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「ダメです、誰もいませんでした」
しばらくして戻って来た木村は肩で息をしながら報告した。やはり夜になって村人は消えたのだ。
「オヤジさん、村の様子を見てきます。長岡、お前も来い」
梶は親分に頭を下げると努を呼んだ。努も血生臭い部屋から早く出たかったからすぐに着いていった。
「村人が消えた理由。長岡、説明してみろ」
歩き出してすぐに梶が訊いてきた。
「え? えっと……」
実は昼の間にそのことは少し考えていた。
「あくまで想像ですが、夜は世界が分かれているということでしょうか?」
「世界か。なるほど」
「世界は三つあると思います。一つは元いた外の世界。二つ目は村人の世界。そして三つ目はいま僕らがいるこの世界です」
「元の世界、昼の世界、夜の世界の三つか。昼の世界だけ村人と同じ世界ということだな」
「そういうことだと思います」
「なるほど……チッ、まずいな」
「え? 何がですか?」
梶は答えずに奥原の家に向かってしばらく歩いた。そして家が見えたところで足を止める。
「島をああした妖怪について、なにか思いあたることは?」
「それは……猿とか手とか言っていましたが……」
メガネの奧の鋭い目つきを向けられて努は緊張しながら答える。
「皮膚を剥ぎ取る猿、そんなところか」
「そう……ですね」
複数の猿が群がり皮膚を剥いでいく。あまり想像したくない光景だった。
二人が再び歩き出すとまずは奥原の家の中を確認してから拷問屋敷や他の家も何軒か回ったが、やはり村人は誰もいなかった。ただ昨夜と同じように人がいないだけで生活感はどの家にも残っていた。
「やっぱりいないですね」
「いないというより見えないということか。これで家を燃やしたらどうなるんだろうな」
「それは……」
興味はあったけど住人が焼け死ぬかもしれないと思うとやる気は起きなかった。
「とりあえずお前が消えないところを見ると食事は関係なさそうだな」
「ええ……まあ……」
努は喜んでいいのかわからない微妙な顔で答えた。
一通り村をまわって集会所に戻ると外からでも親分の怒鳴り声が聞こえた。
「戻りました」
梶は険しい顔で中に入る。
「梶、てめえ! いつになったら村を出られんだよっ!」
「すみません。まだわかりません」
「ふざけんじゃねーぞ、てめえっ!」
まったくの八つ当たりだがこれがヤクザの上下関係なんだと努は冷静な目で見ていた。
一時間くらい怒声が続いてミサがなだめる事でようやく落ち着いた親分はミニバンで寝ると言ってミサと木村を連れて出て行った。
親分が出て行くと沢村と安田はあからさまにホッとした表情をして梶に睨まれていた。頭も悪くて短気でも親分に忠誠は誓っているのだなと少し感心した。
#怪異
イキリ火の玉
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コメント
1件
「夜の世界」「昼の世界」の仮説、なるほどなあって思いました。世界が三つに分かれてるっていう発想、面白いです。そして皮膚を剥ぐ猿のイメージ、想像するだけで背筋が冷えます……。親分の怒鳴り声も生々しくて、閉塞感がひしひしと伝わってきました。続きがすごく気になります。