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光希
丈
お仕置プレイ
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丈の部屋は、相変わらず香水とも柔軟剤とも違う、丈らしい香りがした。ドアが閉まる音がやけに大きく響いて、光希は無意識に肩をすくめる。
「……怒ってる?」
ベッドの端に腰を下ろしながら、光希が小さな声で尋ねる。丈はその正面に立ち、しばらく無言のまま見下ろしていた。
「……正直、ムカついた」
低く絞ったような声。その一言に、光希の喉が鳴る。
「でも、殴るとか怒鳴るとか、しないよ。……代わりに、“忘れさせる”」
そう言って丈は光希の顎を指先で持ち上げ、ゆっくりと顔を近づけた。キスの寸前――ほんの一瞬、視線が交錯し、光希のまつげが震える。
唇が触れ合った瞬間、静かだった空気が熱を帯びていく。
優しいだけのキスじゃなかった。ぐっと深く押し込むような、奪うキス。光希の肩がビクリと揺れた。丈の舌が入り込むと、光希の喉から甘くかすれた音が漏れる。
「っ、丈……ま、待って……っ」
「待たねぇよ。……誰のもんか、思い出させてやる」
シャツのボタンが次々と外され、丈の手が光希の素肌に触れる。くすぐったいような、でもそれ以上に熱い感覚。丈の指先は迷いなく、まるで知り尽くしているかのように光希の弱いところを撫でてくる。
「こんなに反応して……蒼士にされたの、興奮してた?」
「っ……ちが、う……!」
「じゃあ、これは誰に反応してんの?」
「丈……っ、お前、だけだよ……っ」
耳元で囁かれ、触れられ、光希は視線を反らせないまま、体がじわじわと溶けていく。
丈の手が腰にまわり、光希をベッドへ押し倒す。二人の影が重なる音も、吐息も、じっとりと濡れたように空間に残った。
丈は、誰にも渡すつもりなんてなかった。
光希の瞳が、自分だけを映すように。
体の奥まで、自分のものにするように――
その夜、光希は何度も名前を呼ばされて、許しの代わりに、たくさんの愛を注がれた。
後日談
昼休み。グラウンド裏のベンチ。
光希は弁当も持たず、だるそうにそこへ座り込んでいた。顔はどこか虚ろ、脚は軽くガクガク、制服の襟元はちょっと緩んでいる。
そこへ、サッカーボールを片手に現れたのは蒼士。
「お、どうした光希。魂抜けてんぞ」
「……蒼士、お前のせいだ」
「俺?なんかしたっけ?」
にやっと笑って、蒼士は光希の隣に腰を下ろす。光希はぐったりと背もたれに寄りかかりながら、呟いた。
「……丈に、お仕置きされた」
「……」
一拍。
「どんな?」
「……言わせんなよ、察しろよ……!」
顔を赤くして口を尖らせる光希に、蒼士は肩を揺らして笑った。
「まー、そりゃそうなるか」
「お前が……電車で、あんなことすっから……」
「ご愁傷様」
即答だった。
「……なにその薄情な感じ!!」
「だってよぉ、俺だって地味にショックだったんだぞ?彼氏持ちって知ってたけどさ、なんか……もっと、イケるかもって思ってたし」
「……お前さ」
光希は呆れたように笑う。でもその頬には、どこか苦笑と安堵が混じっていた。
蒼士は空を見上げ、少しだけ目を細める。
「でもまあ……お前が本気で好きそうだったから、あれで踏ん切りついたかもな」
「……悪かったな」
「いいって。むしろ丈に感謝してるくらいだし」
「え、なんで?」
蒼士は光希の方を見て、いたずらっぽく笑った。
「だって“お仕置き”された光希、めっちゃヨレてて面白い」
「最低!!お前ほんっと、性格悪っ!」
「でも、それでも俺の方が先に触ったからな?」
「は???」
「事実ぅ〜♪」
その言葉に、光希は盛大に顔を赤くして、蒼士の肩を殴った。
「も〜〜〜〜っ!!!」
蒼士の笑い声と、光希の抗議の声が、グラウンドの風に紛れて響いていた。
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