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部長と私の秘め事

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部長と私の秘め事

第22話 - 第22話　修羅場

31

2024年12月20日

#現代

#ハッピーエンド

#オフィスラブ

#上司×部下

#溺愛

#一途

臣桜

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31

臣桜

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「|小金崎《こがねざき》商事の営業部、田村昭人くん。君の上司の|勢野《せの》とは友達なんだ。あまり俺の恋人を侮辱するようなら、勢野に一言いわなければならないけど」

尊さんの言葉を聞き、昭人は鋭く息を吸った。

「脅してるわけじゃない。ただ、君は朱里の自尊心を著しく傷つけている。九年付き合った恋人と別れたなら、何らかの感情があって当然だ。だが、君は新しい彼女と婚約しているのに、なぜここまで朱里に突っかかる？　自分の元を去った女性にいつまでも執着するなんて、常識的とは言いがたい。一流企業の営業だというのにプライベートで残念な事をしていたなら、いずれ仕事でも何かやらかすかもしれない。そうなる前に友人に『気をつけたほうがいい』とアドバイスするのは当然だろう？」

尊さんの言葉を聞いて、昭人は真っ青になる。

「昭人くん、行こうよ」

旗色が悪くなったと悟った加代さんは、不安そうな顔で昭人のコートの袖を引っ張る。

昭人に反撃した尊さんのやり口があまりに華麗で、もう私から言う事はなくなってしまった。

昭人は仕事ができるし弁が立つけど、尊さんのほうがずっと性格が悪い。

こういうやり合いをして、昭人に勝算があると思えない。

……まさか〝性格が悪い〟が、褒め言葉になる日がくると思わなかったけど……。

昭人は舌打ちをし、ばつの悪い顔をして歩き出そうとする。

尊さんはそんな二人を追いかけるように首を巡らせ、薄く笑った。

「どうぞお幸せに。……株式会社イケイ食品の総務、|相良《さがら》加代さん。今度は不倫をしないようにね」

付け加えた尊さんの言葉を聞いて、昭人が「は！？」と弾かれたようにこちらを振り向いた。

「……っ、不倫ってなんだよ！」

青ざめた昭人の質問に、尊さんはわざとらしく首を傾げる。

「さぁ？　俺は噂を聞いただけだから、本人に確認してみたら？　イケイ食品の跡取り息子の|宇野《うの》常務は、他社の社長令嬢と結婚して二年目だ。……宇野常務と相良さんは学生時代の先輩後輩に当たるんだっけ？　弁当を用意したりとか、適当に嘘をついてラブホに行ったりとか……。まぁ、昔の話だよな？　この話を聞いたのはかなり前だし」

…………う、…………わぁ…………。

私は目をまん丸に見開き、メガトン級の爆弾を落として薄ら笑いを浮かべている尊さんを見る。

「加代？　そんな事ないよな！？」

昭人は顔面蒼白になり、左手の薬指に立派な婚約指輪を嵌めた加代さんを見る。

「……し、知らない……、そ、その人がでまかせ言ってるだけで……」

彼女は涙ぐみながらも、真っ青な顔をしていた。

「でまかせなら、なんであいつが詳細を知ってるんだよ！」

「うるさい！　怒鳴らないでよ！」

路上で激しい罵り合いが始まったけれど、尊さんはそれを無視して私の手を引き、「レストランの予約に遅れるから行くか」と歩き始めた。

「ちょ……っ、ちょっと……！」

私は昭人たちを何度も振り返り、手を引っ張る尊さんの顔を見る。

「放っておけよ。ガキじゃねぇんだから、自分の不始末ぐらい自分でつけられるだろ」

「でも……！」

何か言おうと思ったけれど、あまりの出来事に頭が混乱してうまく言葉にならない。

気がつくと私は、夜景が綺麗なレストランの席に座っていた。

テーブルの奥には鉄板と窓があり、スタッフが焼いた物を食べながら景色を楽しめる席だ。

「飲み物は？」

尊さんにメニューを渡され、私はハッとする。

口を半開きにして尊さんを見ると、彼は何事もなかったかのように「俺は一杯目はシャンパンにしとくかな」と言う。

「……じゃ、じゃあ……。同じ物を……」

「かしこまりました」

オーダーを聞いたスタッフは、お辞儀をして立ち去っていく。

いまだぼんやりとした私は、とりあえずお水を一口飲んだ。

「…………さっきのアレ、本当ですか？」

「田村くんと相良さんに落とした爆弾？」

「……爆弾って自覚あったんですね」

「そうじゃないと落とす意味ないだろ。あの話は本当だよ。俺は割と顔が広い。各社の重役に知り合いが多いし、仕事でもプライベートでも、食事をしたり酒を飲んでる。だから色々聞くんだ」

「…………はぁ…………」

私は重たい溜め息をつき、テーブルに肘をつくと両手で顔を覆う。

「なに？　まだ好きだから、あんな事されたくなかった？」

私は顔を上げると、ぼんやりと夜景を見ながら小さく首を横に振る。