「……分かりません。混乱しちゃって。…………『ざまみろ』っていう感情と、同情する気持ちと、勝手にライバル心を抱いていた女性が不倫していて、…………安心、しちゃった気持ちとか、彼女を〝下〟に見る感情とか……。そういうのでグチャグチャになってしまって……」
私はうまく纏められない気持ちを、断片的に口にする。
尊さんは私の混乱など意に介さず、サラリと言った。
「これで〝仕返し〟にはなっただろ。一発盛大にやられたなら、こっちも一発やり返す。あとは深追いせずに、お互いの人生を歩めばいいんだ」
〝仕返し〟という言葉を聞き、私は眉間に皺を寄せて尊さんを見る。
「……こう言ったら自意識過剰みたいですが、……私のために?」
尋ねると、尊さんは眉を上げて微妙な表情で笑った。
「好きに解釈してくれ。重役と知り合いなのは本当。朱里から田村くんの話を聞いて、興味を持ったのも本当」
「……じゃあ、何が〝嘘〟なんですか?」
はぐらかす言い方が気になってさらに尋ねると、尊さんはスッと顔を近づけて囁いてきた。
「気に入ってる女が元彼に傷つけられたなら、再起不能にするしかないだろ」
「っ~~~~!」
――この人……。
まるで本当に私を好きなのか錯覚しそうで、私はとっさに目を逸らす。
けれど尊さんは私の顎を捉え、自分のほうを向かせた。
「素直になれよ。スカッとしなかったか? あの女が不倫してたって知って見下したし、安心しただろ? お前を振ってまで選んだ女なのに、とんだハズレくじでざまみろって思っただろ?」
……悪魔みたいだ。
彼の言葉を聞いて非難しようと思ったのに、心の底では「その通りだ」と感じていた。
「田村クンは朱里の良さを理解できなかったし、あいつはお前を幸せにできないよ。どうせ結婚したとしても、あらゆる意味で満足させられず、冷えた夫婦になるに決まってる」
「……ちょっと、性格悪いですよ」
堪らず窘めると、尊さんはニヤニヤ笑って言う。
「お前、俺を性格のいい男だと思ってた?」
「……欠片も思ってませんが」
褒め言葉じゃないのに、褒めてる雰囲気になってるのは何でなの……。
「多少性格が悪くなきゃ、大切なものなんて守れないんだよ。俺は好きになった女が傷付いてたなら、そいつを傷つけた相手にやり返して、問題が解決したあと自分で笑わせて幸せにしたい」
「……いつから私を好きになったんですか」
「ずっと前から?」
~~~~もう。ああ言えばこう言う……。
そのとき飲み物が運ばれ、とりあえず乾杯した。
シャンパンは炭酸が強めだけれど、口に入れるとフワッといい香りが広がった。
辛すぎもなく甘過ぎもなく、丁度飲みやすい味だ。
尊さんは満足そうに息を吐いてから言う。
「持論だけど、一方的に傷つけられて泣き寝入りするのはおかしい。やられたらやりかえせじゃないけど、『いつか罰が当たる』ぐらいのマインドだと甘すぎるんじゃないか? 田村クンがお前と別れようと思った時は、相応の理由があったんだろう。二人の間でどんな会話があったか知らないけど、朱里が『捨てられた』と嘆く様子を見てると、誠意のある別れ方をしたと思えない。……だから俺も多少腹を立てたんだよ」
彼は真面目な表情で言い、シャンパンを一口飲む。
「……ある日、『女として見られなくなったし、結婚できると思えないから別れよう』って言われました。……突然ではありましたけど、昭人の中では前から感じていた事があったんでしょう」
私は髪を耳に掛け、溜め息混じりに言う。
すると尊さんはソファの背もたれに身をもたれさせ、脚を組んで言った。
「これも持論だけど、男も女も、面倒を起こさないように上手な断り方を身につけるべきだ。敬意を持って別れられるように、付きまとわれないように自衛するために」
尊さんの言葉を聞いた私は、ジト目で言う。
「……尊さんは今まで大勢の女性を、敬意を持って振っていたんでしょうね」
「妬くなよ」
「妬いてませんよ。尊さんは美女とお見合いするんでしょう?」
私はツンツンした言い方をしつつ、内心で落ち込む。
(……嫉妬してるのバレバレだ)
私の心にズケズケと入ってきた彼と早くおさらばしたいのに、気になって仕方がない。
尊さんは「あ」と呟いてから、思いだしたように言った。
「母親からは、来年の一月下旬には相手の女性と正式に食事会をしろと言われてる。そうなる前に断りたいんだ。今月の下旬には片を付けたい。縁談を回避できたら、お礼に何でもご馳走するしプレゼントする」
「そんなのいいですよ。ご褒美目当てにやる訳じゃないんですから」
「じゃあ、俺の相手役をしてくれるのか?」
コメント
3件
↓↓もうこんなこと言われたら....🤭💓 惚れるしかないよね~😍💕💕
『気に入ってる女が元カレに傷つけられたなら、再起不能にするしかないだろう』 『素直になれよ』 あぁ〜言われたい🥹尊さんに🥹
🤭朱里ちゃん壁が崩されれきてるよ?(笑)😂💕