コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
というかその前に結べてないし。
「全然出来てないよ」
そう言うと『もう1回!!』なんて言いながら頑張っている。
好きな人の一生懸命な姿を見ると更に好きになってしまう。
『好きにならないで』と言われているのにも関わらず。
こんな変なところを頑張るんじゃなくて勉強を頑張れよと思いながらも、僕も挑戦してみる。
案外難しい。
口の中を畑葉さんには見せたくないため、
僕は鏡で必死に頑張っている。
そんな僕だが数分してから『僕、何してんだろ』と思えてくる。
そんな時
「見て!出来てるよね!!」
と言いながらまたもや畑葉さんは僕に舌の上のさくらんぼの茎を見せてくる。
だが先程とは違って、見事に結べていた。
「すごい、出来てるよ」
そう言うと
「やった!!」
なんて喜ぶ。
というか本当に
「舌でさくらんぼの茎結べるとキス上手いの?」
気づいた時には心の声がダダ漏れだった。
「試してみる?」
妖のような笑みをしながら僕の両頬を掴み、
そう言う。
「いや、ぇ…」
そう戸惑っていると
「冗談だよ冗談〜!!」
とからかう。
眉間に皺を寄せていると
「何?して欲しかった?」
なんて言ってくる。
「して欲しくない!!」
羞恥心からか、思わず大きい声が出てしまう。
あの後、2人して無言でさくらんぼを食べ続けた。
いや、無言だったのは僕だけだ。
畑葉さんは話しかけているのか独り言なのか分からないことをずっと言っていた。
「ね、古佐くんはこれ食べたことある?」
そう言って畑葉さんが指差していたのは超絶高かったザクロ。
「食べたことない」
あのさくらんぼ事件から口を聞いていなかった僕の口はようやっと今開く。
「もちろん私もない!」
「食べてみよ?」
そう言ってザクロを手に取った畑葉さん。
自分の口に運ぶのかと思いきや、
まさかの僕の口の中へ。
「どう?美味しい?」
「んぐっ、んぐぐ…」
「あ、ごめん!」
僕の口にザクロを押し付けていた畑葉さんの手が離れる。
息が出来なくて死ぬかと思った…
「それでどう?美味し?」
どうやら畑葉さんは僕の安否よりザクロが美味しいかどうかが気になるらしい。
とんだ悪魔め。
「美味しいよ」
確かにザクロは美味しかった。
プチプチと弾ける粒と甘みがある味わいが口に広がる。
ザクロって酸っぱいって聞くけどこんなに甘いなんて知らなかった。
いや、これも値段のせいだろうか。
「ほんとだ!美味しい〜!!」
頬に手を当ててザクロにメロメロになる畑葉さん。
「なんかイクラみたいでプチプチしてて楽しいね〜!」
どうやら畑葉さんはこのプチプチとした食感が気に入ったよう。
「ふ〜…食べた食べた……」
お腹をポンと鳴らしながら寝転がる畑葉さん。
「食べてすぐ寝たら牛になるよ」
そう僕が言うと
「え!?」
と言いながら起き上がる。
「牛は絶対嫌!!」
とも言う。
「そういえば今年の夏、スイカ食べなかったね〜」
「メロンも」
「そうじゃん!!食べたかった…」
「今売ってないの?」
「季節柄、売ってないと思うよ」
「え〜…」
秋。
寒くなってきた秋。
きっと冬の初めを告げる準備をしている。
初雪初霜が冬を告げた合図。
冬が終わって春が来て。
そして夏が来る。
「来年の夏に一緒に食べればいいじゃん」
そう励ましの言葉を言うが、
「来年…」
と畑葉さんは不思議な間を空けるのみ。
「そういえばさ学校で聞いたんだけど!」
「初雪が降る前って雪虫が飛ぶの?」
「うん、飛ぶ」
「そうなんだ!!絶対見たい!!」
雪虫なんぞではしゃぐ人って居るのだろうか。
研究者や虫好きくらいじゃないだろうか。
そういえば前々から気になってたけど、
あの丘の上に生えている大きな桜の木。
仄かに光ってる気がするんだよね。
朝はよく見えないけど夕方くらいになると見えやすいっていうか…
そんなことを考えて唸りを零していると
「何?考え事?」
と畑葉さんが聞いてくる。
「うん、まぁ…」
とあやふやな返しをするも、
冬になると綺麗になるんじゃないかと考え事は続く。
樹氷も付いて更に木の幹が仄かに光るのを冬に見たらきっと綺麗。
蛍雪のようで綺麗に見えると思う。
そう『綺麗』を心の中で連呼する。
それよりも冬が来るということはクリスマスもやって来るということ。
畑葉さんとクリスマスデート…
独りでそうはしゃいでいると
「なんでニヤニヤしてるの…」
と引き気味な畑葉さんの声が聞こえてくる。
「もう夜だから寝よっか!!」
そう言って布団へ潜る。
この後の妄想は畑葉さんが寝てからにしよう。
そう思ったから。
畑葉さんは疑いの目を僕に向けながらも眠りに落ちた。
早い段階で寝息が聞こえてきたからだ。
冬が訪れるということは嬉しいこと。
なのにも関わらず、
何故か僕の胸はチクチクと痛むばかりだった。
畑葉さんが消えてしまいそうで。
どこかへ行ってしまうんじゃないかって。
不思議とそう思ってしまった。
嫌な不安だ。
そんな不安を打ち消すように僕はいつもより布団に潜り込み、眠りに落ちた。