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とても神秘的でいいと思います!
第三章 ひきこもり
私が死んでから、数日が経った
あれから私はちょくちょく学校を覗いたり、やりのことしたことの様子を見に行ったりした
学校は何故か暗く感じられて、私の机だけがもの淋しく一番後ろの席に並べられていた
もう誰も座らないその席は、やけに静かで私らしくないと誰もが感じたはずだ
涼はいつもの爽やかさが消え失せ、元気の水が底を尽きてしまったよう
琉生はこのところ姿をあらわにしない
どこにいるのかも、何をしているのかも知る由すらない
少し前の私と同じだ
会いたくて、会いたくて、星に願ってまで叶えたこの希望
今はただ見ていることしかできないことに辛さを感じている
何をしているのかな、なんて無責任なこと言えない
この全ての状況を作り出したのは私なのだから
ここんとこ毎日琉生を探してはいるけれど、家にもいない、近所にもいない
よく行った公園にもいない
他に行きそうなところもわからない
…私って、以外と琉生のこと知らなかったんだなって、今更ながらに実感する
みんなより遅れてこの学校に来た私は、一刻も早く琉生達と仲良くなりたかった
なれたと思ってた
でも、実際は涼の足元にも及ばなかったし、今こんなにも行動できずにいる
流石に2年も一緒にいた2人より劣っているのはわかってる
でも、それでも、少しは近づけたと心から感じていたのに
また離れてしまった
琉生は星の天体観測のとき寝言で言ってた
“近づきたい”って、
その時はなんのことかさっぱりだった
でも、今になって、君のことを少しは理解して、わかった
琉生には私たちが星に見えていたんだね
私が2人を見ているように、輝いていて近づくことすらできなくて
だから仲良くはなったけど、少しばかり壁を感じたんだね
心の何処かで僕は違うって、気持ちを切り離して
…私と同じじゃん、
そうこうしているうちに、涼のクラスの授業が終わったらしい
『……琉生…』
『どこにいっちまったんだよ…』
『夕華だって、悲しがるぞ…』
『お前のせいじゃ、ねぇってのに…っ…、』
外へ続く非常階段の縁で涙を零しながらそう言う
そう、琉生のせいじゃない
でも君は優しい人だから、責任を感じてる
〈……君のせいじゃないって、私の口から言えたらよかったな…〉
そう願うのは欲張りだろうか、傲慢だろうか…
私は予鈴が鳴り、教室へ戻る涼を空から見届け、思い出の地を回る
みんなで遊んだ公園
よく行った駅前のカフェ店
琉生の行きつけのカメラ屋
花火大会のあった神社
どれもどれも、私にとっては宝物
かけがえのない思い出の一つだ
でもそのどれもが君がいたおかげで、できた思い出だ
なのに、君の姿は見つからない
今の私は疲れることを知らないから、ずっと探し続けられる
それでも、君を見つけられない
あの綺麗な星になって消えてしまったかのように、影も形もない
〈本当に…君はどこへ行ったの…?〉
空へ手をかざす
眩しいくらいの日の光が、透明な私の身体を照らす
暑いという感覚はない
でも今だけはなんとなく、秋の蒸し暑さが感じられる気がした
この身体は冷たくて、透けていて
今の君とは比べ物にならないほど脆いけれど
それでも君の横にいたいと願ってしまうのは傲慢だろうか…?
〈死んでからも、私は私だなぁ…〉
〈全く変わらないや〉
最期があまりにも静かだったから忘れていた
私は私だ
傲慢で、欲張りで、わがまま
それでいて、芯のある奴だと自分で思っている
〈あ、〉
一つ、大事な所を忘れていた
琉生がいそうな所
私が琉生の立場ならいる所
さすがに幽霊とはいえプライベートに目を向けるのは遺憾かと思い、見に行かなかった
だからこそ忘れていた
琉生はドが付くほど陰キャだ
今は変わったかもしれない
でも私と出会う前はもっとジメジメしていたと思う
……自慢ではないが
表札には”早海”の文字
琉生の家だ
初めて来た
帰宅した瞬間の涼の後を追っていたら、琉生の家に行けた
なんて偶然…
『おい、琉生』
『…頼むから、顔を見せてくれよ…っ』
『さすがの俺でも心配する…』
玄関扉の前でしゃがみ込む
苦しそうな声を上げても、琉生は現れない
「…ごめん、今は一人にして…っ、」
今までずっと泣いていたかのような、泣き止んだあとのような声がした
『っ…、』
『わかった、』
ひとりトボトボと帰路に着く
涼には今まで親友として接してきた琉生からここまで突っぱねられてしまうとどうしたらいいのかわからないらしい
さすがの私でも同じ思いに至るだろう
私が背を向けた背中の向こうで、『くそ…っ、』という苦し紛れの声が上がった
振り返ることはしなかった
振り返られなかった
この悲劇は私が創り出したものだ
目を背けたいわけじゃない
それでも、合わせる顔がないのだ
私は、ごめんなさい、と一言言い、琉生の家の玄関を通る
空中浮遊したこの姿にも慣れて、自由に動き回れるようになった
さすがに最初は違和感だらけだったが…
〈おじゃましまーす……〉
ちゃんと一言
何気に琉生の家に上がるのは初めてかもしれない
…初めてが死んでからとは思っていなかったけれど
暗い暗い、玄関先のリビング
カーテンは閉め切って、生活感のない部屋
観賞用のベンジャミンの木は、元気がなく、床に枯れ葉が落ちている
聖木とは名ばかりだな、と心の何処かで思う
それよりも琉生の様子を見に行かんと、2階に続く階段を登り始める
どこもかしこも、真っ暗
ここだけ全てが別世界のように思えてしまう
階段を登った先の突き当たりの部屋
扉が閉まっている
まさかと思い、幽霊ならではの方法で中に入る
そこには、身をうずめた琉生がいた
まるで、泣きじゃくっている幼児のように丸まっている
部屋は散乱しており、生活できるような雰囲気ではなかった
〈こんなに散らかして…〉
なんて、母みたいなことを言ったが、結局は私を軸に悲劇がある
私が原因なのだ
心苦しくも、持ち前の前向きさでなんとか持ちこたえている
私の目の前で、ずっとずっと、泣き止むことを知らない琉生
恐らく、フラッシュバックしているのだろう
でなければ、こんなにも酷いことはない
「…ごめんね、日比谷さん…」
〈大丈夫だよ〉
〈それに…君のせいじゃ、ないんだけどなぁ…っ、〉
琉生の言葉に合わせて返事をしてみる
それ以上の返事は返ってこないのに
私の涙腺は脆くなってしまったらしい
ポロポロと、透明のシャツを濡らす
泣いても泣いても、君は私を見つけられない
どれだけ心苦しくても、君に触れられない
伸ばした手が君を通り抜ける
〈っ…、〉
もう呆れてしまうね
こんな状況下にあっても、琉生ときっとまたいつか会えるって信じちゃってる
本当に懲りないよ、私は
かと言って、今の私には何も出来ない
私は瞼に溜まった涙を拭って、部屋の隅に座り込む
〈大丈夫、私はここにいるよ〉
〈ずっと側にいるから…〉
小さな声も聞こえないと思うけれど、囁く
大丈夫、大丈夫だよって
独り言みたい
でもそれでいい、それでいいの
ピコンッ
ふと鳴った音に起きる
琉生のスマホにメッセージが来たようだ
メッセージの件数はとっくに3桁を超えていた
〈うわ…、私でもここまできたことはないよ…〉
私は私をなんだと思っているのか…
と一人突っ込む
さすがの琉生もメッセージの件数に引いている
そして、一通のメッセージに目を付けた
即座に開いた
琉生のスマホを覗き込むと、メッセージの相手は涼だった
〈あれ、涼じゃん…どうしたんだろ…〉
まあ、あれだけ突っぱねられてたら、メッセージくらい残すか…
と、謎に納得した
だが、そのメッセージの内容は
『お前、夕華からの伝言、行ったか?』
え、?
なんで涼が知ってんの…?
微かな疑問は残ったが、それを見た瞬間琉生は立ち上がった
先程のぐずぐずとした様子とは一様に変わり、目に光りが戻った
実感、させられた
私のこととなると、君はどん底にも落ちるし、這い上がっても来れるんだね
〈やっぱり君はこの1年で、物凄く成長しているよ…〉
なんだか嬉しくてそう言う
夜中なのに、上着も着ず懐中電灯とサンダルを履き、駆け出す
流石、元陸上部
めっちゃ早い
〈こんなに早かったんだ…、〉
〈私って、まだまだ君のこと全然知らなかったな…〉
体育祭の時も見てはいた
でも実際に隣で一緒に進むと、余計に速さがわかる
周りの景色が一気に後ろに流れていく
〈…これは…、私が幽霊じゃなかったら見られなかったかもね…〉
と、ここにきて初めて幽霊になったことに感謝した
本当は、この伝言は私のいない所で見て欲しかったんだけど…
私まだここにいるんだよね、
ちょっと恥ずかしいな…、w
と苦笑い
そういえば、あとから聞いたけど、涼と琉生が喧嘩しちゃった理由も私が原因だったっけ、
私って惨事の原因になることが多いな…、
改めて自分自身でも、私の影響力の強さに驚くのであった
次回第4章➾あの日
ベンジャミンの木
花言葉:「永遠の愛」「結婚」「信頼」「友情」「家族の絆」
幸福の木として扱われている
その他:インド、ネパールでは聖木(神聖な木)として扱われている
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