ファミレスを出ると、夜の空気が少し冷たくなってた。
駅までの帰り道、
俺とるかは並んで歩いた。
るかは、さっき食べたパフェのカップを両手で抱えるように持って、
ストローをいじりながら、前を見てた。
別に、何を話すでもない。
だけど、
ふいに、るかがぽつりと口を開いた。
⸻
「……小さいころ、アイスとかあんま食べさせてもらえなかった」
俺は驚いて、
るかの顔をちらっと見る。
るかは、前を見たまま、
かすれた声で続けた。
「甘いもの、食べたら怒られてた。太るからって」
「……」
「別に、今さら気にしてないけど」
るかの声は、淡々としてた。
でも、
その肩が、少しだけ小さく見えた。
⸻
俺は、何て返したらいいかわからなくて、
手をポケットに突っ込んだまま言った。
「……好きに食えばいいだろ。誰も文句言わねぇし」
るかは、
一瞬だけ俺を見て、
すぐに目をそらした。
「……うん」
それだけ。
でも、
その声は、ほんの少しだけ、あたたかかった。
⸻
信号待ち。
赤信号を見上げながら、
るかはまた、ぼそっと言った。
「……あたし、わかんないんだよね」
「何が」
「……どうすれば、普通になれるのか」
⸻
信号が青に変わる。
俺は、
そのまま答えず、歩き出した。
普通なんか、別に、なれなくてもいいだろ。
俺はそう思ったけど、
たぶん、今ここでそれを言うべきじゃない気がして、
何も言わなかった。
代わりに。
歩きながら、
るかの袖を、無言で軽く引っ張った。
るかは驚いた顔をして、俺を見た。
⸻
それだけ。
何も言わない。
でもたぶん、それでよかった。
二人で、
並んで、駅まで歩いた。
夜風が、すこし冷たかったけど、
心は、少しだけあたたかかった。