テラーノベル
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仕事終わり。
店の灯りが落ちていく中、外の空気は少しだけ冷えている。
昼間の喧騒が嘘みたいに、静かだ。
エリオットは裏口から出る。
そこにいると、分かっているみたいに。
路地の奥。
黒いコート。フェドラ帽。
街灯の下、マフィオソは動かず立っていた。
「来たか」
「……ああ」
短い返答。
足を止める距離も、さっきとほとんど同じ。
無意識に、詰めすぎない位置を選んでいる。
「続きを聞かせろ」
余計な前置きはない。
マフィオソはわずかに笑う。
「いいだろう。今度は邪魔も入らない」
その言い方に、エリオットの眉がほんの少し動く。
「君が知りたがっているのは、“彼の見ていない部分”だ」
「……見せてない、だろ」
「同じことだ」
さらりと返される。
マフィオソは一歩、距離を詰める。
「彼は、全部を見せるタイプじゃない」
「……知ってる」
「だが、君は“見たつもり”でいる」
その言葉に、エリオットの視線がわずかに鋭くなる。
「……言い方が気に食わないな」
「事実だ」
即答。
沈黙が落ちる。
マフィオソはそのまま続ける。
「例えば――」
わずかに首を傾ける。
「彼が何を捨ててきたか、知っているか」
エリオットの呼吸が、わずかに止まる。
「……何の話」
「簡単な話だ」
低く、静かに。
「彼は、一度すべてを切り捨てている」
その一言で、空気が変わる。
「仲間も、場所も、関係も」
さらに踏み込む。
「当然、私もその中に含まれている」
街灯の影が揺れる。
「……なんで」
エリオットが口を開く。
「そんな話、俺にする」
マフィオソは少しだけ目を細める。
「君が知りたがっているからだ」
即答。
「そして――」
指が、ゆっくりと持ち上がる。
今度こそ、触れる距離。
「君は、それを受け入れる側の人間だ」
「……何を根拠に」
「さっきの顔だ」
あの時。
“否定できなかった”瞬間。
マフィオソの指が、エリオットの手首に触れる。
ゆゆゆゆ
3,331
#doublefedora
冷たい。
「君は、彼のすべてを知ったとき――」
ゆっくりと、力がこもる。
「離れられるか?」
沈黙。
答えない。
答えられない。
「……続けろ」
低く、押し出すように言う。
マフィオソは、満足そうにわずかに笑う。
「いいだろう。では――」
その瞬間。
足音。
鋭く、速い。
次の瞬間――
「エリオット」
声。
振り向く間もなく、腕を強く引かれる。
「っ――」
バランスを崩しかける。
見上げると、黒いスーツ。黒いネクタイ。
サングラス越しの視線。
チャンス。
「……帰るぞ」
短く、低い声。
エリオットの手首を掴んだまま、引く。
「……離せ」
反射的に言う。
だが力は強い。
「後にしろ」
有無を言わせない。
マフィオソは動かない。
ただ、その様子を静かに見ている。
「……相変わらずだな」
小さく、呟く。
チャンスの動きが一瞬だけ止まる。
だが、振り返らない。
「行くぞ」
さらに強く引く。
エリオットの足が、半ば引きずられるように動く。
「……っ」
一瞬だけ、振り返る。
マフィオソと目が合う。
その口が、わずかに動く。
“また今度だ”
声は聞こえない。
だが、はっきりと分かる。
視線が切れる。
路地を抜ける。
「……離せって」
少し荒く言う。
チャンスはやっと手を離す。
「なんで来た」
「来るに決まってるだろ」
即答。
「電話、変だった」
「……は?」
「お前」
少しだけ間。
「引っ張られてる」
断定。
エリオットは目を細める。
「……お前こそ、分かってるだろ」
「何が」
「隠してること」
一瞬、空気が張る。
チャンスは何も言わない。
ただ、わずかに顔を逸らす。
エリオットは小さく息を吐く。
「……また」
ぽつりと落とす。
「遮られた」
静かな声。
怒りでもない。
苛立ちでもない。
ただ、事実として。
チャンスの肩が、わずかに揺れる。
「……あいつの話なんて、聞く必要ない」
低く言う。
エリオットは視線を横に流す。
さっきまでいた路地の方向。
もう、見えない。
「……どうかな」
小さく返す。
「知ってる側が、そう言うなら」
少しだけ口元が歪む。
「余計、気になる」
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