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尊さんの実父だから、できる事なら憎みたくない。


本人だって『悪い事をした』と思っているだろうし、尊さんに申し訳なさを感じていると思う。


一月に怜香さんが断罪されたあと、亘さんは社長を辞任する事も受け入れたし、今後妻に向き合っていく覚悟も決めた。


でも、彼の過ちが引き起こした不幸はあまりに大きすぎ、色んな人の運命を狂わせ、悲しみを生んだ。


何度だって〝たられば〟を考えてしまうけれど、すべてなかった事になれば、尊さんは生きていない。


(……でも、さゆりさんが『悪い事をした』って思う必要はないんだよ)


心の中で呟いた時、それまで事を静観していた将馬さんが口を開いた。


「結果的にさゆりは篠宮さんの浮気相手になり、世間的に褒められた立場にないだろう。……だが私たちから見れば、好きな人と一緒になろうとすべてを捨てて決意したのに、捨てられてしまった可哀想な子だ。まじめで優しい子だから、自分を責めてそう考えるようになってしまったのだろう。……だがさゆりがそう思う必要はないんだ」


彼がしんみりとした声で言ったあと、誰かがズッと洟を啜った。


少し経ったあと、尊さんは微笑んで言った。


「……良かったらこれからは祖父母として接していただけたら嬉しいです。母と妹の分、俺に孝行させてください」


彼の言葉を聞き、百合さんと将馬さんは微笑んで頷いた。


「喜んで。私たちにも孫を大切にさせてちょうだい」


そのあと、尊さんが「仏壇に手を合わせてもいいですか?」と言い、百合さんは私たちを仏間にいざなった。


和室には立派な仏壇があり、天井近くには恐らく亡くなった頃のさゆりさん、あかりちゃんの遺影があった。


「ちえりが写真を撮ってくれていたの。当時は私に叱られると思ったのか何も言わなかったけれど、写真があって本当に良かったわ。……あかりにも会ってみたかった」


大きな座布団に正座した百合さんは、線香に火を付けて香炉に立て、おりんを鳴らす。


そのあと手を合わせて娘と孫に拝み、尊さんに場所を譲った。


ジャケットの内ポケットから数珠を取りだした尊さんは、しばらく手を合わせて遺影や位牌を見つめていた。


それから丁寧に線香に火を付けて香炉に立て、おりんを鳴らして手を合わせる。


私は彼の斜め後ろに座り、周囲の空気を震わせる音の余韻を聞きながら、正座した尊さんを見てからお二人の遺影を見上げた。


――やっとここまでこられた。


私は彼のスッとした座り姿を見て、そう感じる。


好きな人と結婚の意志を固めたあとは、両親への挨拶になる。


けれど篠宮家では怜香さん絡みで大きな騒ぎになり、速水家ではさゆりさんが勘当されていた。


(これで結婚に向けて一歩進めたのかな。あとは指輪をちゃんと決めて……)


ハイジュエリーブランドのお店を思い出した私は、無意識に溜め息をつく。


どれも素敵だけど、一生身につける物ならちゃんと選ばなければ。


二人で協力してはじめて婚約、結婚ができるんだから。


尊さんは長めに礼拝していたけれど、やがて静かに座布団の上からおりて私に場を譲ってくれる。


私もお墓参りのために持ってきた数珠を手に輪をかけ、線香に火を付けて香炉に立ててからおりんを鳴らした。


線香の香りがくゆる中、私は静かに目を閉じる。


(さゆりさん、あかりちゃん、ここにお参りする事ができて本当に良かったです。きっとお二人とも、ここから百合さんと将馬さんの事を見守っていたかと思います。百合さんは本当は怒ってなんてなかった。亡くなったあとに知るのはつらい事だけれど、親子ですからきっと心の底では分かっていたのではないかと思います。どうかこれからも速水家の皆さんを見守り、尊さんと私の事もお守りください。……〝次〟の世代に繋げられるよう、子供ができた時はその子もお守りください。その時は必ずご挨拶に来ますね)


私は最後に顔を上げると、二人の遺影に微笑みかける。


それから座布団の上から膝をずらし、百合さんに頭を下げた。


「……何か甘い物でも食べましょうか。ついまじめな話になりがちなのは分かっているけれど、楽しい話も聞きたいわ。良かったら二人の事や結婚についても教えてちょうだい」


「はい!」


笑顔になった私たちはまたリビングに向かい、小牧さんたちがすでに用意してくれていたケーキと温かい紅茶をいただく。


「尊くん、今からでもいいから、どんどんお祖母ちゃんの事を知っていくといいわ。お祖母ちゃんはね、栗のお菓子が好きなの。それからわらび餅や葛きりとか、プルプルしたのも好きよ」


ちえりさんに言われ、尊さんは「覚えておきます」と微笑む。


「お祖父ちゃんはシンプルにショートケーキが好きよね。あとお団子も好きだわ。あっ、二人とも最近は加齢と共に魚ばっかり食べてるから、私たちは積極的にお肉を食べさせてるの。でもサシのあるのはもたれるから、赤身ね」


小牧さんはそう言うと、シャインマスカットのショートケーキをパクパク食べる。


と、百合さんが言った。

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