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#怪異
イキリ火の玉
946
梶が向かったのは奥原の家だった。今回はノックをして中に入る。奥原は来るのを予想していたのか二人の分の湯飲みを準備していた。
「あれはいつまでやるつもりなんだ?」
囲炉裏の近くに座った梶は相変わらず湯飲みには手をつけずに訊いた。
「死ぬまでじゃ。いや、勘違いしないで欲しいんじゃが、ああすることで一人の生け贄で長い時間を稼げるんじゃ。けして喜んでやっているわけじゃない」
とてもそうは思えなかったけど努は口を挟まなかった。
「なるほど、あっさり殺してもすぐに次の生け贄を要求されるわけか」
「そういうことじゃ」
「あの儀式の時の言葉や動作はどんな意味があるんだ?」
「意味はしらん。ワシも伝わったものを真似しているだけじゃ」
そのあとも2~3質問をしたが結局たいした情報を得られなかった。梶は奥原に礼を言って家を出ると集会所に向かう。努も着いていった。
「長岡、どう思った?」
「率直にいって、あの人らは拷問を楽しんでいたなと」
訊かれるのはわかっていたのですぐに答えた。
「そうだな。呪文や動作については?」
「……わかりません。呪文自体は生け贄を捧げるので許してくださいってニュアンスだと思いますが」
「あの呪文や拷問に意味があるのか……」
梶の言葉は自分に言い聞かせているようだったので努は黙っていた。
「お前は集会所に戻っていろ」
梶はそう言って拷問屋敷のある広場に向かった。何となく梶がいないのは嫌だったが仕方なく集会所に戻るとすでに夕食の準備が出来ていた。
夕食を用意したのはまた少年二人で準備が終わって集会所を出ようとしていた二人にちぃこが楽しそうに話しかけていた。
努は出来るだけ周りに人がいない場所で食事をした。ほとんど野菜で何かの肉が少しだけ入った鍋は相変わらず薄味だったが温かい料理はそれでも美味しく感じた。
安田も沢村も旺盛に食べていた。沢村は島のことがあって昼はあまり食べていなかったから腹が減っていたのだろう。
親分は文句を言いながらも一番食べていた。少年二人が集会所を出て行くとちぃこは安田の隣に座って野菜だけを少し口にしていた。
食事を終えてしばらくするとミサと木村が戻ってきた。たいしたもので二人ともちゃんとした服装で何もなかった顔をしている。
「おう、ミサ、どこに行ってたんだ?」
「ちょっと体を拭いてきたのよ。木村ちゃんには覗きを見張ってもらっていたのよ」
「そうか。おう、ガキ。ミサにもメシを作るよう村人に言ってこい」
なんで自分が……そう思いながら努は奥原の家にいった。事情を説明すると快く引き受けてくれた。食料に余裕なんてないだろうにと思いつつ断られたら親分になにを言われるかと怖かったので内心安堵の息をついた。
ミサたちが食事を終えた頃に梶が戻って来て親分となにか話している。ちぃこは安田と楽しそうに話していた。沢村は沈んだ顔で壁を背にして座っているが夕食はしっかり食べていた。
「陽が沈んだなー」
努は窓から外を眺めて一人言のように言った。窓といってもガラスはもとより紙もほとんど手に入らないので格子窓を板で塞いでいるだけのものだ。板を左右に動かせば外すことが出来るが夜の冷たい空気が入るのですぐに板で塞いだ。
ふと、村人はまた消えたのかな? そんな考えた頭をよぎった。そのときドンドンと激しく扉を叩く音が響く。
「誰だ?」
親分が不機嫌そうに訊いた。努も含めヤクザ側の人間は全員集会所にいるので来訪者は村人だと思いながら返事を待った。
「ああああああっ!」
返事は叫び声だった。
「……島だっ!」
沢村は立ち上がると小走りで玄関に向かい扉を一気に開けた。
扉の前にいたそれは……赤い人間だった。顔も体も全身の皮膚がない。囲炉裏の明かりだけの薄暗い中でも肉を剥き出しにした体は固まった血で赤く染まっているのが見えた。
赤い人間はフラフラとした足取りで中に入ってくる。髪のない頭も頬も鼻も総ての皮を剥ぎ取られているが目は見えるようでギョロっとした目で沢村を見つめながら抱きつこうとした。
「あっ……来るな……て、てめ……」
強面の沢村も怯えて飛び下がった。
「ぁー……沢村……助け……」
消えそうな声は聞き覚えがあった。島だ。森に入って行方不明になった金髪リーゼントの島だ。島は2~3歩進むと急にガクリと膝を落としてその場に崩れ落ちた。
「ウソだろ? 本当に島なのか?」
沢村は遠巻きに声をかけるが島は口から泡を吹いてビクビクと震えている。梶は沢村の後ろから冷静な目で観察していた。
「おい、木村、村長か誰でもいいから村人を呼んで来い」
梶が命令すると長髪の木村がすぐに外に出て行った。
「おい、島、何があった?」
梶は島の耳元で呼びかけたが島はビクビクと痙攣するだけ。
「沢村、水だ。水を持ってこい」
「は、はい」
沢村は茶碗を水瓶につっこむとそれを梶に渡した。梶は茶碗を受け取ると島の顔にかける。
「ぅあっ!」
ビクリと震えて島は意識を取り戻す。
「何があった?」
あくまで冷静に問いかける梶に努は恐怖を覚える。人が……仲間がこんな状態になったのにどうして冷静にしていられるのだろう。そう思った。
「か、梶さん……森に……化け物が……痛い……」
「どんな化け物だ?」
「猿……手が……ぁぁぁ……」
島はビクビクと痙攣すると白目を剥いたまま動かなくなった。しばらく揺すったり再び水をかけたりしたが今度は意識が戻らなかった。
「チッ、安田、端っこに寝かせておけ」
梶は不機嫌そうに命令すると巨漢の安田は嫌そうな顔で島を持ち上げてぼろい布団の上に寝かせた。生きているのか死んでいるのか島は横たわったまま動かない。
梶は何かを考える様子で島を見ている。親分と沢村は呆然としていた。ミサは暗がりでもわかる楽しそうな顔で島を見ていた。内股でもぞもぞしているのでまた興奮しているのかもしれない。
そしてちぃこは……島ではなく努を見ていた。努の視線に気づくとニコッと微笑む。愛らしい顔だが得体の知れない恐怖を感じた。
コメント
1件
いや、今回のラストはガチでゾッとしたわ……。島が全身の皮剥がれて戻ってくるって、文字だけでこんなに怖いのは久しぶり。奥原の「拷問を楽しんでる」って違和感も効いてたし、冷静な梶と楽しそうなミサ、そしてちぃこのヌって微笑みが重なるところがもう不気味すぎる。次の18話、森の化け物の正体が見えてきそうで楽しみでもあり怖くもある🔥