「おい──なんだそれは?」
それは……つまり、あのマイの状態は本心ではなく俺のスキルによってそうさせられたということか? 俺は、無自覚にマイを籠絡したとそういう事なのか?
「あの子の死にたがっていた所からの急激な甘えの態度はいささか常軌を逸していると思いましたので、失礼ながら調べてみたのです。そうするとダリル様からの魔術の痕跡があったものですから」
「それでは慈愛などという綺麗なものどころか、まるで洗脳ではないか……っ!」
人の心を無視してしまう悪魔のような所業だ。
「いえ、そうとも言えません。対象が確かに感謝して親愛の情というものを抱いたからこそ、それが増幅されたにすぎませんから。それにその根源には対象に対するダリル様の情があるのですよ。好きと伝えて好きと返されたようなものです」
「それをっ……それをスキルで強要するのは洗脳と何が違うと言うんだっ?」
ここに来て俺のしたことが最低の行いなのだと、そう告げられたようなものだ。
「ダリル様は少し潔癖が過ぎるところがあるのかも知れませんね」
「誠実でありたいと、そう願うことがいけないのかっ!」
人を騙して陥れるようなことは、俺はしたくない。それは俺が最も嫌う行いだからだ。
「人は……自分の想いや願いを好きに求める事が出来ない生き物なのですよ。相手がどう思うかとか、迷惑ではないだろうかとか、嫌われないだろうかとか、それなら我慢すれば良いとか」
ナツが指折り並べる言葉は、それこそが人が人である思い遣りの思考で行動だ。そしてそれが理性であり自由であることなんだ。
「あの子は、ダリル様のスキルが無ければ死んだことでしょう。誰にも必要とされないどころか、生きて帰れば周りが被害を被る。新天地に生きる気力などない、見知らぬ私たちに頼る気にもなれない。死んだことでしょう。その難儀な子どもの心を素直に引き出してしまったのがダリル様のスキルなのです。諦めの心を騙して引き出した素直な心と気持ちを向けられてダリル様は救っただけです。あの子は今、心の底から幸せそうですよ」
俺にはそれが正しい事なのかは分からなかった。不正を働いた様な気持ちは今もある。納得出来るかと言えばそんな簡単なことではない。ただ幸せならばそれを守ろうと、そう心に誓うしかなかった。
「上手くいったようよの!」
「ああ、なんとか、な。それで封印をこれから施すのにもう障害はないのか?」
幼女精霊女王は「ふむ……」と考えて、言いにくそうに切り出してきた。
「お主の……あれよ、エミールとかいうの。あれを封印の要とする。そのためにお主、短剣を作るが良い」
「いや、何を言っている? エミールはあいつは──」
「今1番深刻なのがあのホビットの子よ。即席の解呪など叶わない。なら同様に封印してこの精霊界で時間をかけて浄化するよりない」
「それはエミールを最初に助けられるということか?」
「むしろ逆よ。最後、封印の要といったであろう? あれを中央に据えてその周りから徐々に解いていく」
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