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光希
蒼士
サッカー得意、最近は勉強に励んでる
面白い、光希とはサッカー繋がりで知った
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「……満員すぎじゃね?」
朝の通学電車。いつもより少し遅く乗っただけで、車内は人でぎゅうぎゅうだった。光希は吊革にも掴まれず、周囲の圧に押されて体の自由をほとんど奪われていた。
そんな彼のすぐ後ろ――
「よ、おはよ。光希」
耳元に近い位置から聞こえてきた声。その低いトーンと、ほんのりした笑い声で、誰かすぐに分かった。
「……蒼士。近すぎ、離れろ」
「無理じゃね?見ろよこの人の多さ」
そう言って、蒼士はわざと光希の背中に手を当てて支える。いや、“支える”というにはちょっと不自然すぎた。
「おい、手どこ置いて――っ…」
「動いたら目立つぞ?」
耳元で囁かれ、ぞくりと背中を走る感覚。蒼士の手が、腰のあたりに密着している。服の上からなのに、そこだけ熱を帯びていた。
「やめろ、バカ……ここ電車の中だぞ」
「でも、お前……黙ってるじゃん」
蒼士の声は、ますます低く、艶っぽくなる。周囲の視線は誰もこちらを見ていない。いや、見られていないと思いたいだけかもしれない。けれど、その緊張が光希をどんどん鈍らせていく。
蒼士の指先が、制服の裾からじわじわと中に差し込まれてくる。太ももを撫でるような感触に、思わず膝がかすかに震えた。
「……っ、くそ、ほんとにやめろって……っ」
「声、我慢できる?」
「……できるわけ、ねぇだろ」
「じゃ、頑張ってみ?俺も……そっちの顔、もっと見たいし」
唇が耳たぶをかすめた瞬間、光希は小さく息を呑んだ。降りる駅まであと数分――この苦しくて甘い時間が、永遠に続く気がした。
「……っ、くそ、ほんとにやめろって……っ」
「声、我慢できる?」
「……できるわけ、ねぇだろ」
蒼士の言葉に、光希は悔しそうに歯を噛んだ。だが次の瞬間――
《ガタン……!》
電車が急停車し、駅のアナウンスが流れ始める。駅名を告げる音と同時に、ドッと人が降りていく。
一瞬で人の壁が崩れ、視界が開けた。
そして――
「……光希?」
その声に、光希の顔が凍りつく。
振り向くと、そこには制服の前を緩く開けたままの丈が立っていた。スマホを手にしながら、目だけはまっすぐ光希を見ている。その目が、ほんの一瞬で鋭くなるのが分かった。
「……あ、丈」
「……今の、誰?」
丈の目は蒼士を真っ直ぐに射抜いていた。対して、蒼士は悪びれもせず、にやりと笑った。
「俺、蒼士。サッカー部の仲間っす」
「……で、その“仲間”が、なんで光希の腰に手回してた?」
「ちょ、丈、違くて!そ、蒼士が勝手に……!」
光希が慌てて丈の腕を掴む。丈の眉間には怒りのしわ。光希は慌てて言葉を続けた。
「違うってば、そーゆうんじゃ……ちょっとした、悪ノリで……!」
蒼士はその様子を面白そうに見ていたが、丈が一歩前に出た瞬間、少しだけ表情を引き締めた。
「お前さ、光希にちょっかい出すな。……彼氏、俺だから」
「へぇ……マジで彼氏だったんだ」
「……マジだよ。そっちは“遊び”でも、俺は違う」
ピリッと張り詰める空気。光希は慌てて二人の間に割って入った。
「もうやめて!!蒼士、ほんと調子乗んなって……!丈は、信じて……俺、丈以外にそういう気持ちなんて、ないからっ」
少し顔を伏せながら言ったその言葉に、丈は息を吐き、静かに手を伸ばした。
「わかってる。でもさ……言葉じゃなくて、ちゃんと俺の前で証明して?」
「……丈?」
「帰り、うち来いよ。……たっぷり、俺だけのもんにしてやる」
そう言って光希の腰を引き寄せる丈。その腕の力強さに、光希は言葉をなくし、赤くなったまま頷いた。
蒼士はそれを見ながら、肩をすくめて呟いた。
「……いやぁ、まさか彼氏持ちとはな。けど、ちょっと嫉妬するくらい、いい反応だったんだけどなー?」
「お前は黙ってろ!!!」
駅のホーム、張り詰めた空気と、蒼士の軽い笑いだけが残った。
おまけ付き𝙉𝙚𝙭𝙩 .𝐜𝐨𝐦𝐢𝐧𝐠 𝐬𝐨𝐨𝐧…