テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
#Paycheck
ゆゆゆゆ
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
仕事終わり。
店の灯りが落ちていく中、外の空気は少しだけ冷えている。
昼間の喧騒が嘘みたいに、静かだ。
エリオットは裏口から出る。
そこにいると、分かっているみたいに。
路地の奥。
黒いコート。フェドラ帽。
街灯の下、マフィオソは動かず立っていた。
「来たか」
「……ああ」
短い返答。
足を止める距離も、さっきとほとんど同じ。
無意識に、詰めすぎない位置を選んでいる。
「続きを聞かせろ」
余計な前置きはない。
マフィオソはわずかに笑う。
「いいだろう。今度は邪魔も入らない」
その言い方に、エリオットの眉がほんの少し動く。
「君が知りたがっているのは、“彼の見ていない部分”だ」
「……見せてない、だろ」
「同じことだ」
さらりと返される。
マフィオソは一歩、距離を詰める。
「彼は、全部を見せるタイプじゃない」
「……知ってる」
「だが、君は“見たつもり”でいる」
その言葉に、エリオットの視線がわずかに鋭くなる。
「……言い方が気に食わないな」
「事実だ」
即答。
沈黙が落ちる。
マフィオソはそのまま続ける。
「例えば――」
わずかに首を傾ける。
「彼が何を捨ててきたか、知っているか」
エリオットの呼吸が、わずかに止まる。
「……何の話」
「簡単な話だ」
低く、静かに。
「彼は、一度すべてを切り捨てている」
その一言で、空気が変わる。
「仲間も、場所も、関係も」
さらに踏み込む。
「当然、私もその中に含まれている」
街灯の影が揺れる。
「……なんで」
エリオットが口を開く。
「そんな話、俺にする」
マフィオソは少しだけ目を細める。
「君が知りたがっているからだ」
即答。
「そして――」
指が、ゆっくりと持ち上がる。
今度こそ、触れる距離。
「君は、それを受け入れる側の人間だ」
「……何を根拠に」
「さっきの顔だ」
あの時。
“否定できなかった”瞬間。
マフィオソの指が、エリオットの手首に触れる。
冷たい。
「君は、彼のすべてを知ったとき――」
ゆっくりと、力がこもる。
「離れられるか?」
沈黙。
答えない。
答えられない。
「……続けろ」
低く、押し出すように言う。
マフィオソは、満足そうにわずかに笑う。
「いいだろう。では――」
その瞬間。
足音。
鋭く、速い。
次の瞬間――
「エリオット」
声。
振り向く間もなく、腕を強く引かれる。
「っ――」
バランスを崩しかける。
見上げると、黒いスーツ。黒いネクタイ。
サングラス越しの視線。
チャンス。
「……帰るぞ」
短く、低い声。
エリオットの手首を掴んだまま、引く。
「……離せ」
反射的に言う。
だが力は強い。
「後にしろ」
有無を言わせない。
マフィオソは動かない。
ただ、その様子を静かに見ている。
「……相変わらずだな」
小さく、呟く。
チャンスの動きが一瞬だけ止まる。
だが、振り返らない。
「行くぞ」
さらに強く引く。
エリオットの足が、半ば引きずられるように動く。
「……っ」
一瞬だけ、振り返る。
マフィオソと目が合う。
その口が、わずかに動く。
“また今度だ”
声は聞こえない。
だが、はっきりと分かる。
視線が切れる。
路地を抜ける。
「……離せって」
少し荒く言う。
チャンスはやっと手を離す。
「なんで来た」
「来るに決まってるだろ」
即答。
「電話、変だった」
「……は?」
「お前」
少しだけ間。
「引っ張られてる」
断定。
エリオットは目を細める。
「……お前こそ、分かってるだろ」
「何が」
「隠してること」
一瞬、空気が張る。
チャンスは何も言わない。
ただ、わずかに顔を逸らす。
エリオットは小さく息を吐く。
「……また」
ぽつりと落とす。
「遮られた」
静かな声。
怒りでもない。
苛立ちでもない。
ただ、事実として。
チャンスの肩が、わずかに揺れる。
「……あいつの話なんて、聞く必要ない」
低く言う。
エリオットは視線を横に流す。
さっきまでいた路地の方向。
もう、見えない。
「……どうかな」
小さく返す。
「知ってる側が、そう言うなら」
少しだけ口元が歪む。
「余計、気になる」