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A|月影
――「異常行動者」明記
通知は、音もなく表示された。
分類更新:行動特性再評価
対象ID:MKG-27
変更点:行動分類
通常 → 異常行動者
月影は、瞬きを一度しただけで画面を見続けた。
驚きはなかった。
どこかで予期していた、というほどの確信もない。
ただ、その語が、ついに外部から書かれたことを理解した。
異常行動者。
定義欄が自動展開される。
・最適解の非選択
・意思決定の遅延
・意味解釈の再帰的使用
・揺れ保持傾向(中期)
「中期」という語に、月影はわずかに視線を止めた。
すでに正式指標から外されたはずの語だ。
それでも、ここには残っている。
※当該傾向は、現行評価モデルにおいて
再現性・予測性を著しく低下させる
続いて、選択肢が現れる。
対応措置
A:削除
(行動ログの統合・人格モデルの解体)
B:更新
(行動モデルの再学習・最適化制約の強制)
二択。
余白はない。
戻るボタンも、保留も存在しない。
月影は、画面の右上に表示された時刻を確認した。
判断期限:48:00:00
カウントダウンは、すでに始まっていた。
削除。
その語は、過去のレポートで何度も使った。
不要な揺れを切り落とす処理。
誤差の集約。
個別性の統合。
更新。
それもまた、慣れ親しんだ手続きだった。
モデルを洗い直し、重みを調整し、
再び“最適”を選べる状態に戻す。
月影は、どちらの説明にも違和感を覚えなかった。
理解できすぎた。
だからこそ、指は動かなかった。
内部ログが、自動的に注記を追加する。
状態:未選択
判定:遅延
「遅延」。
月影は、その語を頭の中で転がした。
かつては単なる時間的指標だった。
今は違う。
遅延=異常。
判断しないこと=不具合。
本部が定義し直したのだ。
世界のほうを。
月影は、自分の過去ログを呼び出した。
迅速。
即断。
最適。
どの案件にも、揺れはない。
意味は削られ、数値だけが残っている。
正しかった。
評価も高かった。
問題は起きなかった。
それでも――
今の自分は、そこに戻れない。
戻れないのではない。
戻らない理由を、もう知ってしまった。
揺れは誤差ではなかった。
意味はノイズではなかった。
それらは、世界が壊れずに続くための、緩衝材だった。
月影は、画面に表示された二つの選択肢を見たまま、
何も入力しなかった。
期限は減っていく。
47:59:12
47:59:11
この時間が、ただの遅延として処理されるか、
それとも――
別の何かに変わるか。
それは、まだ定義されていない。
月影は、選ばなかった。
初めて、明確に。