されて寄り添ってくれた時?
きっかけが全然分からない。
ねえ、
「好き」って何ですか?
恋って、
「きっかけ」も「理由」もなく、
いきなり始まるものですか?
雫騎の雑談コーナー
はい!
いかかでしたでしょう?
前回までは好意の芽が息吹く程度でしたが、
深瀬さんの言葉で大森さんへの好意をはっきり自覚するんですね。
やっとですよ!
やっと!!
ここまで来んのに42話分も使っちゃうというね。
あいも変わらず文才死んでますな。
そんじゃー本編っす。
まだ3人が自分を取り合っていることに気づいていない星崎ですが、
徐々にふとした何気ない瞬間や仕草で、
よーやく意識し始めています。
ただね意識するだけで、
あくまでも「気になる人」止まりなんです。
きちんと恋愛感情で「好き」とはまだ自覚できてはいないんですな。
次回はイチャイチャついでにセンシティブにしたい(設定というより願望)
鈍感ちゃんは書いてて書きずれえぇ!!
ちっとも話が進まん。
ノロノロ進行すぎて焦ったいわ。